序章 第二話 作戦会議
光が言っていた者とは、彼「矢澤英次郎」だ。(もっとも、この名前すら本名かは怪しい)
「頼みがある。この牢獄?の間取り....設計図が欲しい。渡してくれないか?」
「一体、何に使うつもりですか?用途が分からないと渡せません。あまり貴方のことを疑いたくはありませんが、万が一のため…」
「理由の説明がてら、一旦状況の整理をしよう。」
それぞれの改めての自己紹介と、設計図を何に使うか、何のためにここから出るのかを説明した。
「なるほど…分かりました。ここの間取りは全て秘密裏に書き写していましたから、存分に活用してください。」
「ありがとう。この図があったら、作戦も簡単に練れそうね。」
まず地下一階、そこにはこの牢獄を管理している人たちの詰所や寮のようなものがあり、正攻法で地上に出るには必ずここを通らなければならないため、非常に困難である。
そして地下二階。その階には食堂及び厨房がある。特別な子達のみそこにアクセスできるようになっている。
「今俺たちがいるのは、地下四階か。予想以上に深いな。」
「まだ下もあるみたい。これは…何だろう?」
地下五階。英次郎も描き忘れたのか、はたまたまだアクセスしたことがないのか。ざっくりとしたスペースのみ描かれているが、それなりに広い空間となっている。
「地下五階の、この部分はなぜほとんど何も書かれていないんだ?」
「すみません…その場所だけが原本にも書かれていないので、一度アクセスしてみようと試したことはあるのですが….」
地下五階は他の階と比べても監視の目が多く、例え入り口まで辿り着けたとしても、認証が何重にも掛けられているそうで、英次郎自身も悪戦苦闘の末、見つかる前に諦めたそうだ。
「なるほど…確かに厄介そうだ。」
「でも、どうせここから出るなら、ここで起こったことを暴露してあげるのがいいわよね…」
確かにその通りかもしれない。というのも、我々だけじゃ全員を始末するのはまず不可能だからだ。この空間は広い上、職員一人一人がそれなりに強いので、エリスはともかく他二人は戦闘能力は皆無と言っていいレベルでしかなく、そのような状態で戦闘を進んでするようなことなど、よっぽどの命知らずか戦闘狂以外あり得ないからだ。
「ここから出た後に、警察やその他勢力に相談すればこの組織を壊滅に追い込めるかもしれませんし。」
「じゃあまずは、どうやって外に出るかだ。」
一つは正面突破。これはあまり現実的な策ではないが、一番単純な方法だ。通常時に使う階段を使って見つからないように駆け上がるというものなのだが、実際にはそう簡単にはいかない。なぜならば、その途中途中には監視カメラが設置されており、それに収容者が映れば必ず組織の人間に捕まるからだ。
二つ目は普段使われない非常口を通じて上に一直線に上がる方法….だが、どうやらここの非常階段や非常用梯子等はなぜかそこの管理者しかアクセスできない仕様となっているらしく、これもあまり現実的ではない。
また、一応ダクトを通って抜ける方法も考えてはみたものの、そもそもダクトに通じる場所が見張りの多い場所に限られていて、非常に危険だ。
「うーん…どうやったら監視を避けながら地上に出ることができるんだろう….」
「あまりこれも現実的な策ではないとは思いますが、もう一つ策はあります。」
「なんだ。いい策があるのなら最初から出せばいいじゃないか。」
「では、その策を行動時にお教えします。」
その策とは。まず、一人を捕まえて人質にする。できれば地下五階にアクセスできる人間の方がいいが、そうでなくともある程度の発言権のある人間を捕まえることができれば、あるいはと言ったところだ。
「おい、見張りがやってきたぞ。」
「まだです…近くに来るまでは普通に過ごしているフリをしなくては…..」
「まだか?」
「後もう少し近づいてくれれば….そうだ!エリスさん、ちょっといいですか?」
「何?」
何か喧嘩をしているフリを誰か一人がして、それを近くの見張りに密告するという演技だ。そうすれば、自ずと彼らが近づいて来てくれるはずであり、そうすれば我々がその隙を突いて拘束するのも簡単だ。
「おい、お前は脱獄する気が本当にあるのか?」
「当たり前じゃない!ここまで来て諦める人なんているわけないわ。」
「そうか…やはりお前は無謀なやつだったようだな。そんなやつは俺がここであの世へ送ってやるよ!」
「おい!何をしている!貴様らは貴重なサンプルなんだ。争うのはそこまでにしろ」
「ふっ 掛かりましたね。」
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してよね! 心身絶技 衝撃」
見事に命中したこの技は、術の対象を数分間だけ気絶させる技である。どういう理屈かは分からないが、おそらく名前の通り衝撃を与え、意識と体を一定時間だけ切り離すようなものなのだろう。
「よし。拘束完了。」
俺は素早く男の身柄を拘束した。実に見事な縛り方だった。かなり久しぶりに少し喜びを感じた。自分の才能に震えている。
数分後、男の目が覚めたようで、そこから尋問と交渉が始まった。
まずは、一体この牢獄でどんなことをしているのか。この牢獄の最終的な目標は何なのかを問う。
「この収容所の名前は…ASMIC 特に何かの略というわけではない。しかし一応日本語の名前もある。」
「なんだ?」
「因感情魔力波実験施設 通称 M&Eだ。」
魔力?一体何のことだ?この世界にそんな名前の概念が実在するというのか?そもそも魔力って一体なんだ?
「魔力って、あの魔法を使うためのエネルギーよね?」
「ああ、そうだ。何かの出来事によって感情は変化する。その感情の変動に応じて、あるいは周りの環境によって人は魔力を扱うことができるようになる、というのが我々のこれまでの実験結果だ。」
その実験というのは、記憶を操作して本人に正負の感情を植え込んだり、あるいは感情自体の記憶を改ざんして狙いの感情のみ脳内に存在するようにしたりなど、人道的に問題が多すぎる実験だ。
そして、それによって植え込まれた感情によって、場合によっては魔力を獲得する可能性がある。
しかしその条件は厳しく、過去に命の危機に晒された人間や、その他素質がなければまず魔力を獲得する可能性は限りなくゼロに近いという。
幸い、そのような人間はごく少数なため、普通の人間であればこの組織に捕まるようなことはあり得ない。
「じゃあ、私たちは過去のいずれかの時点で命の危機に瀕する、あるいはそれに準ずる状況に遭ったことがある。ということですか。」
「それも必ずというわけではないらしい。現にA128番…エリスにはすでに魔力が備わっていて、ある程度高度な魔術まで扱えるようだからな。」
「え?これ魔法だったの?生まれた時から知ってたから、みんなできるものだと思ってた。ていうか…ここも人を数字で呼ぶ組織だったの?これは許しちゃだめね。」
「意外なところに拘りますね。」
「魔法ではない。正確には魔術だ。区別する必要がある。」
魔法というのは、現実の理を超えた超常的な現象(例えば、新たな世界を創造する、夢の世界に介入するなど)を膨大な魔力と巨大な魔法陣、大量かつ極めて高度な魔術式を使って実行するものらしい。
一方で魔術は、現代科学でも特定の機器や条件が揃えば可能なものを、魔力さえあればいくらでも実行することが可能にするというものらしい。実際、昔は魔術で治していた怪我も、現在は様々な方法で治療することができる。
「そんなものが存在したなんて…信じられません。」
「大体ここを使って何をしてるのかはわかった。最終的な目標はともかく、非人道的と言われるようなことが起きているのならば、ここを制圧するのは急務だ。」
「そうね。さっさと子供達をここから逃してあげましょう。」
「あ そういえば、お前 この地下五階へのアクセス権は持っているのか?」
「我々の理念を継いでくれのならば、一緒に脱獄の手伝いをしてもいい。もちろん、地下五階にはアクセスできる。私がその研究所の管理者だからな。」
じゃあもう決まったようなものだ。地下五階を始めあらゆる重要な施設を証拠が残るように制圧する。
「M&E 脱獄作戦、開始だ。」
序章の前半では、登場人物の名前が本当かは分かりません。
少なくとも、第一章までは真の名前は判明しないかもしれません。(断言はしない。)




