第一章 第十二話 実践訓練/情報解析
ハルトとレクスは、神社で回収した謎の通信機器を解析するとともに、スクリプターと対峙したという情報を伝えるために、夜明邸へと帰りに行く。そしてエリス側もいったん学校での調査を切り上げ、拾った宝石の情報を解析させるために、皆の元へと帰る。一方その頃、ライトたちは魔力増幅装置の使用方法を確かめながら、実践訓練をしようとしていた。
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「チュートリアル……チュートリアル…これか。」
矢印のようなUIをタップすると、チュートリアルのためのウインドウが現れた。
[チュートリアルを開始しますか?]
「….はい。」
YESの項目をタップすると、チュートリアルが開始される仕組みになっている。しかしその前に、いくつか確認しろと言うやものである。まず、周りに人がいないか確認する。ある程度強い人であれば良いが、一般人が近くにいればそれに危害が及ぶ可能性があるため、なるべく人がいないところで行うべきであると書いてある….
「確認……」
次は、周りに標的を用意すべきであると言うこと。十分に丈夫な攻撃対象を用意して、そこに攻撃を叩き込むことで、攻撃魔術の操作を身につける。
「標的…..何がいいかな?」
ライトはアイリスに聞いた。
「これでも使いなさい。訓練用の人型の魔偶よ。」
魔術で作り出した、人型をした、訓練用の人形…魔偶。それは、低レベルなものであれば少し強い一般人程度であるが、高いレベルになると、戦車でも苦戦するレベルの力を持ったりもするほど、強さはおおかた自由にカスタムできる。今回は、この魔力増幅装置の動作のテストと、実践訓練をしたいだけなので、まずは棒立ちの防御力の高いただの人形からスタートする。
「まずは…魔力を体に纏わせることからスタートしましょう。次へを押してみて。」
ライトは、目を閉じて、体の奥に集中する。そこからほんのりと感じる、闘志….それを、体表に引き摺り出す感覚….それをしてみると、ライトの体の周りに、炎の、赤い魔力が目にみえるようになった。周りは少しだけ暖かく、攻撃対象以外には、むしろ癒されるような、そこにあるだけで安心するような、そんな魔力である。
「これで….いいのか?」
炎の魔力を纏うと、ライト自身の体が少し軽くなったように感じた。これは、温度が高いものは体積が大きくなり、密度が下がると言う性質のせいなのか、炎の魔力で身体能力が向上されたのか….と考えているうちに答え合わせが横から入った。
「炎の魔力の基礎効果は、攻撃力の向上。試しに、攻撃してみなさい。」
アイリスが、魔偶を指差して言った。アイリス曰く、一度魔力を纏ってしまったらあとは、その使い方をイメージして、それを外に表すように念じながら動けば、勝手にそのようになるとのこと。もちろん、できることとできないことはあるけれど。まずは….正拳突きでそれを攻撃してみる。重心は低く、衝撃がまっすぐに伝わるように、全身の力を乗せながら、突く。
「…..何だこれ….」
ライトが力一杯攻撃すると、少し焦げたような匂いがしたあと、すぐにその魔偶は再生し、最初から何も攻撃されていなかったかのようにそこに立っていた。しかし、倒すのが目的ではなく、あくまでも能力がしっかり発動できるかを試したものであるから、結果的には成功である。
「これで一旦魔力を操作するコツを覚えなさい。」
アイリスはそう言って、家の中へ戻っていった。ライトは、その後もルーエの監視のもとで、魔術の操作訓練を行う。例えば、蹴り。脚に炎を纏って、回し蹴りを放ってみる。すると、炎の魔力が魔偶の体表面で爆ぜ、魔偶の大部分が焦げる….しかしそれも一瞬、直ぐに魔偶は備えられた魔力を利用して直ちに修復される。
低級であれ、何度破壊されても戻るという点で言えば何も変わらない。まるで、触ったら溶けてまた再生するシカクナマコの様に…いや、あれは生物であるし、再生するには時間がかかったり、あるいは負担がすごいらしいので、そういうわけにもいかないが。
「…….炎の弾を作ったりできないか….」
手のひらに熱を送り出すイメージをする….そしてそれを念じながら見る….すると、炎の弾が少しずつ現れていく….最初はビー玉ほどだが、それがだんだんと大きくなり、野球ボールほどのサイズとなる。
それを….掴めないが掴むイメージを持って、魔偶に投げる。
すると、蹴りの時と同じ程度の攻撃力が発揮された。しかも今度は、間合いには届かないほどの、遠くからだからこっちの方が自分が攻撃されるリスクを減らせていいのかも知れない。
それを練習する…1発目よりも2発目….2発目より3発目….少しずつ精度とスピードが上がっていく。
さらに、それらを重ねていくうちに、炎の魔力が体に馴染んでいく。それは現在進行形で能力を我が物へと昇華させていっているということだ。
「……何だか強くなってる気がする…..いや、確実に力が湧いてきてる….」
今度はもう一度、体術での練習に切り替える。手刀に炎の魔力を乗せた、炎舞のような攻撃や、炎の身体能力上昇を使って純粋な物理攻撃を叩き込むなど、多くの攻撃パターンを試した。
気づけば夕方になっていた。時間を忘れて特訓をしていたせいだろうか、疲労が溜まっていたし、腹も減っていた。
「本日はここまでにいたしましょう。」
ルーエが訓練をひとまず切り上げた。そして、ライトとルーエが庭から家の中に入ろうとすると同時に、門のインターホンが鳴った。振り返ると、エリスが少し顔を明るくしてそわそわしながら、両手でバッグを持っていた。
ルーエが門を開けにいく。しかしエリスの目線はルーエを全く捉えず、ただライトが家に入っていくのを目で追っていた。
「おかえりなさいませ。お荷物….お持ちいたしましょう。」
ルーエがエリスの持っている鞄を持ち、エリスと一緒に家に入る。エリスは手を洗った後、ライトがいるリビングに行った。
「お エリス、おかえりー」
ライトがその一言を掛けるだけで、エリスの心拍が若干速くなる。本当にわずかな差だが、本人はそれが何であるかをわかっている。しかし、エリスは今それどころではないことは自分にもわかっている。だから、直ぐに本題に入る。
「これ….なんか宝石みたいなのを学校で見つけたんだけど….心当たりとかある?」
エリスが鞄から取り出したのは、学校の庭などで拾った謎の宝石のようなもの。それは、不思議な色合いと輝きを放っていて、どこか危なくて、でも見惚れてしまうようなそんな見た目をしている。そしてそこには、魔力がこもっている。気持ち禍々しいような、歪んでいるような….まるで、悲しみを背負い続けて壊れた人間の魔力のようである。
「…….悲しそう…..」
エリスは小声でそう呟いた。そこには同情の目なのか、哀れみの目なのかはわからないが、少し眉を下げて、目が少し潤んでいた。どうしてかはわからないが、共感してしまうようだ。
「ん?…..確かに。」
少しその宝石を卓に置いて、様子を見ていると、レクスとハルトが何の前触れもなく家へと飛び込んできた。1秒でも無駄にしたくないと言わんばかりの動きで、ただいまなどの挨拶もなく、直ぐに方向転換して地下へと向かっう….直前に卓に置かれている宝石に気付き、それも素早く手を伸ばして掴み、他の材料と同じ場所に仕舞い、地下への階段へと降りていく。
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「おい….これ早く解析した方がいいぞ….」
レクスが珍しく慌てていると言うよりかは、可及的速やかに行動したいと言う欲求をあらわにしている。それほど衝撃的、あるいは重要な手掛かりとなっているのであろう。もしかすると、その戦局の勝敗に対する決定打になり得る可能性もある。
「イーグル…これ解析しろ。」
イーグルに例の通信機器を渡す。イーグルは少し警戒したが、事情を察したのか、直ぐにコンピュータにデータを読み込ませた。出てくるのは大量の音声ファイルと、テキストファイル。それを開くと、ライトやリオンハルトの情報があった。普段どのようなルーティンで過ごしているのかや、そもそもの個人情報などなど、全てを網羅されていた。
「これは…..一体どうしてこのようなことを….」
さらに、今度は音声ファイルを開く。すると、出てきたのは持ち主の名前と、謎のやりとり。叱責されているわけでもなければ、特に冗談を言い合ってるわけでもない、ただの仕事のような、そんな会話。
「魔王様….ご報告をいたします。勇者リオンハルトという人間の本名は、石動遥斗というようです。」
スクリプターと思われるものの声が流れた。恐怖からではなく、尊敬からの忠誠のような、芯のある声。
「そうか…で、それだけか?しかし、本名が分かっただけでも収穫と言えよう。ありがとう。」
…..そう言ってまた通信の音声は切れた。




