第一章 第十一話 学校の不可解事件
レクスとハルトはスクリプターとの戦いを終えて、家に向かっている途中、エリス以外の者たちは家の庭で魔力増幅装置の動作テストをしていた。一方で、エリスはというと、学校の放課後、校舎内を回り、事件に対する有力な手がかりがないかを探していた。
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「さあ….始めましょう。」
その一言で、エリスは学校生活との気分の切り替えをして、事件の調査に挑む。このようにしないと、やる気が出ないようだ。校舎の中からは吹奏楽部などの、楽器の音が聞こえてきて、一方でグラウンドからは運動系の部活の人々の声が響いてくる。エリスはその声に少し心を落ち着けながら、調査に専念する。
まずは、校舎の中、その中でも電気設備等を管理をするための部屋の中を調査する。管理という形で潜入するのだ。
先ずは、その部屋の電気をつける。そうしなければ、まあ何も見えないので仕方がない。そして、少しは管理をしている素振りをする。データの値を照会したり、あるいは電気設備に損傷がないか確認したりなど。
しかし、エリスにとってはそれが全て調査に直結する。
「何もないわね….行きましょう。」
エリスはそう心の中で呟いて、変に怪しい痕跡を残さないように、入念にチェックしてから、その部屋を後にしようとした….その時であった。エリスの視界の端で何かが紫色から黒色の間のような色に光った気がしたのだ。
「ん?何?」
エリスはその光が放たれた方向へ向かう….すると、地面には宝石状の何かがあった。
「宝石…?」
それは、アメジストのような、あるいはもっと何か….黒曜石のような、美しく恐ろしいような輝きすら帯びていた。そしてそこからは…謎の魔力の波動が感じられた。エリスはそれを凝視する。安全なものか、今すぐ持ち出したり、破壊すべきものなのだろうか….
「….アイリスに調べてもらいましょう。」
そう言って、その宝石のようなものをポケットの中に入れて、その部屋を後にした。
その次は、校舎裏…校舎裏と言っても、そこにはビオトープのような庭が設置されていて、皆が思うような校舎裏とは訳が違う。池には鯉やらメダカやらが泳ぎ、外来種も何も気にせず入ってくる、そんな自由な庭。
エリスはそのいけの中に入って、何かを探す….のではない。流石にそのようなことにはならない。もっと別の場所をくまなく捜査する….例えば木の上。何か痕跡などあるかもしれない。….エリスの予想は的中した。そこには先ほど見つけたような、深い紫色の宝石が落ちていた。
「また….なんだろう?」
少しでき過ぎている….あまり探してもいないのに、気づいたらそこにあるような、そんな違和感をエリスは抱えながら、木に登ってその宝石を取った。もちろん、別に魔術を使えば一瞬なのだが、今日のエリスはそう言う気分ではなかった。なんだか、頭が少し痛いのだ。何のせいなのかは彼女自身には分からないが、その僅かな痛みに堪えながら、別の場所も探索していく….
「謎現象って言ってたけど….何が起きたんだっけ。」
整理しよう。謎の現象とは、理屈で説明するには全く事例が足りない、そんなもののことを言う。そして、この学校ではある恐ろしく不可解な事件が起きている。ある時、特定の特徴をもつ女子生徒のみが、1人何も音沙汰もなく消えてしまうと言うのだ。
「特定の特徴を持つ人だけが….この学校から消える….不思議ね」
エリスは考えた。例えばそれが人によるものだったとして、その特定の世代だけを狙う理由はなんなのかと言うことだ。まず、その特定の特徴とは何か。それは若い女の子で、いつも明るく見える子…そして茶色の髪をくくっている….そしてその声はどこかおとなしい感じもする、そんな女の子ばかりが消えている…これは偶然と片付けるには、あまりにも限定的すぎるがゆえに、人の介入を疑わざるを得ない。
「でも….なら誰が….」
まず普通の人間と考えてみよう。でも、そう考えた場合残るのは、やはり人1人がやるには相当時間がかかるので、普通の人間ではないのだろう。ならば、普通ではない人間….富裕層とか、魔術師とか…それならその規模の大きさに関しては納得がいく。しかし、やはり説明ができない。それは、見ていた次の瞬間に、どこにもいなかったかのように消えていると言う証言がいくつかあるからだ。それを無視してはいけないとエリスは考えた。
ならば、目視が不可能なレベルのスピードを出せるような人間でなければ、到底それは難しいだろう….一部の魔術学会の化け物たちを除いて。
「….あの時、ライトを…殺そうとしたやつ….?」
エリスはある仮説に辿り着いた。あのスクリプターが原因であるかもしれないことについて。黒い衣装を見に纏っていて、暗いところでは目立たない。し、素顔も全く知られることはない。そして何より、リオンハルトの不意打ちの攻撃を、まぐれでありながらそれから逃げ切れてしまった功績があるからだ。つまり、目にも留まらぬ高速移動を兼ね備えている、この条件にぴったりである。
「この線で….調査してみましょう。」
しかし問題がある。彼らはまず痕跡をほとんど残していない。あったのはこの宝石三つのみ…この宝石が一体何を意味するところであるのかは、エリスにも分からないし、その他の学校の人たちには到底わかるはずもない。
さて、どうしようかと考えながら、同じ場所を行ったり来たりしていたエリスであった。
そんな時….その紫の宝石が光り出した。その宝石からは、魔力が放出されて、エリスの元へと飛んでいった。エリスの魔力とは大違いではあるが、何故か拒否反応が起こらない。
「なに….これ….っ!!」
更に今度は頭痛がエリスを襲う。魔力の急激な流入による頭痛なのだろうか、それともまた違う理由なのだろうか、単なる風邪か….そう思っている矢先、悍ましいほどの力が放出され、どこからともなく何者かの声が聞こえた。
「お前、何故人間に執着する?」
その声は妖艶だが、底知れぬ攻撃性すら宿していた。その声を聞けば、誰彼構わず襲ってしまうようになる、争いの化身のような戦意を沸き立たせる、そんな声。
「誰?」
エリスは聞いた。聞いたことのない声のようだが….どこか懐かしさと、心の底から湧き立つような怒りがあった。なぜかはエリス自身にもわからないが。すると、その声は少し声を低くして、なぜ覚えていないのか意味がわからないというような感じで
「覚えておらぬのか?我は不和の女神….君の力の象徴だ。」
不和の女神「エリス」それは、争いを呼び、楽しみ、貪る神。その女神はあらゆる災厄の根源ともなった。忘却や殺人、あるいは戦争や妄言など、その災いは多岐にわたる。
不和の女神….それは、エリスは久しぶりに聞いたものだ。たまに話題には上がったりしたものの、エリス自身について何か言及するときのそれではなかったから、エリス自身も特には気にしていなかった。
しかし、今回は別だ。そこには彼女にとっての地雷があった。それを不和の女神はピンポイントで踏んでいっていた。
「なんのつもり?」
エリスは声に腹の底から煮え立つ怒りをあらわにした。無理もない。彼女は不和の女神がいなければ、人生を破壊されずに故郷で共に家族と暮らせた。不和の女神がいなければ、もっと早くにライトを落としに行くことができた。
すると不和の女神は鼻で笑い、少し得意げにこう問う。
「なぜお前は我の力を持ちながら、人々と馴れ合う?」
不和の力を持ちながら、人々と仲良くするのは何故かと不和の女神は問う。その声色は、本気で理解できないというかのようだった。更に不和の女神は続けてこう言う。
「その身体があれば、男を誑かすのも容易だろう?嫉妬心を掻き立てて争いに発展させればいい。」
エリスの身体….実際エリスは、非常に美人で色気があった。そして、27歳の実年齢に17歳の肉体年齢、加えてそれなりの巨乳なのもあるし、顔立ちも良かった。だからこそ、それらを使えば男同士でエリスを巡った争いを作るなど容易であろうと、不和の女神は言いたいのだ。更に不和の女神は続ける。
「そうすれば、我の力 つまりお前の力は増幅される。君は男と夜を過ごせて、その間に他の男が勝手に争ってるのを見る….実に愉悦ではあるまいか。」
不和の女神の力は、周りに争いが勃発すればするほど、その力を増すと言うものだ。あらゆる悪意が、エリスの力になる。だが、エリス本人はそんなことを望んでいない。彼女は争いが1番嫌いだから。エリスはずっと不快な表情をしていたので、不和の女神はおもしろくないと思い、こう言って帰っていった。
「何お前の体は我が物になる…..」
そう言って、意識の底にまた潜った。
「なに….あいつ。最悪。」




