第一章 第八話 装置の修復
「そういえば、ライト様の訓練を見守っていた時、何か爆発したような音がしましたけど、何が起こったのですか?」
その質問を聞いて、アイリスは忘れていたことに気がついた。
「そのことなんだけど….ルーエは物も直せるわよね?」
「…….理論上は可能ですわ。でもそれがどうしたのです?」
ルーエは首をかしげる。するとアイリスは続けて言った。
「ルーエも手を貸しなさい。これにはあんたも必要よ。」
アイリスは、ルーエの魔術を知っている。ルーエの魔術は、簡単に言えば人間や動物を対象とした生物のケガの治療や、体力の回復を主とした回復魔術だ。しかし、なぜアイリスがそれを必要とするのか。それは、ルーエの回復魔術が、生き物だけではなく物質全般に通用するからだということを、アイリスはこれまでの経験と彼女の魔力の使い方から、見抜いていたからである。しかし、当のルーエ本人はそれをやったことがないし、理論上はできるが実践はできないと勝手に思っていた。それは、まるで最初から自分の能力値の限界を位置付けているようなものである。
そして、それをまだ知らないルーエは、「なぜ自分が必要なのか?」と思っている。
「必要?なぜですの?」
そう、理解不能という顔をしているのである。しかも、メイドらしさのかけらもない顔。アイリスはその顔を見て、少し呆れつつ、ルーエの手を引っ張り、無理やりにでもその場に連れて行こうとする….だが、それは通用しない。ルーエは元宮廷医兼メイドという立場ではあるが、同時にリオンハルトと共に旅をしていたものでもある。つまり、体力は並の魔術師と比べてしっかりついているということだ。そしてさらに、ルーエは人間ではない。これでも少なくとも100年以上を生きている身であり、アイリスと同程度の年齢、もしくはさらにその上をいく年齢である。程よい長命種は、身体能力も高いのだ。
「どういうことよ!!なんで引き摺れないのよー!」
アイリスはルーエが大人しくついてきてくれないことに苛立っている。しかも、かなり。だが、ルーエの方も全く動くつもりはない。なぜならば…..
「まだ質問に答えてくれていませんもの!」
質問は自分が必要なのは何故なのかという質問。真っ当な質問である。もう少し詳しくするのであれば、どうして必要なのか内容をはっきりさせないと自分が役に立つかどうかわからないということをルーエはいいたいのである。
「ルーエ、あんたには魔力増幅装置の修理を手伝って欲しいの。」
魔力増幅装置は、すでに完成していた回路が一時的に発生した、ライトの炎の魔力に反応して、それを増幅させてしまったことが原因で、発火したのである。そして、何故それが起きたのかを分析した結果、回路の防御システムを機体に搭載していなかったからだと結論づけられた。そして、それを搭載するにはルーエの回復魔術は必要不可欠である。回路に自己修復機能を備え付けると良いかも知れない、そうアイリスは考えていたのである。
魔力増幅装置の修理を手伝って欲しいと言われたルーエは、少し脳内で考えてから、快く承諾した。だが、一つ問題がある。ルーエには工学が微塵もわからない。どうやって回路を繋げばどう働くのか、そもそもどの回路がどういう役割をしているのか、回路はどうやって作るのか、その全てをルーエは知らないのである。しかし、そんなことは気にせずにアイリスはルーエを連れて行く。
「見なさい。これが壊れた魔力増幅装置よ。治せそうかしら?」
アイリスはルーエの目の前に魔力増幅装置をおいた。ルーエはそのメカニック、複雑な構造を見て、その自信を少し無くした。そして、一度受けた話だがやっぱりやめようか…という状態になっていた。
「やはり私なんかにできるのでしょうか….」
ルーエはそういうが、アイリスはそれにこう返答する。
「大丈夫よ。あんたならこれぐらいすぐにできるわ。」
アイリスは彼女に自信をつけさせるために励ました。そして、ルーエはその意思を汲み、
「そうですか…なら自信はないですが….できる限りやってみますわ。」
そう言って魔力増幅装置に手をかざす。すると、何かが引っ掛かった様子。
「これ….アイリスの言うとおりですわ。炎の魔力が混じっているのがしっかりわかります。」
そう言いながら、ルーエはさらに回路の奥を分析し始める。
「なるほど….こうなっているのですね….不思議です。」
ルーエの心には、その中を分析しながらある変化が起きていた。自分などにできるものかと思っていたルーエが、楽しいと思うようになりつつあった。そして、分析はあらかた完了したようだ。
「….とりあえず構造はあらかた把握しましたわ。では次は….設計図を見ながら修復を試みてみますわ。」
そう言いながら、設計図が載っているパソコンの画面をじーっとみる。設計図をインプットし、自分の頭の中に完全形のイメージを頭に描くのだ。そして、その後ルーエはその画面からもう一度魔力増幅装置へ視線を戻し、また目を瞑ってイメージを浮かべながら、修復魔術をかけていく。
「やっぱルーエ….やれるじゃん。」
アイリスはそのルーエ仕事ぶりをみて、自分の見積もりは間違っていなかったと満足しながら、同時にこれでまた作業が再開できると安心してもいる。
そして、ルーエはその魔力増幅装置の基盤と回路を完成させる。その間、およそ10分程度。イーグルやアイリスが自力で直した場合とは、比べ物にならないスピードである。
「アイリス…これ….意外と愉しいですわ!」
扉が開いた。ルーエの新しい楽しみの扉だ。ルーエは新たな脳の回路を開拓し、興奮している。しかも若干鼻息が荒い。そして、その余韻が消えないうちに今度は躯体の修理を開始する。
楽しさに覚醒したのか、最初よりも修復スピードもその精度も上がっている。
「あんた….凄いわね…」
若干アイリスの顔が引き攣っていた。それほどの才能がありながらなぜ、この装置修復などを躊躇っていたのか。自信がなかったなら、何故自信がなかったのかがひっかるのと同時に、その才能は自身が渇望したものでもある、それを持ったもの…いやそれ以上の何かを持ったものがここに、自分の目の前で楽しそうに装置を修復しているのを見ると、嫉妬心も湧いてきたのである。しばらくすると….
「これ…こう言うとなんとなく変な感じは致しますけれど…患者さんの怪我を治療している時と同じ感覚がしましたわ。構造を分析して、イメージを元に修復するにはどうすればいいか…それを考えてる時間が楽しいんです。しかしながら、患者は患者。そちらで楽しんでいたら、新しい怪我を増やしてしまうかも知れませんから、抑えることがほとんどでした…ですが…物は患者ではありませんから、こちら側に取り返しのつかない責任が必ずしもつくわけじゃない…故に自分の感情を存分に乗せることができましたの。」
アイリスはルーエの話を黙々と聞いている。そして、少し共感の方もしていた。ルーエはそれに続けて
「あっ それと…修理。完了しましたわ。」
「えっ…はやっ!?」
アイリスは驚いた。その凄まじいスピード。これは一体どこから手に入れた物だと。考察した。確かに、生物の細胞の仕組みは大半の無機質な金属なんかよりもずっと複雑で、それこそ生物は分子システムにおいて最も複雑であるとも言える存在。そんな存在を、ルーエは狭い範囲の怪我であればスムーズに、確実に治療してしまっている。そんなルーエならば、特に生きてもいない機械の中身をイメージすることなど、もしかしたら造作のないことなのかも知れない。そう思えば、この能力は納得せざるを得ないだろう。
「関心を通り越してもはや怖いんだけど」
アイリスは本音を口にした。しかしルーエはそれを褒め言葉として受け取った。
「それは身に余るお言葉ですわ。 では、次は何をすればいいのですか?」
その時、ちょうどイーグルが開発室に戻ってきた。アイリスはイーグルに対して、さっきまでにあったことを軽く説明する。そしてイーグルの反応は完全にアイリスと同じものだった。そしてそれに続けて、次にすることについても説明をする。
「え….?早くないですか?えーっと…次は…自己修復回路を組み込みたいんです。それもルーエさんにお願いできませんか?」
ルーエはそれにこう答える。
「もちろんですわ!早くやりましょう!」
その意気にアイリスも励まされた様子。アイリスはルーエの左隣に座り、ルーエに対して色々要求に関して説明する。もちろん、設計図を見せながら。
「ここは…設計図通りにすればいいわ。これで以上よ。」
「じゃあ、早速取り掛かりますわ。」
「これで開発もラストスパートですね!」
イーグルはそういい、イーグルに任された作業の方を始める…
装置の完成まで、後残りわずか。




