第一章 第七話 ベクトル魔術I/爆発原因の解析
さて、前回はレクスの目の前に例の人物と思われる影が現れ、それをレクスが自身の後方へとワープさせたところで終了しました。今回はタイトルの通り、レクスがその実力をわずかながら展開し、一方で魔力増幅装置の完成へと漕ぎ着けるためにイーグル達がどう動くのかが、話の流れとなってきます。
それでは、第14話「爆発の原因の解析」をどうぞ。
レクスの目の前に影が現れた、その直後、レクスはそれに即座に反応し魔術によってその敵を自身の後方へと“スライド”させる。
「ベクトルコンバート 第五定義 スライド」
レクスに“スライド”された者は、他の人から見ればまるでそれがワープしたかの様にしか見えない。そして、その魔術による魔力の流れは勿論、魔力の全くないハルトにとっては観測不可能なものであり、その物理法則を無視した挙動に戸惑っていた。
「今のは…一体…」
するとレクスは、その戸惑いに対して応えるかのように、まず、ハルトにこう質問した。
「ハルト、高校の内容は十分に理解しているか?」
ハルトは、なぜそれを今聞くのかわからず一瞬困惑の表情を見せたが、とりあえずその質問に答えるべきだろうと思い、少し申し訳なさそうにこう答えた。
「すみません…高校に入学してまもない頃に異世界に転移させられて、そのあとはずっと魔王を倒すための旅をしていたので….」
レクスはそのハルトの話を聞くと、さもありなんという様に頷き、数学をやっていないハルトに分かりやすい言葉自身の魔術を簡単に説明し始めた。
「俺は魔力があるから、当然魔術も使える。それは君も分かるだろう。俺はベクトル…と言っても分からないだろう?これを分かりやすく言い表せる言葉は….まあ、簡単に言えば矢印の向きと大きさを自在に変えたりする魔術を使っている。恐らくだが、君が戸惑っていたのはあれがワープした様に見えたからだろう。それも俺の魔術の一つ、その矢印の様なものを少しばかりずらしていた。」
ハルトはその話を聞いて、先ほど起きた現象にも納得し、その上でどう立ち回れば良いだろうかと思案し始めた。そして、レクスの方は目の前にいる敵を見て、こう言った。
「学生か誰か知らないが、研究室以外での質問には事前連絡が必要だ。連絡なしの質問は受け付けていない。帰って出直すといい。」
彼はわざと敵を学生と呼び、その反応を促すのと同時に、煽り耐性が低いかどうかを判断する材料としていたりもする。しかし、今回はただのジョークである。ただ、レクスの呼びかけに対して敵は全く反応しないので、レクスは続けてこう言う。
「どうした?反応なしか。俺の研究室にもそんな学生がいる。慌てる必要はない、安心しろ。」
しかし全く応答はない。そして、ハルトは流石にこの戦いの場で冗談を言い続けるのは良くないと言い、二人は敵に集中し、再び気を引き締めた。すると、敵の方も遂に口を開いた。
「ターゲット2と…..ターゲット1の仲間と思われる人物を確認。応答、指示を求む。」
それはまるで、どこか別の場所にいる者と会話している様だった。そして、その言動を見たレクスとハルトはすぐにこの様に結論を出す。
「恐らく、あれが例の人物だろう。」
「俺もそう思っていたところです。」
黒い衣装に身を包み、フードで頭を覆い、顔も布で覆っている。そのくせ、目だけは鋭く、濃く、赤く光っている。肌は青白く、声も口調も無機質で、おおよそ人間とは思えない。ライトからそんな報告を受けた二人は、敵がどんな姿であるかを想像しながら移動していた。故に、すぐに結論に至れたのだ。レクスとハルトがそう確信した直後に敵はもう一度口を開く。
「目標を捕獲後、拠点へ連れ帰れ。任務を遂行する。」
その言葉にも感情がこもっていないが、しっかりとその危険性はレクスとハルトには感じ取れた。そして、敵がその言葉を言った次の瞬間、それは凄まじいスピードで近くのビルの屋上へと飛び移った。そして、そこから飛び降りたかと思えば、そのビルの壁を蹴り、向こう側のビルへ移り、その壁をまた蹴り、さらに斜め後ろのビルの壁を蹴り、そしてレクスの後ろへと回り、背後からレクスの急所を狙い、あと少しで手が届きそうだったその時。
レクスは棒立ちのまま魔術を発動すると、これまで複雑な軌道を描いて突撃してきた様に見えた敵の進路は、一つのまっすぐな直線へと”合成”され、レクスの目の前に突撃する様に改変された。
「ベクトルコンバート 第三定義…コンポジション フッ….まるで理性を失った獣のような軌道だ。」
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一方、アイリスとイーグルはライトのための「魔力増幅装置」の完成に向けて開発を早めていたところだったが、謎の現象により、魔術増幅装置の回路が突如として発煙し、のちに爆発した。その現象の理由を解明するために、アイリスはその魔術増幅装置をコンピュータへ繋ぎ、解析を進めていたところだった。
「早く解析が終わってくれないと続きの作業ができませんね….」
イーグルは突然の爆発によって回路が壊れてしまったのではないかと思った。そして、原因と破壊状況の解析が終わるまでは魔力増幅装置の修理やその他の作業ができないため、イーグルは慌てている。一方アイリスの方はコンピュータの画面を見ながら、解析段階と、すでに解析できた情報の解釈を進めているところである。
「イーグル?そろそろ解析が…終わったわ。」
アイリスは魔術増幅装置が爆発した原因の解析が終わったことを、イーグルに伝えた。イーグルはその解析結果を見て、少し絶望する。
「…..これは….最悪だ….30%以上が機能しないレベルに破損してる…」
一方アイリスの方は、まだ取り返しのつく範囲だろうと思っており、早急に作業を再開するべきだと言う。しかし再開するにも問題が発生している。そのことをイーグルは言う。
「再開しようにも、材料が足りません…しかし、材料を調達していると時間が足りません….」
アイリスはそれを聞いて、
「なら…どうすればいいかしら….とりあえず原因を見てみましょう。」
イーグルとアイリスはもう一度コンピュータの画面を見る。コンピュータの画面の解析結果によると、周囲の炎属性の魔力濃度が僅かながら上がっており、その源も解析させる。すると、ライトの体からだった。ちょうどこの時、彼は感情を引き出す特訓をしていた。その時に現れた感情に魔力が呼応して、炎の属性へと僅かに変化したのだろうとアイリスは推測する。また、イーグルはこう言った。
「ライトに訓練を止めさせるべきでしょうか….」
アイリスはそうする必要はないという。対応を考えているうちに、数時間が過ぎた。そして、イーグルが何かをハッと思いついた時、ドアからノック音がした。アイリスがドアを開けにいくと、そこにいたのは…ルーエだった。
「御夕食の支度が整いましたのでお呼びしようとおもったのですが….邪魔してしまいましたか?」
ルーエは少し申し訳なさそうにしている。アイリスはそれに対して全然そんなことはないと言う。ルーエはその言葉を聞いて安心した。そして、アイリスとイーグルはキリのいいところだからと思い、ルーエと一緒にダイニングへ向かう。
「そういえば、この家でご飯を食べるのはこれが初めてね。」
アイリスは食卓につき、こう振り返る。昨日からここに寝泊まりすることになったが、昨日は来たばかりと言うのもあり、この街を探索するという目的もあり、さらには俺を見守ってくれていたので、家で食事をしている場合ではなかったのだ。そして、この夕食を目の前にして、安堵する。
「こうやってプライベートで、みんなと一緒にご飯を食べるのなんて、久しぶりだわ。ところで、このご飯は誰が作ったの?ルーエ?」
勇者リオンハルトと旅していた頃は、一行は皆、飯は旅の道中で食べるか、宿の食堂で食べたり、あるいは飲食店を探してそこで食べるしかなかった。旅の道中でもいつ魔物が来るかわからない世界であったため、あまり落ち着いて食べれるような時間はなかったのだ。そして、旅が終わってからも祝勝会などで騒がしいし知らない人も食卓にいたため、そちらもまた落ち着けないというもの。そのため、このように落ち着いて食卓につけるのは得難いものであったと思いに浸る。一方、ルーエはアイリスの質問に答える。
「いえ私は配膳以外何も致しておりません…御食事はライト様がお作りになられましたの。ライト様は料理も得意だと聞いた時、驚きましたわ。そのようなタイプに見えませんもの。…ルーモス…遠いなら私が代わりに取りますから…」
ルーエはそう言いながら、俺の方を見て感謝の気持ちも示す。
「ほら、この家って変な調理器具色々あるやん?食材も色々あるし。だから暇つぶしに料理作ってたら勝手に上手くなったんだ。」
アイリスはそれを口に入れると、美味しかったのか、それだけ腹が減っていたのか、美味しそうに食べ進めていった。そして、みんなが食べ終わるとイーグルとアイリスは再び装置の開発に戻ろうとした。その時、ルーエがアイリスに一つ聞いた。
「そういえば、ライト様の訓練を見守っていた時、何か爆発したような音がしましたけど、何が起こったのですか?」
その質問を聞いて、アイリスは忘れていたことに気がついた。
「そのことなんだけど….ルーエは物も直せるわよね?」
「そうですけれど….それが何か?」
ルーエは首をかしげる。するとアイリスは続けて言った。
「ルーエも手を貸しなさい。これにはあんたも必要よ。」




