第一章 第十一話 魔力増幅装置
「あんたの魔力量は…そうね 3ぐらいかしら…..え?1?」
1!?1ということは、魔術を使用する基準が5だとさっき言っていたが、それであると明らかに魔術使用基準を大幅に下回っているではないか。だとすると、あの、M&Eに収容される前に発揮することのできたあの形容し難く恐ろしい、膨大な魔力量は一体どうやって発揮できたんだ?
「じゃあ…あの力は一体…」
俺は思わずその疑問を溢した。
「あの力?」
そうアイリスが問う。しかしそれは自分の家族に関わることだし、自分でもあまり鮮明に思い出せないのもあって、話すことを一瞬ためらいはしたものの、結局は
「小さい頃、空間を捻るような能力を発揮した記憶があるんだ・・・・」
空間を捻ると言うと語弊があるかもしれないが、空を回転させて臼にし、敵をすり潰すような勢いのあの魔術。いや、あの超次元的な何かは魔術なんかの比にはならない、何か別のもの、例えば“魔法”か何かかもしれない。そんな力を発揮した記憶がある。そのことと、ジュピターの時のあの超人的な身体能力は一体何によって発揮されたのかなど、これまでわからなかったことをアイリスに伝えた。
「そんなことが…あれ?レクスさんは?」
「調査の準備をしに行ったんだと思う。」
アイリスは話を聞いているあいだ、何か心当たりでもあるかのように、首を傾げながら聞いていた。そして、話が終わるとレクスを呼びたかったらしいが、そのレクスは現在謎の刺客の行方を調査するために複数箇所を巡るための準備をしている。なので、俺は他の提案をした。
「イーグルじゃダメなのか?」
「イーグルさん?あの人は….あの人でも別にいいかもしれないわね。」
意外とあっさりターゲットを変えた。イーグルを俺が提案した理由は至って単純。レクスと同じ方向性の知識を有しているからと言うのと、それに加えて今現在、進行形で俺が戦闘する時のための魔力増幅装置及び、魔力がなくても魔術のような力が使える武器を開発してくれているからだ。一体どのような原理でそれを可能にするのかは俺にはわからないが、以前ジュピターの使っていたブースターを参考に作るとかなんとか。
「とりあえず様子を見に行くか。」
「え?さっき応接間にいたわよね?そんな直ぐに戻るの?」
そう。彼はアイリス達にレクスやエリスを紹介する直前に床に寝そべっていた。それから1時間もたっていないだろうから、まだ休憩していると言う可能性も十分にあるが、彼にはそれを上回る熱意があった。
「当たり前だ。それぐらいの熱意があいつにはある。」
イーグルは普段、地下にある研究室を使って武器やその他ハイテク機器を作っている。そこには訳のわからないものがある。もちろん、素人でも知っているものも多数置いてあるが、イーグルの部屋には自作の量子コンピュータがあるのだ。一般的に、量子コンピュータは製作するのが非常に難しいとされているし、作れたとしても素人にはおそらく扱いきれない計算性能をしている。それを、イーグルは完成させてしまったのだ。それぐらい、イーグルの持つ技術力には凄まじいものがある。
研究室に近づくにつれて、溶接などの音が聞こえてきた。
「おお やっぱりやってるな。」
俺はそう言いながら研究室のドアをノックして、返事がなかったので集中しているのだろうと思いながら、ドアを開けた。
「え? この音がそうなの?って….何よこれ」
アイリスは、特殊な機器が並ぶ光景に驚いた….のかもしれないし、もしかしたらその機器が彼女にとってはありきたりなものすぎてがっかりしたのかもしれない。
「あ アイリスさん。いらっしゃったんですね。それにライトも」
イーグルはアイリスに向けて椅子に座りながら、少し雑にお辞儀をした後、まるで読心術でも使っているかのように、即座にこちらの意図を汲み取ったのか、こう言った。
「なにか、作って欲しいものがあるのですか?」
作って欲しい、と言うと少し語弊があるが、概ね合っている。
「正確には、作っているものが欲しい。だな」
イーグルのデスクの上にはいろんなものが載っている。たとえば、半導体やネジなんかもそうだし、おそらく店には売っていないだろう魔力池、魔力を凝縮した電池のようなものがあったりもするが、最も目立ち、注目すべきものは、ブレスレットのような形の不思議な装備だ。パソコンのデスクトップには進捗率が映るようにその装備とコンピュータをリンクさせている。
「その魔力増幅装置が欲しい。」
ブレスレットのような装備、それこそが魔力増幅装置だ。魔力池、いや 魔池とでも呼ぼう。魔池もこの魔力増幅装置にとって欠かせないものだとイーグルは言う。
「まだ完成してませんって。」
「いつ頃できる?」
「1年後….いや もうちょっと早いかもしれません。ですが最低でも1ヶ月以上はかかります。」
イーグルは不甲斐ないとばかりに下を向く。1ヶ月もかかるならば、別の方法を考えるのもいいかもしれない。だが、今の自分にはこれが1番いいだろうと思っている。魔力増幅装置は、あくまでも魔池にある魔力を一定スピードで人体を介して回すことにより、強制的に装備者の魔力を増幅させるものだと、イーグルの使っているノートを勝手に開けると、そこにはそう言うふうに書いてあった。
「まだ、半分程度しか完成していないんですよ。一年前から作り始めましたが、まだ完成は遠く…」
イーグルのいう通り、デスクトップにも50%と書かれている。しかし、俺はその履歴に目を向けた。そのシステムは作業終了時の完成進捗を履歴として見れるようになっているのだが、そこには一年前の時点では1週間で1%進むか進まないかぐらいだったのが、ここ最近は1週間に5%ほどは進むようになっているのだ。これは、イーグルがだんだんとこの作業に慣れつつある動かぬ証拠でもあった。
「でも、これじゃあ1ヶ月じゃ足りないじゃない。そうね…ちょっと見せなさい。」
アイリスはそう言い、イーグルの許可なしに勝手に開発中の魔力増幅装置を手に取って観察し始めた。そして、少し見た後、今度はパソコンのコーディング画面を見始めた。
「ちょっと待って…..これ、私の使ってる魔術式と構造が似てるわ。」
異世界の魔術式と、イーグルの使っているプログラミング言語が似ている?一体どういう理由でそうなったんだろうか。俺の頭は急な情報の嵐でパンクしそうだ。しかし、そのパンクしそうな頭を使ってなんとか思考を巡らせる。昨日、俺が学校から帰る途中で敵に襲われた時に、アイリスが開いた虹色の門のような穴が、もしかしたら他にも存在して、そこからその魔術式がこの場所に流れ込んできたのかもしれない。それも、ほぼ完全な形で。そう仮説を立てると、ある可能性が浮かんでくる。それは、異世界から来た人がこの人たち以外にも、過去にもいたのではないかということだ。レクスによると、大正ごろまでこの国には魔力は少しも存在していなかったという。その代わり、妖力や神力といったものによって活動していたものもいたという。しかしそのいずれも、魔力の性質とは似ても似つかない。レクスは魔術兵器などを開発する時に使うプログラミング言語を、従来使ってきた魔術式の構造と統一するため、仲間を募って活動をしていたらしい。それをイーグルは使っているからこそ、今建てた仮説も踏まえると、無理もないと思える。
そう考えていると、アイリスが興味深そうにコードを見ながら、いろいろとそのコードを整理し始めた。
「ここ、もう少し短縮できないわけ?」
アイリスはそうイーグルに言いながら、コードの書き直しをし始めた。俺もある程度、魔術式に関する知識は備わっているから、見たら何かわかるだろうと思ったが、全くそんなことはなかった。アイリスは、魔術装置を作ったことがあるかのような手捌きで、コードの短縮や追加を次々とやっていく。イーグルはそのスピードに感心したまま止まっていた。すると、
「あの…もしかして、魔術装置の開発をしたことがあるんですか?」
イーグルがそう問う。そして、アイリスは当たり前だというかのようにこう返答した。
「もちろんよ。これでも魔道具開発の最先端を行ってたから。賢人会とかいう、ダサいネーミングの会にも入っていたけれど、そこの中でも功績は上位だったわ。」
「賢人会」というと、いかにも賢い人たちの会に聞こえる。実際そうなのだろうが、一体何人が所属しているのだろう。それよりも、アイリスの参加によって開発スピードは飛躍的に上昇した。それも、進んでいるのが目に見えてわかるレベルにまで、その速度を上げている。イーグルはコーディングをするためのパソコンをもう一台用意し、それをアイリス用とした。
「特に難しい部分は私が構築するわ。イーグルはそれ以外をやっておいて。」
「了解です。」
このままいけば随分早く完成しそうな気がする。すなわち、俺は今特にやることがないということだ、と思ってイーグルの部屋から退室すると、すぐそこにルーエがいた。
「びっくりしたぁ…..」
「吃驚させてしまい、すみません。それよりも…アイリスのあんな顔、久しぶりに見ました。」
「そうなのか?まあそれはさておき、俺は2人が魔力増幅装置をしている間やることがないか考えていたんだが、何かいいものはないか?」
1.感情を強制的に引き出し、魔力を爆発的に向上させる。2.肉体的な訓練をしてフィジカルで戦えるようにする。
このどちらかだろうと俺は考えた。そして、ルーエが言ったのは1の方だった。
「レクスさんからお聞きしました。この世界では、感情によって魔力量が変動する場合がある。と。」
「というと?」
俺がそう言うと、ルーエは続けて
「こちらの世界でも過去にあった出来事と関連づけて、感情をのせる演技があると聞きました。それを使ってみてはいかがでしょう。」
….聞いたことがある。そう、それは、「メソッド演技」と呼ばれるものだ。それを使えばもしかしたら、魔力量を底上げできるかもしれない。よし、これだ。




