第一章 第十二話 メソッド法
こちらの世界でも過去にあった出来事と関連づけて、感情をのせる演技があると聞きました。それを使ってみてはいかがでしょう。」
….聞いたことがある。そう、それは、「メソッド演技」と呼ばれるものだ。それを使えばもしかしたら、魔力量を底上げできるかもしれない。でも、メソッド演技法というのはそれを行うものの精神を大きくすり減らす場合があると聞く。しかも、それによって自分を見失ってしまう場合もあるらしい。そんな危険な方法を使って魔力を底上げするなんて、本当に大丈夫なんだろうか?
「私は演劇が好きで、そのようなものにもよく触れていました。ですから、可能な限り方法をお教えすることもできますよ。」
演劇が好きなだけでそこまで深いところまで潜ることって、なかなかないとも思うが…方法を教えてくれるのならば、こんな機会またとないだろうし、素体を強化するという意味でも試してみるのも悪くないかもしれない。しかしその前に、そろそろレクスたちの準備が整った頃だろうと思いロビーの方に行った。ロビーにはエリスとルーモス、今調査へと赴こうとしているレクスとハルト、そしてルーエと俺がいる。
「いったい何日間ぐらいを目安で捜索するんだ?」
俺はレクスにそう質問した。すると、レクスは少し考えた後、こう言った。
「3日を目安に、何も見つからんかったら一旦切り上げる。」
そしてそれに加えて
「その間、あり得へんとは思うけど、万が一ここが襲撃された場合に備えて、一応位置情報共有用のシステムをつけた端末を渡しておく。」
そう言って、それぞれ1人一つずつレクスが一晩で改造した端末を渡された。その端末はスマホのような形はしているが、その本質はむしろビーコンの受信機のようなものに近くて、レクスの発する魔力の一部を利用してそのビーコンの発信機が魔力を発信する。その発信された魔力をこっちの端末がキャッチし、魔力の減衰度等によっておおよその位置を測定すると言った仕組みだ。しかし、普通のビーコンの受信機とは違うのが、受信機単体で位置情報を地図に写して見ることができる。レクスが自分がいない家が襲撃を受けたらどうしようと心配している一方で、ハルトはレクスと自分がここからしばらく離れて行動することに、特に懸念はないようで
「レクスさん。ここにはアイリスもルーモスもいますから、敵襲に限っては大丈夫だと思いますよ。」
そう何か確信したような目つきで言った。アイリスの脅威的な技術力に関してはさっきイーグルの部屋で見たばかりだが、ルーモスの力はまだあの謎の悩殺モードぐらいしか見ていない。他にどんな能力を持ち合わせているかが気になる。俺は魔力がほとんどないわりに、他者の魔力の総量や属性は感知することができる。ルーモスの魔力はその感知が難しく、魔力量がわかったとしてもその属性までは全くわからないのだ。しかし、異世界で魔王を討伐し転生前のこの日本に帰ってきた勇者がそういうのだから、きっと凄まじく強いのだろう。
そんなことを考えているうちに、レクスとハルトが最終確認を終わらせ、出発しようとしていた。
「よし じゃあ、この家はしばらく任せた!」
レクスはそう言った後、魔術を発動し始めた。レクスの魔術は久しぶりに見る。一度目はあの、ジュピターと戦ったときにレクスが駆けつけ、ジュピターを秒でねじ伏せた時。後から聞いたのだが、実はあのときにジュピターの攻撃に対してベクトルの分離をして力を分散させ、ほとんど無効化していたらしい。
2度目は、俺がこの家に来てから2回目の任務の時だ。そのときには、急に加速したり減速したりしていたが、その挙動がおかしかったのだ。具体的には、急に減速するときには体が少し前に引っ張られるような、そんな感覚がするが、レクスが移動するときにはそれがなかった。そのときレクスは、加速度Gや減速Gを一定以下に固定し、急減速や急加速をしたときにかかる負荷を可能な限り軽減していたのだ。
さて、今度はどんな使い方が見られるのだろうか。
「ハルト 準備はいいな? お前の体に俺の魔力を纏わせる。その後、重力が少し弱くなる感覚がするが、気にする必要はない。」
レクスはそのようにあらかじめ言った後、重力加速度のベクトルを操作できるように、ハルトの体全体に魔力を一定量纏わせた。ハルトはその変化に少し身構えたが、直ぐに平常心に戻った。
「なるほど…このような不思議な感覚….まるで魔王と戦った時のようです….」
「もう一つ付与するぞ。空気抵抗を0に限りなく近づけ、速度上限を底上げする。これで準備万端だ。」
準備が完了すると、彼らの近くにある空気や、彼らが来ている服の揺れ方に明らかな変化が見られた。空気抵抗が抑えられるからか、風はまるでそこをすすんで避けているかのようになり、結果的に彼らの髪も服も揺れないようになっている。そして、地球上では空気抵抗があるせいで、音速を超えるとソニックブームという現象が起こったりするが、空気抵抗をなくすことによって風を切る音すらしなくなるため、隠密行動にもうってつけの魔術の使い方なのだ。
「何かあったらまた連絡するよ。」
「では、いざ参らん!」
レクスとハルトはそう言って、家を出発すると、ある程度進んだところで走力を解放し、まるで消えたかのように目の前からいなくなった。しばらくすると、街の中の建物を縦横無尽に駆け回る2人が見えた。その姿はさながら忍者のようだった。俺とルーエは2人を見送った後、もう一度ステージへ戻った。そして、いよいよ魔術を操るための魔力量の確保のために、強い感情を引き出す訓練を始めようとしていた。
「まずは、心の中で過去の出来事を思い出すのです。どんなものでも構いません。ですが、どんな感情を引き出したいかによって変わります。」
どんな感情だろうか…魔力を覚醒させるためには属性によって必要な感情や状況が異なるとレクスからはよく聞いているが、いまいちピンとこないものも多い。炎属性はいたって単純で、敵と戦うということに対する興奮がカギであるという。一方で水属性はその逆。怒りなどの興奮や、悲しみなどを封印するかのように心身を落ち着かせ、冷静な状態になるのがカギとなる。さらに、一部の人間は星の力を覚醒させることがあるらしい。その星の力は、絶えることのない明るさと、夢に向かって進むことに対する情熱がカギだというが、これがいまいちピンとこないものの一つだ。そもそも「絶えることのない明るさ」って一体なんなんだよと思うし、水に関してはどれぐらいの怒りや悲しみを抑えれたら発現できるのか分かっていない。
「炎属性がいい。怒りとか、闘志とか、そこら辺だと思う。」
俺はルーエにそう説明した。するとルーエは
「その二つは結構違う気がしますが…しかし、だいたいわかりました。なら、過去にあった戦いを思い浮かべながら、その想像を膨らませ、実際に戦う演技をするのです。」
そう言っているが、あまりよく分からない。自分自身そういう経験をしたことがないからかもしれないが、どのような記憶を使えばいいのか….とりあえず、ジュピターと戦った時の記憶を思い浮かべよう。あの時は後少しで地上だという安心と、強い敵が目の前にいるという緊張感が混ざっていた。そして、その時の記憶を頭の片隅に置きながら、強い敵を前にする想像をする。
(ここは六甲山の奥深くの森だ….俺はついにあれの正体を見破り、居場所を突き止めた。目の前には目的の相手がいる…それはすごく強大で、油断すれば死んでしまうかもしれない…だがそんな状況にもかかわらず、俺はこの状況を楽しんでいる….
「お前の妹の居場所を知っている」
え!?なんだって!?一体どこにいるんだ!そして一体誰なんだ!)
「教えてくれ!」
目を開くと、当然俺がいる場所は目を閉じる前と同じだし、近くにはルーエしかいない。当たり前と言われればその通りなのだが、ならばあの声は一体….自分の想像とは全く別の言葉が敵からでもなく、自分からでもない、想像の世界そのものから聞こえたような気がした。
「今こうやって教えていますが…何かあったのですか?」
俺が急に目を開けて「教えてくれ」と叫んだことに対して、ルーエは困惑しながらも心配そうな目でこちらを見ていた。そしてあの声が聞こえる前の、あの感覚こそが俺に必要なものかもしれないと確信した。
「知らない人間に『お前の妹の居場所を知っている』って言われたんだ。まるで、想像の外から聞こえたみたいだった。」
「不可思議….そうですか。どうしますか?一旦休憩に…」
「いや、続けてくれ。」
ルーエが気を遣ってくれたが、俺はその心遣いをありがたく受け取りながら、続けることにした。
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一方、その頃イーグルとアイリスは魔力増幅装置の開発に没頭していた。
「魔池、最後の一個作り終わりました。」
「こっちも、装備者の負担を軽減する機構を完成させたわ。」
「(相変わらず早い…..)」
イーグルとアイリスがそんな会話をしていると、イーグルの近くにある本体側から異常なほどの発熱が発生し、魔力増幅装置から少しばかりの煙が発生した後、火花が飛んだ。近くにいたイーグルはその突然のことに驚き、
「え?うわぁっ!!!」
椅子ごと倒れてしまった。
「急に何!…怪我はない?」
アイリスはイーグルが起きあがるのを手伝い、怪我がないかイーグルの体を魔術で診察した。
「はい….少し背中が痛いぐらいで、他は大丈夫です。」
「確かに、特に問題はなさそうね….ところで魔力増幅装置から何が….」
アイリスは爆発した魔力増幅装置を取って、端末と繋いで問題を分析していく。すると
「….なに…これ」




