第九十九話 熾烈な戦闘。可愛くないあの子
「こっちにも来たぞっ!」
「市民を守れ!ここは突破させるな!!」
怒号が飛び交う中、私達は魔物のあまりの数の多さに苦戦していた。
バルドガルド王の激励のあと、すぐ避難誘導へ向かい、ヨルゲン隊長の指揮のもと順調に避難誘導をこなしていたのだが、第三坑道に入ってから魔物が急に増えた。
「ミサキ!ジャンの援護に行けるか?!」
ダニエルから大声で指示が飛ぶが、私は私で後ろにドワーフの女性数人を庇いながら、アースワームを撃破している最中だった。
「今は無理!クロ!!」
私はクロに助けを求めて、名前を叫んだ。
ジャンを横目で見ると、アースワームに挟み撃ちにされていた。
流石にアースワーム二体を相手にするのは無理だ。
(クロ!間に合って!!)
そう思った瞬間、クロはジャンの影から飛び出してきて、ジャンが相手をしていた一体のアースワームの頭を目がけて斬撃を放った。
アースワームは断末魔のような叫び声を上げて沈み、ジャンも、もう一体のアースワームの胴体に剣を突き刺して、そこから雷魔法を叩き込み内側から焼くという、なんともえげつないやり方で倒した。
その後すぐに、ジャンは私のフォローに来た。
私が庇っていたドワーフの女性達を先に避難させてくれたのだ。
(これで思いっきりやれるわよ……)
「このっ!クソ虫っ!!」
アースワームの胴体に渾身の右ストレートを叩き込むと、いつもの打撃の反動が手に返ってこないことに驚いた。
聞いてはいたが、こんなに凄いものだとは……
「このグローブ、最高じゃないっ!」
思わずニヤリと笑って続けざまに左、右と叩き込む。
流石にアースワームもやられっぱなしではなく、私目がけて口を大きく開けて突っ込んで来たため、できる限り引っ張って直前で右へ躱し、胴体に右ストレートを再度叩き込んだ。
その時、いつもと違う感覚がしたかと思うと、アースワームの胴体が、凄まじい音を立てて破裂した。
「……は?」
私は何が起こったか分からず、ポカンとしていたが、周囲には弾け飛んだアースワームの肉片がボトボトと落ちてきて、それはもう悲惨な光景だった。
「お前、えげつないな……」
ジャンが戻ってきて私にそう言った。
「……ジャンに言われたくないんだけど」
そんなことを言っている間にもアースワームは次から次に出てくる。
数が増えているとは聞いていたが、これはあまりにも多すぎる。
誰が見ても異常事態だった。
「伏せろっ!!!」
どこからか怒号が飛び、私とジャンは一斉に地面へ飛び込むように伏せた。
次の瞬間には、地面から出てきて私達に背後から飛びかかろうとしていたアースワームが、壁に巨大な矢によって磔になっていた。
「油断するなっ!次から次に湧いてきてるぞっ!」
ヨルゲン隊長が重装機械弓の側面クランクレバーを回して鋼の弦を巻き上げながら叫んだ。
ガチガチガチ、と硬質な金属音を坑道に響かせながら、完全に引き絞られたレールへ、杭のように太い鋼鉄矢を装填し、カチリと固定音が鳴る。
「女子供を最優先に避難!一般市民の男どもも武器を持て!!家族を守れ!!!」
『おおぉぉぉぉーー!!!』
あちこちで戦闘が起き、泣き叫ぶ声が坑道内に木霊する。
……あぁ、うるさい。
本当に、なんなのよ、これ。
私はただの主婦だったのに。
どうしてこんな血生臭い戦場にいて、異世界の虫を殴り飛ばしてるのよ。
周と渉を探しに来たのに、手がかりの一つも掴めない。
何が聖女よ。何もできていないじゃない。
本当にっ!もうっ!!!
そんな焦りと無力感が、心の中でドロドロとした怒りに変わっていく。
あまりの惨劇に現実逃避してしまいたくなる気持ちを気合いでねじ伏せ、心の奥底にしまい込んだ、その時——。
「キシャアァァァァーーッ!!!」
耳を劈くような鳴き声が聞こえたかと思うと、白くキラキラした糸が放射状に飛んできた。
————蜘蛛だ。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「ひぃぃぃ!た、助けてくれ!!」
「まずい!ロックスパイダーだ!擬態してやがった!!」
蜘蛛の糸に絡め取られたドワーフたちが叫び声をあげて助けを求めていたが、私の耳には入っていなかった。
…………なんて
…………なんて可愛くない蜘蛛っ!!!
何なの?!ロックスパイダー!?ふざけんじゃないわよ!
蜘蛛の可愛いフォルムを全捨てして石に擬態するとか、馬鹿じゃないの!!?
こっちはただでさえ、情報がなくてイライラしてんのよ!
せめて私の癒やしくらい、モコモコして可愛くありなさいよ!!!
あぁぁぁぁ!!もうっ!!!腹立つ!!!!
「私の楽しみ返せやぁぁぁぁっ!!!」
私は叫びながら、ロックスパイダーに飛びついた。
「ば、馬鹿っ!何やってんだ!!!」
ダニエルがそう叫んだのは聞こえたが、私の頭の中はロックスパイダーへの怒りでいっぱいだ。
八つの目の内の一つに的を絞り、渾身の力で破壊する。
ロックスパイダーは叫び声をあげて暴れるが、そんなことは知ったことかと私は更に叩き込み、目を破壊した。
しかし、ロックスパイダーも黙ってされるがままではない。
私を噛もうと大きな口を開け、毒を吐くが、私は気にせずそのまま左手で鋏角を持ち、右手で破壊した目の縁を持って、強引に左右に引き裂いた。
私が毟り取った太い鋏角をロックスパイダーの脳天に突き刺すと、ロックスパイダーは動かなくなった。
(……次はもっと蜘蛛らしく生まれてきなさいよね)
色々な葛藤をロックスパイダーに叩き込んでしまった感はあるが、無事倒せたので僥倖だろう。
「お前は何やってんだ!」
ダニエルは顔を引きつらせて、私のところまで駆け寄り怒鳴ってきた。
「あんな無茶苦茶な戦い方があるかっ!!死ぬ気か!お前は?!」
私の顔に唾を撒き散らしながら喚くダニエルに、汚いなぁと思いながら袖で顔を拭いて答える。
「私の戦闘スタイルはいつもあんな感じよ。殴る蹴る、投げる。力技で引き裂くとか……」
知らなかった?と首を傾げてダニエルに問うと、ダニエルは顔を引きつらせてこう言った。
「えげつねぇ……」




