第百話 前門のロックゴーレム、後門のルブロンスパイダー
「失礼ね。えげつないのはジャンよ。内側から焼くなんて」
「まぁ、坑道の中で魔法を使うとなると、そういう使い方しかできねぇだろ。ましてや護衛対象に当たらないようにしなきゃだしな」
それはそうだが、内側から雷で焼かれるなんて真っ平ごめんだ。
ジャンは怒らせないようにしないといけない。
「危ないっ!」
ダニエルが私の腕を引っ張り、地面へ放り投げた。
地面へ倒れ込んだ私は何事かと振り返ると、ダニエルがアースワームの頭を丁度叩き割ったところだった。
私はすぐさま立ち上がりダニエルに礼を言ったが、当の本人は気にした風でもなく「油断するなよ」と言って持ち場へ戻っていった。
その後もアースワームを主に撃破していった。
クリスタルバットは数が少なかったため、一般市民の男性に任せて先を急ぐ。
暫く進み、もうすぐで第一中継砦に着くという頃、何故かドワーフ達が歩みを止めて困惑の表情をし、話し込んでいた。
一般市民が輪を作って話し込んでいるところへ、騎士団の面々も混じっている。
「どうしたんですか?」
私もその中に加わり、事情を聞いてみた。
「それがよ、本当なら一本道で繋がってるはずなんだが、何故か行き止まりなんだよ……」
眉根を下げ、頭を掻きながら答えるドワーフの炭鉱夫らしき男性は、武器にしていたツルハシで坑道の先を指した。
「……行き止まりだと?」
ヨルゲン隊長は丁度いま後方から来たらしく、行き止まりと聞いて眉根を寄せた。
すると、近くにいた別の警備隊の騎士が、顔を青くしてヨルゲンに報告する。
「 間違いありません。今朝、私がこの坑道の砦までの見回りを行った際は、何の問題もなく通れました」
ヨルゲン隊長は、炭鉱夫が指し示した先の坑道の奥を、またたき一つせずに凝視した。
その時、クロがその方角に向かって鼻にシワを深く刻み、歯を剥き出しにして唸り出した。
「クロ…何かいるの?」
そう言った瞬間、坑道の奥が動いた気がした。
岩が……動いている。
「ロックゴーレムだっ!!総員!前へ!市民の安全を最優先!!!」
『はっ!!』
矢継ぎ早にヨルゲン隊長の指示が飛び、騎士団は素早く市民の前へ出て陣形を組んだ。
「ジャン殿!我らが足止めをする!内部の魔核を雷で撃ち抜けるか?!」
「……やるしかないでしょう!」
ジャンは一瞬だけ怯んだ様子を見せたが、すぐに覚悟を決めた鋭い眼差しに変わった。
「来るぞっ!!!」
ロックゴーレムがドスン!ドスン!と土煙を上げて走ってきていた。
巨体のせいでゆっくり見えるが、意外と速く、既に眼前に迫っている。
轟音と共に何名かの騎士が弾き飛ばされるが、何とか陣形を持ちこたえさせた。
ジャンはロックゴーレムの関節から魔核を撃ち抜けないか探っているのか、目を凝らしてゴーレムの動きを追いつつ、雷魔法を手に纏わせている。
ガシャン!!という音と共にヨルゲン隊長の弓が発射され、ロックゴーレムの胸部へ直撃するが弾き飛ばされていた。
「やはり関節を狙わないと駄目か……!」
苦々しく吐き捨てるように言うヨルゲン隊長は、すぐさま次の弓を装填していた。
(私は打撃しかできないから、役に立ちそうもないわね……)
「私は一般市民を後方へ誘導してきます!」
叫びながらヨルゲン隊長へ伝え、みんなを後方へ誘導していたとき、それは現れた。
——黒い無数の目、太めの脚、顎には大きな鋏角。そして体中にある刺激毛。
「きゃあぁぁぁぁ!!!」
「ルブロンスパイダーよ!逃げなきゃ!!」
「逃げろったって何処に逃げるんだ?!」
特に女性と子供はパニックになり、右往左往し始めている。
後方にはロックゴーレム、前方にはルブロンスパイダーと呼ばれる蜘蛛の魔物。
「これは中々、きつい状況ね……」
折角、可愛らしい子に会えたっていうのに、状況が状況なだけに素直に喜べない。
「ミサキ!下がれ!!そいつは毛を飛ばしてきて攻撃してくるぞ!」
「へぇ……。その辺の生態も似てるのね」
ダニエルの言葉に自然と笑みが溢れてしまう私を見て、ダニエルは得体の知れないものを見たかのような顔をしていた。
「クロ!後ろの人たちに攻撃が当たらないように守っててくれる?!」
クロは既に女子供の前に立ち、守りの姿勢に入っていた。
「流石っ!」
その様子を見て私は安心してルブロンスパイダーに走って行き、距離を詰めた。
「ば、馬鹿っ!!無闇に突っ込むなっ!」
ダニエルがそう叫んだ瞬間、ルブロンスパイダーがお尻を少し浮かして、後ろ脚をお尻側に回すのが見えた。
(毛を飛ばす気ね!)
タイミングを見計らいバックステップすると、さっきまでいた場所に毛が突き刺さっていた。
「えぇ……刺激毛だと思ったら、刺さるわけ?どういう構造してるのよ」
てっきり刺激毛を飛ばして皮膚や呼吸器、粘膜への攻撃をするのだと思っていたら、もっと物理的に潰しにきた。
「でも、そっちのほうが安心ね」
ルブロンスパイダーと呼ばれたこの魔物は二メートルはある。
この大きさの蜘蛛の刺激毛を顔面や鼻に浴びようものなら、呼吸困難になって最悪死ぬだろう。
刺さるほうがマシだ。
とはいえ、毛自体に毒があるかもしれない。
当たらないに越したことはないなと考えたとき、ガムさんの言葉が頭を過ぎった。
『攻撃を受けない位置をキープし続けろ』
私には中々骨の折れるやり方だが、やるしかないだろう。
ダニエルもいるし、どちらかが仕留めれば良いだけだ。
そんなことを考えている内に、ルブロンスパイダーは後ろ脚で立ち上がり、前方の脚二本を高く上げて威嚇のポーズをとっていた。
不用意に近づけば、上から鋏角を叩きつけられて瞬時に噛み砕かれるだろう。
(さて……どうしようかしらね)
可愛い子ちゃんをしげしげと見つめながら、私は頬が緩むのを必死に堪えていたが、目の輝きまでは抑えきれていなかった。
どうやってこの最高に好みな強敵を仕留めてやろうかと、私は頭をフル回転させる。
そんな私の横で、ダニエルは油断なく武器を構え、少し顔を強張らせていた。
『神は愛を知らない』をお読みいただき、ありがとうございます。
皆様の温かい応援のおかげで、なんとか百話の大台までこぎつけることができました!
人生初めての小説執筆ということもあり、自分の日本語表現に日々頭を悩ませ、大人になってからこんなに文章と格闘するとは思わず、恥ずかしくも新鮮な毎日を送っております。
これからの展開としては、どんどんお話が重くなる予定です。
いえ、私としては、当初からかなりシリアスなファンタジーになるはずだったのですが、何故かミサキのせいでコメディ感が思ったより前面に出る結果となり……。
「何故こうなった……?」と作者自身が日々首を傾げるところです。
とはいえ、とんでもない方向へ脱線していかないよう、どうにか舵取りしながらミサキたちの旅を描いていきますので、今後ともどうぞよろしくお願いします!




