第九十七話 作戦会議と私の大好きなあの子
ヨルゲン隊長の部隊は、騎士が五名、一般兵が十名という構成だ。
部隊を代表して挨拶に来られたらしく、他の部隊員はまだ任務中なのだという。
「バルドガルド王も、もう暫くすれば来られると思います故、それまでの間、我々の担当地区と避難ルートの確認をさせていただきます」
そう言ってヨルゲン隊長は簡素な地図をテーブルに広げた。
「ご存知の通り、バルドガルド王国は地下都市であり、この王城も龍背山脈の中にあります」
「え?そうなの?」
ヨルゲン隊長の説明に驚いた私は、さっき怒られたばかりだと言うのに、思わず口に出してしまった。
案の定、ダニエルから睨まれた。
はいはい、すみませんね。
「驚かれるのも無理はありません。古代ドワーフの技術によって築かれた城は、地上と同じように太陽が昇り、月の満ち欠けまで再現されています。地上にあると間違われても仕方ありません」
ヨルゲン隊長は、説明をしながらも私の失言もさりげなくフォローしてくれた。
「今回担当するのは、王城から東にある一般市民の居住区になります。ここの北にある第二坑道は、既に封鎖済みです。西側の居住区は既に避難誘導を終えており、残りの地区を担当します。北から南へ避難誘導していき、南の第三坑道へ向かいます」
地図を見ながら皆、真剣な面持ちで聞いている横で、クロは呑気に昼寝していた。
これでも意外と話を聞いているのだから、凄いと思う。
「第三坑道は他の坑道に続いている脇道がたくさんありますので、古代龍の再封印時、魔獣が驚いて上層坑道へ逃げ出す可能性があります。くれぐれも気を抜かないようにしてください」
「分かりました」
「第三坑道を抜けた先、第一中継砦があります。ここまでが我々の警備担当です」
「海沿いの街まで護衛しなくていいのですか?」
ジャンが怪訝そうな顔をして聞くと、ヨルゲン隊長は首を横に振って答えた。
「いえ、第一中継砦で、第一山岳警備隊と交代します。我々は一般市民を受け渡した後も、漏れ出た魔獣を討伐しなければなりません。最近は魔素のせいか、魔獣の数も多く、個体の強さも増しています。一番危険な区域ですが、大丈夫ですか?」
ジャンとダニエルは優秀だと聞いているので、戦闘もそれなりに出来るはずだ。
恐らく一番弱いのは私だと思う。
足を引っ張らないように頑張らなくてはと、気合を入れていると、ジャンが「問題ありません」と応えていた。
「安心しました。もし、負傷すれば第一中継砦で治療可能ですが、それまで保たないと判断した場合は……」
ヨルゲン隊長の目がギラリと光を帯び、真剣な面持ちで私たちを見回しながら、低い声で言った。
「捨て置きますので、そのおつもりで」
ヨルゲン隊長の冷徹な宣告に、ジャンとダニエルは表情一つ変えずに低く頷く。
その様子に、本物の戦場なのだと突きつけられ、私は思わずゴクリと生唾を飲み込み、顔を強張らせた。
最近、戦闘をすることがなかったため、身体が訛ってないか少し不安だった。
何より山岳、地下という場所での戦闘経験はなく、どのような魔獣が出てくるか分からない。
私の戦闘スタイルは、殴る、蹴る、投げるが主であるため、岩石系の魔物が出てくれば、私の拳のほうが壊れてしまうだろう。
その点においても、まともに戦えるのか、些か不安だった。
「……ミサキ殿は何か不安がおありですか?」
不意に名前を呼ばれ、驚いて「へぁ?」と変な声で返事をしてしまい、またダニエルに睨まれながらも、不安要素である、魔物の系統について聞いてみた。
「魔物の系統ですか……」
ヨルゲン隊長は腕組みしながら少し考え込み、私の顔を見て言った。
「一番多いのはクリスタルバットです。クリスタルバットは攻撃力こそ高くはないですが、数が多く、子供や老人だと致命傷になり得ます」
成る程、それなら私にも倒せそう……と思ったが、飛んでいる魔物をどうやって倒せば良いのだろうか?
石を投げるぐらいしか思いつかない。
「次に多いのはアースワームでしょうか。アースワームは、人族の男性ぐらいの大きさの虫で、岩盤を掘り進める厄介なやつです。これは普段から坑道が崩れる恐れがあるため、討伐していますが、数が増えてきています」
「え……人ぐらいの大きさの……虫ですか?」
いや、これは気持ち悪すぎる。
触りたくないが、そんなことも言っていられないので、やるしかない。
「女性には厳しいかもしれませんね。見た目が悪いので」
私の顔色を見て、そう言ってくれたのだろうが、私は最大限強がり、笑って大丈夫だと伝えた。
「……そうですか。あと多いのは蜘蛛系ですね。毒を持つタイプもいますので、お気をつけください」
――蜘蛛。
何を隠そう、私は蜘蛛が大好きだ。
あのハエトリグモのモコモコした脚や、つぶらな複数の瞳、それにプリッとした可愛いお尻。
我が家を守ってくれていたアシダカ軍曹の、スタイリッシュな脚とあの頼もしさ。
出来れば飼いたいと思っていたぐらい、大好きだ。
蜘蛛の魔物はどんな子だろうかと考えると、口の端が上がるのが自分でも分かった。
そんな様子を怪訝そうな顔で見る男性三人の視線に気づき、何でもないと適当に誤魔化しておいた。
クロはそんな様子を薄目で見ており、そっとため息をついていたなんて、私は知る由もない。
その後も細かいところまで打ち合わせをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼致します。バルドガルド王が参られました」
近衛騎士が次々と入室し、その後にバルドガルド王が入室して来るその様は、まるで映画のワンシーンのようだった。




