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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第四章 バルドガルド王国派遣編

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第九十三話 聖女の嫌味、白目を剥く男

 貴族の格好をしたドワーフの後ろについて行くこと二十分ほど。

 どれだけ広いのよと愚痴をこぼしそうになるのをグッと堪え、静かについて行く。

 誰も一言も発さず、重い空気が漂っており、ダニエルは勿論、ジャンもなかなか青い顔をしている。

 ローガーは冷や汗をかいているのか、その顔色は優れない。

 幼少期のトラウマが、彼の頭の中で駆け巡っているのかもしれないが、今はどうしてあげることもできない。

 気休め程度に肩に手を置き、私はローガーに微笑んでみたが、ぎこちない笑顔が返ってくるだけだった。

 力になれず申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 そもそも私がローガーを巻き込んだせいで、大怪我をさせた挙句、帰ってきたくもない場所に帰る羽目になったのだ。

 私の責任は重い。


「こちらが謁見の間になります。くれぐれも失礼のなきよう……」

 チラリとローガーを見た気がしたが、気のせいだろうか?

 貴族の横を通り過ぎたとき「臆病者のご帰還だな……」と呟くのが聞こえた。

 頭に血がのぼる感覚がして、必死に抑え込もうと腕に爪を立てて堪えた。

 クロは、その貴族の影を一瞬だけ強く踏みつけ、私の足元で低く唸ったような気がした。

 ローガーの様子を盗み見れば、聞こえていなかったのか、先程とあまり変わった様子は見られなかった。

 安堵の息を吐きながら歩を進め、謁見の間に入った瞬間、息を呑んだ。


 壁の一部はあえて荒々しい岩肌のまま残されているのに対し、床は鏡のように滑らかに研磨されている。

 天井を支えるのは、太く強固な八角柱の石柱で、表面には龍王路(りゅうおうろ)で見たものと同じ古代ドワーフ語が彫られていた。

 壁には、歴代の戦士のものなのか、バトルアックスやウォーハンマーが飾られている。

 

「……凄い」

 

 大自然の岩盤を刻んだ圧倒的なスケールと、卓越した職人技が融合した、正に質実剛健を表した空間そのものに感嘆の声が漏れた。

 部屋を見渡しながら進むと、最奥には黒御影石のような、美しい艶のある黒い石が何段も並べられている。

その上には一塊の石を彫って作られたような武骨な玉座があり、そこにバルドガルド王であろう御仁が座っていた。


「よく来たな、我が弟ゴルムよ」

「この度は、龍王路(りゅうおうろ)を使わせて頂き、感謝致します」

 公式の場だからか、恭しく挨拶をするゴルムさんの後ろで、私達は声をかけられるまで跪き、下を向いていた。

 何でも、目下の者から声をかけるのは無礼なんだとか。

 私は黙って跪き、このまま声をかけられなければ良いななんて呑気なことを考えていた。


「ローガー。今回は大変だったな。傷はもう良いのか?」

「は、はい!もう癒えております。聖女様のお助けがあったからこそ、軽症ですみました」


 (いや、あれは誰がどうみても軽症じゃないわよ…)


 ドワーフ基準だと軽症の部類に入るのかと思ったが、絶対に違うと思う。


「そうか……。お前がローガーの言う聖女様か?」

 (ぎぇぇぇ!お声がかかった!!どうしよう!)

 という私の心の叫びは、蓋をして深くしまい込み、失礼のないよう受け答えをする。

 ダニエルは隣で「絶対余計なことは言うな!」という目で訴えかけていたが、私とてそこまでバカじゃない。

 ………たぶん。


「ローガー氏が、私をそのように呼んでいることは承知しております。しかし、その呼称は私にとって荷が重いものです。バルドガルド王からも止めるよう厳命してくだされば、私も心安らかにいられます。」

 ニコリと笑って、アンタの甥っ子どうにかしなさいよと遠回しに言ってみた。

 私の言わんとしていることが分かったのか、ダニエルは青い顔が益々青くなり、白目を剥きそうになっている。

 一方、バルドガルド王は、ミサキをじろじろと値踏みするような視線をむけた。

 「そうか。ローガーだけでなく、他のドワーフからもそなたの話は聞いておったのでな。人族の小娘と聞いておったが……。ワシに嫌味を言うとは、中々だ」

 私の意図が伝わったのか、いたずらっ子のように、ニヤリと笑って、私と目を合わせるバルドガルド王は、どうも楽しんでいるように見えた。

 

「聖女かどうかはともかく。ローガーを助けてくれたこと、王族一同、感謝する。龍の再封印に行くまでの間、ほんの束の間だろうが、休んでいけば良かろう」

「え、いや……しかし」

 ヴァルグリムに戻って報告をしないで良いのだろうかとジャンを見やると、慌ててジャンが口を開く。

「恐れながら申し上げます。我々は龍の再封印のご協力を賜り、即座にヴァルグリムへ帰還せねばなりません。報告も準備もありますので」

「報告は魔道具ですれば良かろう。そのほうが早い。準備はヴァルグリムの責任者に任せれば良いではないか。そもそも人族では、魔素が濃くて行けはせんだろう」

「では、再封印のご協力はしていただけるのですね?」

「無論だ。こちらとて龍が起きれば滅びるやもしれん。

 …まさか、お伽噺と思っていた龍伝説が本当だったとはな。王国が長く続いたが故に、廃れてしまったな」

 情けないことだと、ため息交じりにバルドガルド王が呟いた。

「廃れたのであれば、龍の再封印も難しいのでは……?」

 ジャンが青い顔で尋ねると、バルドガルド王は大丈夫だと答えた。

「一応、古文書に残ってはいる。それに最近、ノクス=ヴェリアとも親交を深めているからな。そちらにも協力の要請をして、既に資料の共有は済んでいる」

「ノクス=ヴェリアからも!それでは、万が一のときの戦力も期待出来るのですね」

 ジャンの顔色が一気に良くなり、ぱぁっと花が咲いたように笑っている。

 が――


「いや、戦力の派遣は断られた」

 その言葉に、ジャンは一気に地獄に突き落とされたような顔をしていた。

 ……外交をする人間が、ここまで顔に出して良いのだろうか?

 

「ダークエルフの連中は、“自然と共にある”という理念の元に暮らしている。龍も自然の一部で、そのせいで自分達が死んでも仕方ないと言っておった。アホらしい」

「……しかし、資料は貸してくださった、と?」

「ああ…。資料を活かして、儂らが再封印に成功するのも、また自然の摂理だとかなんとか…。儂から言わせれば、他力本願のクソ野郎だ」

『……』

 他国のことを貶すバルドガルド王に、何と言ったら良いのか分からず硬直する私達に、バルドガルド王は声高らかに宣言した。

 

「ドワーフの誇りにかけて、我らの全戦力で龍を封印してみせよう」

 その瞬間、脇に控えていたドワーフの近衛兵や騎士団が一斉に雄叫びを上げ、重厚な部屋に木霊していた。

 

 

 

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