第九十二話 誰も頼れない
龍王路は今までの坑道とは違い、綺麗に整備されていた。
流石ドワーフといったところか。
柱1つ取っても、随所に職人の技術が詰め込まれているのが一目で分かる。
一番の違いは明るさだった。
何故か外と同じくらい全体が明るく、手持ちの魔導灯が不要なのだ。
「すごいわね……。何でこんなに明るいの?」
周りを見渡しながらローガーへ尋ねるが、「俺には分からねぇ」と言われローガーを無駄にしょぼくれさせてしまった。
「ローガーはここを通ったことも、話も聞いたことがねぇだろうからな」
少し困ったような顔でゴルムさんが答える。
「龍王路は国家機密だって言ったろ?王族関係者なら誰でも知ってるわけじゃねぇ。王族関係者でもかなり限られた人間だけだ」
「……ならゴルムさんはかなり王に近いか、信頼されてるってことね」
「ん〜まぁ……。信頼されてるかは分からんが、近いのは確かだな。兄弟だからよ」
「……え?兄弟?!親戚じゃなかったの?」
「俺は親戚なんて言ってねぇぞ?」
確かに“親戚?”と聞いたのは私で、ゴルムさんはそれに明言はしなかった。
「兄弟っても、腹違いだしな。俺とローガーの父親は妾の子で、カルドランは本妻の子だ。」
話を聞けば現国王のカルドラン様は本妻の子らしいが、妾の子のゴルムさんを疎ましく思うことなく、大変可愛がったらしい。
しかし、大人の方はそうはいかなかったそうで、本妻からは酷い扱いを受けたそうだ。
(成る程……。ローガーを可愛がってたって言うのは、そういう生い立ちのせいもあったのね)
「そうだったのか……。俺は叔父貴がそんなに大変だったなんて、何にも知らなかった」
申し訳なさそうに呟くローガーに、ゴルムさんはガハハ!と笑って一蹴した。
「昔のことだ!気にすんな!!それにお前は小さかったんだ。知ったからと言ってどうこうできる問題じゃねぇ。お前はお前で大変だったんだからな…」
ゴルムさんはローガーの背中を喝を入れるようにバンバン叩きながら言った。
(何だかドワーフの王族って色々大変そうね…)
ゴルムさんとローガーにしか会ったことがないが、二人とも幼少期から苦労したようだし、いっその事、ドゥルガンの子孫から王を選出するのを止めてしまえば良いのにと思ったが、余所者が口を挟むことではないと思い直し口を噤んだ。
クロは龍王路に入ってから影があまりないため面白くなさそうにしていた。
たまに何処かに行って戻ってきたりしていたが、基本、私の隣を歩いていた。
龍王路は綺麗に整備されていたが、壁面には、ところどころ古い文字が刻まれているところがあった。
ゴルムさんに聞いたが、古代ドワーフ文字らしく、書かれている内容は分からないとのことだ。
風化した石碑も見えたが、先を急いでいるため足を止めなかった。
休憩や野宿をしながら、ようやく三日が過ぎたとき、前方からトカゲのような騎獣に乗ったドワーフの一団がやってきた。
ジャンやダニエルに緊張が走ったが、ゴルムさんが「大丈夫だ。近衛兵の定期巡回だ」と二人に落ち着くよう促す。
「ゴルム様!お久しぶりです」
「おお!久しいな。元気だったか?」
「はい!ゴルム様もお変わりないようで。ゴルム様が通られるのは聞いておりましたが、何かあったのですか?人族まで連れて帰ってこられるとは……」
近衛兵は、後ろにいる私達をチラリと見てゴルムさんへ質問していた。
まだ何も知らされていないのか、人族を見て警戒をしている様子だった。
「大丈夫だ。カルドラン様からは許可を取ってある。聞いていないのか?」
「人族を連れてゴルム様が帰られるとは聞いていますが、理由までは……」
「そうか。それは追々、カルドラン様から話があるだろうから、俺からは言えん。すまないな」
「いえ……。では、巡回に戻ります。お気をつけて」
近衛兵達はゴルムさんへ敬礼し、私達が来たほうへ騎獣を走らせていった。
他は特に誰とすれ違うことも、魔獣に遭遇することもなく過ぎ、とうとう5日目にして龍王路の終点である龍王門に着いた。
入るときと同じようにゴルムさんは血を赤い宝石に垂らし、門を開ける。
門の先は古い施設なのか、石造りの城のような雰囲気だった。
「ここは……?」
ジャンが見回しながら尋ねると、ゴルムさんは何でもない風に答えた。
「ここか?ここはバルドガルドの王城の地下だ」
意図せず入城してしまい、かなり慌てるジャンとダニエルは「せめて先に言っておいてくれ、心臓に悪い……」とゴルムさんに文句を言っていた。
ずっと階段を登って行くと、開けた広間に出た。
宗教施設のような雰囲気があり、中央には祭壇のようなものも見える。
龍を祀る神事でもやっていたのだろうかと思いゴルムさんに聞いてみたが、詳しくは分からないと言われた。
やはり大昔のことで忘れ去られたのだろうか。
それとも龍に関しては機密事項でゴルムさんも知らないだけなのか……。
分からないことばかりで、本当に龍の再封印が出来るのかと不安になってくる。
宗教施設のようなところから、更に上へ上へと階段を上がると、近衛兵が厳重に封鎖している門が見えた。
龍王門よりは小さいが、こちらも文様が細かく彫られた職人技が光る代物だ。
龍王門と違う点は大きさだけではなく、解錠の仕方だった。
ここの門は鍵で開くらしく、ゴルムさんは近衛兵に挨拶をして解錠してもらっていた。
門が開いた先には何名かの貴族風の格好をしたドワーフと、近衛兵が待っていた。
「ゴルム様、他御一行。長旅でお疲れのところ大変恐縮ではありますが、カルドラン様がお待ちです。今から謁見の間へご案内致します」
一番前にいた貴族の格好をしたドワーフが、恭しく挨拶をし、案内をしてくれた。
やっとここまで来た……
早く支援を取り付けて、龍の封印をしてもらわなければならない。
(私は聞かれたことだけ答えて、あとは大人しくしておけば大丈夫……。大人しく……。…………。どうしよう。自信ないわ)
ローガーに頼んで私を押さえつけてもらうようにしなければならないと思ったが、ローガーなら私を焚き付けるかもしれないなと思い、ダニエルに任せようと決心した。
……が、肝心のダニエルは、さっきから緊張で顔を真っ青にして胃を押さえている。
全く頼りになりそうにない様子に、私はため息を吐いた。




