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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第四章 バルドガルド王国派遣編

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第九十一話 いざ、バルドガルドへ

 空がいぶし銀のようにぼうっと明るくなり始めた頃、私達はヴィルヘルムさんからの激励を受け、バルドガルド王国へと出発した。


「うぅ……今日は一段と肌寒いわね」

 最近は寒さが増していて朝は少し息が白くなるほどだ。

 暑がりとはいえ、そろそろ冬用の衣類を買い揃えなければならない時期だ。

 スラムの子供達の服を買い揃えた上に、これからの活動資金の貯金や日々のやりくりを考えると、自分の分は後回しになり、何やかんやでお金が足りずにまだ購入できていない。


 (この仕事が終わったら報酬で色々揃えないと風邪ひいちゃうわね)


 そんなことを考えながら鉱山道を登っていたとき、中腹あたりでゴルムさんから声がかかった。

「あそこに見えている、あの坑道入り口から中へ入るぞ」

 ゴルムさんが指をさした方向へ目をやると、五十メートルほど先に坑道の入り口が見えた。


「下側の坑道から行くと魔素が濃くてミサキ達が危ないかもしれん。今回はこのルートで行く」

 ゴルムさんは人族の私達に配慮したルートを選んでくれたようだ。

 魔素の濃いところからしかルートがなければ山越えしか道はない。

 いくつか龍王路(りゅうおうろ)へと続く坑道があって良かった。


 坑道の中は薄暗く、奥に入るにつれてどんどん暗くなっていく。

 手持ちの魔導灯に照らされた坑道の壁面には、ツルハシの無数の傷や、削岩の模様が浮かび上がっている。

 安全のために張り巡らされた鉄骨や木製の支保工(しほこう)が無骨な機能美を醸し出していた。


 ゴルムさんの案内の元、どんどん奥に入っていく。

 どこも似たような作りで最早迷路だ。

 一人で帰れと言われても、もう元来た道は分からない。 

「ねぇ、ゴルムさん。現バルドガルド王って、どんな方なの?」

 どんな人なのか気になった私は、王様に会う前にどうしても聞いておきたくてゴルムさんに尋ねた。

 機嫌を損ねて打ち首にでもなったら大変だ。

 

(出来れば気難しい人じゃないと良いんだけど…)


「あぁ?そうだなぁ…頭が固いな。ルールは徹底して守る!って感じで融通が利かねぇ」

「え……でも、今回の龍王路(りゅうおうろ)は、バルドガルド王が使えって言ったんでしょ?」

「そうだ。俺も驚いたが、それだけ向こうも焦ってるってことだろう。龍が起きたらバルドガルドは終わりだ」

一瞬の沈黙の後、ジャンが重苦しい空気を振り払うように口を開いた。

「今のバルドガルド王はドワーフにしては珍しく、外交に重点を置いている。ただ頭が固いだけではないだろう」

「そうなの?」

「そういやぁ、ノクス=ヴェリアや南方の乾燥国家の三国と同盟組むとかなんとかで、他のバルドガルドの貴族と揉めたって聞いたな……」

「「ノクス=ヴェリアとか?!」」

 ジャンとダニエルが信じられないとばかりに同時に叫んだ。

「え?あぁ……言っちゃまずかったか?」

 そこまで驚かれるとは思わなかったゴルムさんは、少し焦った様子で顔を掻いていた。

「いや……だって、ノクス=ヴェリアだぞ?!」

「あの閉鎖国家とよく同盟なんか…」

 ジャンとダニエルは顔を見合わせながら眉根を寄せている。余程信じられないらしい。


 (ノクス=ヴェリアって鎖国でもしてるのかしら?)


 どんな国なのかと考えながら、私は足元のクロを見ていた。

 クロは暗いところが嬉しいのか、いつもより足取り軽くルンルンだ。

たまに影に入って、暫くすると違う影から出てきたりして遊び歩いている。

 暗闇で金の瞳だけが突然浮かび上がってくる様は、非常に恐ろしいので本当にやめて欲しい。

 バルドガルドに着く前に心臓が止まる。


 そんなことを考えながらボーッと歩いていると、ゴルムさんとダニエルとジャンはまだノクス=ヴェリアという国について話していた。

  

「ダークエルフの奴らは滅多に姿を見せないだろ?気難しい連中相手にどうやって国交なんか…」

 ジャンは出来る限りの情報を引き出したいのか必死だが、相手はゴルムさんだ。

 王の親戚とはいえ、ヴァルグリムで工房を営んでいるだけの一般人にすぎない。

 詳しく聞こうとしても、詳しくは分からないと言われてしまい、もどかしそうにしていた。


「ノクス=ヴェリアってダークエルフの国なの?どこら辺?」

 基本的な位置情報も分からないため、誰ともなく聞くと大人しくしていたローガーが、待ってましたとばかりに口を開いた。

「聖女様!仰るとおり、ノクス=ヴェリアはダークエルフの国だ。バルドガルドの上にあって、あそこも龍背(りゅうはい)山脈の中に国があるんだ」

「じゃあ、昔から交流はあったのね?」

「交流自体は細々とあったらしいが、ダークエルフ達は基本的に他の種族と馴れ合わねぇ。ジャンとダニエルが驚くのも無理はねぇってことだ」

「へぇ……」

 呆れ顔のジャンとダニエルと違い、何も知らない私に真面目に教えてくれるローガーは、本当に誠実な人だと思う。

 ……ちょっと頭がイカれてる感はあるけど。


 ダークエルフは、ファンタジーにありがちな好戦的な種族なのだろうか?

 そうであれば出来れば会いたくないと考えながら足を進めた。

 


 数時間歩いていくと、大きな広間のようなところへ着いた。

 目の前には複雑な模様の入った巨大な門がある。

「何……これ…」

 あまりの大きさに開いた口が塞がらず、巨大な門を見上げていると、ゴルムさんが誇らしそうな顔で答えた。

「これが、龍王路(りゅうおうろ)に続く龍王門(りゅうおうもん)だ。ドワーフの王家の血筋にしか開けられねぇ」

 そう言ってゴルムさんは腰からナイフを出し、自分の左手の親指に少し刺して、龍王門(りゅうおうもん)の赤い宝石にその血を垂らした。

 暫くすると、宝石から淡い光が出たかと思うと、徐々に門全体に広がっていき、ガコン!という大きい音とともに少しずつ門が開き出した。

 

「ようこそ、バルドガルド王国へ。ここからはドワーフの国だ」

 笑って私達に話しかけるゴルムさんは、龍王路(りゅうおうろ)を手で指し示し、私達へ先に行くよう促した。

 ここからがバルドガルド王国――。

 この先に待っているのは、融通の利かない堅物の王か、それとも賢王か。

 私は不敬罪で捕まらないよう、気合を入れなおした。

 



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