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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第八十五話 完璧な泥棒

「ローガー、おめぇ……」

 ローガーの“ドゥルガンの子孫だからやるんじゃない”という発言に驚いたのか、ゴルムは瞬きすら忘れ、口をあんぐり開けている。

 

 「ローガー、作戦をいつ決行するかはあんたに一任する。だが、猶予はそうないぞ」

 ダニエルが窓の外、鉱山のほうを見やりながら低く告げた。

「最近、更に鉱山や川の魔獣が増えた。鉱山から漏れている魔素が濃くなったんだろう。採掘ギルドがいつまでこの異変を隠し通せるか、あるいは古龍の封印がいつまで持つか……正直、明日破れてもおかしくないだろう」

「……分かってる。長居は無用だ、すぐ動く」

重々しい雰囲気が場を包み、一瞬の沈黙のあとゴルムが口を開いた。

「バルドガルドに古龍の封印を依頼したほうが良いんじゃねぇか?」

「依頼はする。だが、帳簿か坑道記録簿がなければ無理だ。それさえあれば、アスカン家にも、ヴァルグリムの冒険者ギルド支部にも踏み込める」

 眉間にシワを寄せ、口はキツく結ばれたダニエルの表情に、断腸の思いで決断しているのだろうと見てとれた。

「……そうか。もし報告するときには言ってくれ。俺からもバルドガルドの王へ伝えておく。俺からも報告があったほうが、信憑性が増すだろうしな」

「……一国の王に鍛冶工房の親方が親書を送って読むのか?」

 ダニエルは訝しげながら、ゴルムの顔を見ていた。

「あ?ここではしがない鍛冶工房の親方だがな、俺はドゥルガンの子孫だぞ」

「いや、それは知っているが……」

 ダニエルは困惑したように眉根を寄せて、説明を促すようにジャンのほうを見る。

 ジャンは呆れたようにため息を吐き、「推測だが…」と前置きしたうえで話しだした。

「歴代のバルドガルドの王たちはドゥルガンの子孫の中から最も適任と判断された者がなっていたはずだ。つまり……」

「ゴルムもローガーも王の親戚ってこと?」

 そう言ったミサキは勿論、ダニエルもあまりの驚きに目を皿のようにして口はあんぐり開いていた。

 驚くのも無理はない。

 子孫の中から適任者を王に据えるということは、ゴルムもローガーもバルドガルド王になっていたかもしれないのだ。

 

 (だから幼少期から厳しく育てられたのね)

 

 ローガーの幼少期、強くなれと厳しく育てられたという話を思い出し、ミサキは深く納得した。

 

「まぁ、そういうこった。人族の役人の親書と俺の親書、二つがあれば頭の硬いアイツでも動くだろ」

「そ、そうか……じゃあ、親書を送るときには知らせるから、一報をよろしく頼む」

「任せとけ。甥っ子の尻ぬぐいはキッチリさせてもらうぜ」

「叔父貴、すまねぇ……」

 再度謝るローガーに、ゴルムはローガーの背中目掛けて手を振り上げた。

 バッチーン!

と乾いた音が鳴り響きローガーは咽せたが、ゴルムは一切気にした様子はない。

「失敗するのは構わねぇ。取り返しのつくことならな。今回のは、もう失敗できねぇぞ。気合入れろ」

 ゴルムはローガーを鋭く睨みつけ、ローガーもそれに応えるように頷いた。


「ローガー、流石に事務所に盗みに入るときに一人だと危ないから、私の家族を護衛につけたいの。いいかしら?」

 心配そうに尋ねるミサキに、ローガーは申し訳なさそうに答える。

「ありがたい話だが、流石に知らねぇ奴が事務所に来るのは目立つ。俺一人で大丈夫だ」

 そう言われて困惑したが、クロを紹介したことがなかったことを思い出した。

 「それなら心配要らないわ。クロ、ちょっとこっちに来てくれる?」

厨房へ声をかけるミサキを不思議に思い、ローガーとゴルムは厨房を見るが、ダニエル以外誰もいない。 

二人で顔を見合わせ首を傾げていると、誰もいないのに厨房のカウンタードアが揺れたのに気づいた。

ローガーとゴルムは、“誰かいたのか?”と目を凝らして見れば、暗闇に黄金の目が浮かんでいるのが分かり、思わず息を呑んだ。

 

 闇の中から音もなく現れた、漆黒の巨獣――影豹(えいひょう)のクロに、二人は思わず身構える。

「お、おい聖女様、こいつは……!」

「私の家族のクロよ。ローガー、深部ほどじゃないと思うけど、魔素が濃くなっている以上、人族の私やジャンは足手まといになるかもしれない。だから、私の代わりにクロを連れていって」

 

 ミサキはクロの頭を撫でて、「お願いね」と言うとクロはローガーの足元へ歩み寄り、その巨体を信じられないほど滑らかな動きでローガーの「影」へと溶け込ませて消えた。

「なっ……!? 影の中に消えやがった……!」

「クロは影や闇に潜むことができるの。危なくなったら必ずローガーを助けてくれるわ。……二人とも、必ず無事で戻ってきて」

 ミサキの祈るような言葉に、ローガーは自分の影を見つめ、ゴクリと唾を飲み込んで頷いた。

「……ああ、預かったぜ、聖女様」


 それからはずっと皆で、明日からの作戦を詰めた。

「……よし。もう一度流れを確認する」

 ジャンが卓上の地図を指で叩きながら、一同を見回した。

「明日の日中、ローガーは信頼できるドワーフの説得に回る。深夜、その仲間たちに事務所から離れた鉱山入り口辺りで騒ぎを起こしてもらい、事務所の人間をすべて炙り出す。その隙にローガーが潜入して、目的のモノを盗む。ここまではいいな?」

「ああ、問題ねぇ」

「ローガー、盗み出した帳簿と坑道記録簿は、その場ですぐにクロに渡してくれ。クロなら影渡(かげわたり)で、ここにいる俺の元へ一瞬で証拠を届けられる。届け終えたクロは、またすぐ影渡(かげわたり)でローガーの影へ戻り、そのまま護衛につく」

 ダニエルが腕を組み、冷徹な目でローガーを見据えた。

「証拠さえこちらに渡れば、あんたがその場で不審がられても物証は出ない。クロが戻り次第、平然と騒ぎのほうへ行き、何も知らない風を装ってそのまま帰宅しろ」

「なるほど……完璧な泥棒の計画だな」

 ゴルムが感心したように鼻を鳴らした。

 これでようやく作戦が纏まったが、時間は深夜を過ぎていた。

 既に星が空いっぱいに広がり、早く寝ろと言わんばかりに瞬いている。

 ミサキは窓からその様子を見ながら、どうか明日は無事に終わりますようにと願わずにはいられなかった。



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