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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第八十三話 かなぐり捨ててでも

「よぉっし!昼までに大方片付けちまうぞっ!」

『おおぅ!!!』

 他のドワーフ達は一服済ませ、気合を入れるためか、いつものように雄叫びをあげていた。

 毎回雄叫びをあげる必要があるのかと呆れてしまうが、これを聞かないと調子が悪いのでは?と心配になってしまうため、自分もかなりドワーフに毒されてきたなとミサキは思わず苦笑いが出てしまった。


「ローガー!もう皆休憩終わったみたいよ?」

 振り返りローガーを見ると、さっきまでのウジウジローガーは何処かに消え失せ、何やらスッキリした面持ちで、どことなく重厚な雰囲気すら感じさせた。


「……ローガー?」

 あまりの表情の違いに、ミサキは訝しげに名前を呼ぶが、ローガーは「大丈夫だ」と笑って行ってしまった。

「まぁ、とりあえず片付けて一旦戻ろう……」

 

 (なんだか吹っ切れたようだし、良かった良かった)


 そんなことを呑気に考えていたミサキは、手早く食器を片付けて宿へと戻る。



 宿ではダニエルが昼食の仕込みをしていた。ミサキは邪魔にならないよう食器を洗うため、厨房に並び立つ。

「……ダニエル、いまちょっといい?」

「……待て。」

 横目でチラリとダニエルを見れば、左の中指にはめた指輪の宝石を右手で触れると、宝石が青色に淡く光るのが分かった。

「いいぞ」

 ダニエルはミサキの方を見ずに話を促す。

 (初めて見たけど、これが音声遮断の魔道具なのかしら……?)


「実は……」

 ミサキはさっきのやりとりを報告する。

 ダニエルは表情を変えずに黙って聞いていた。

「……やはり知ってそうだな」

「そうね」

「ミサキ、ローガーをこっちに引き込もう」

「え?!」

 思わずダニエルのほうを向き、目をひん剥いて驚いてしまった。

「馬鹿野郎。普通にしてろ」

 短く叱責され、ミサキは「ご、ごめん」と慌てて向き直る。

「採掘ギルドの帳簿が欲しい。届出の死亡者数と照らし合わせたいんだ。あとは出来れば坑道記録簿があれば良いんだが、最近、採掘ギルドも警戒してるみたいで潜入が難しい」

 仕込みをしながら何でもない風に言ってのけるダニエルに、ミサキは冷や汗が出る。

 

 (まさか、それをローガーにやらせるってこと……?)


 それは、採掘ギルドを裏切れと言っているも同義だ。

 あのローガーにそんなことが出来るだろうか。


「それ……。ローガーが嫌がって採掘ギルドに報告したらどうするの?」

 恐る恐るダニエルに聞くミサキだが、その答えはとうに分かりきっていた。

「…………終わりだ。報告されないようにお前が説得しろ」

長い沈黙の後、重々しく口を開いたダニエルだったが、“終わり”というのは作戦の終わりを意味するのか、ローガーを始末するという意味なのか、ミサキには判断が出来ずにいた。



 

 嫌な役割を押し付けられたなと思いながら、3時のおやつの提供のため、ミサキは朝と同じ道を歩いていた。

 

 (上手く出来るかしら……)


 何をどう言えば引き受けて貰えるか全く分からず、ミサキの頭の中はフル回転していたが、いい言い回しは思いつかなかった。

 一歩一歩近づくたびに、ミサキの心臓は速さを増し全身に響くように脈打った。

 

 ―――――このままたどり着かなければ……


 下手をすればローガーの身に危険が及ぶ事態に、逃げ出したい気持ちを堪えて足を踏み出す。

 ミサキの心とは裏腹に作業現場に到着してしまい、ミサキは思わず大きなため息を吐いた。


「みんな!休憩にしましょ!!」

 ミサキが声をかければ、ドワーフ達は「待ってました!」と笑顔で駆け寄ってくる。

 ミサキはお茶とクッキーを配り、皆へ労いの言葉をかけていく。

 

 皆に配り終えたミサキは、ローガーはどこで休憩しているのかと探した。

 庭の大きな木の根元で一人、クッキーを美味しそうに頬張っているのを発見し、ローガーへ近づく。


「ローガー、ちょっと良い?」

「お?どうした?聖女様。クッキーなら貰ったぞ!美味くてもう食っちまった!」

 ローガーは、ガハハと笑いながら髭の周りについたクッキーのカスを叩き落としている。

「……実はローガーにちょっとお願いがあるのだけど」

 眉根を寄せて話しだしたミサキに、ローガーは心配そうな面持ちで先を促した。

「どうした?!なんかあったんか?」

「ちょっと!うるさいわよ!!」

 声のボリュームが急に最大になるため、ここでの会話は難しいと判断し、宿へ来てくれないか誘う。

 ……変な意味ではない。


「……実はちょっと頼みたいことがあるから、私がお世話になっている宿に来てくれないかしら?夕飯をご馳走するから、作業が終わったら一人で来てくれる?」

 眉根を寄せて思い詰めた様子のミサキを見て、ローガーは一瞬、朝見せたあのスッキリとした、どこか腹の据わった目でミサキを見つめた。

 だがすぐにいつもの笑みを浮かべ、胸を叩く。

「聖女様からの頼みなら断るわけねぇ! 何があったか知らねぇが、作業が終わったらすぐにお邪魔するぜ」

 ローガーに宿の場所を伝え、ミサキは片付けを済ませ宿へと引き返す。

 ローガーに火中に身を投げ入れろと言わなければならないという事実に、胃はねじれ、心臓は相変わらず早鐘を打っていた。




 約束の時間。

 ミサキは宿の食堂でローガーを待っていた。

 ダニエルはローガーへ出すウサギのローストを作っており、ジャンは念のためカウンターで宿泊客のフリをしてご飯を食べている。


 (気が重いなんてもんじゃないわ。肉の焼ける匂いが気持ち悪い……)


 普段はあんなに美味しそうな香りのする、ダニエルの料理に吐き気すら覚えるが、気持ち悪いのは他人に危険な仕事を押し付ける自分自身だと自己嫌悪に陥った。

 思わず頭を掻きむしり、しっかりしろと心で叱責していると、ローガーがゴルムを連れて「待たせて申し訳ねぇ!」と、手を振りやってきた。


 (えぇ……。なんでゴルムさんまで連れてきてるのよっ!?)


 不測の事態に慌ててダニエルを見るが、黙って頷くだけだった。

 

 (ゴルムさんまで巻き込めっての……?)


 ローガーだけでもこんなに葛藤しているのに、ゴルムまで巻き込めと言うのかと、ミサキは崖から突き落とされたかのような気分になった。


「聖女様?顔色が悪いが大丈夫か?」

 心配そうにミサキを覗き込むローガーに、「だ、大丈夫……」と呟くだけで精一杯だった。

「来る途中、叔父貴のところに寄ってよ!頼んでた門扉がいつぐらいにできるか確認しとったんだ。聖女様んとこ行くって言ったら、叔父貴も行きたいって言うもんで連れてきたんだが……」

 まずかったか?と申し訳なさそうに言うローガーに、ゴルムが口を挟む。

「何か込み入った話だったか?俺は帰るから、二人で話せや」

 何を勘違いしたのか、ゴルムはニヤニヤしながら踵を返したため慌ててミサキは声をかけた。

「ゴルムさん!ゴルムさんにも……お願いしたいことが、あるの……」

 言いながらも尻すぼみになっていく言葉に、自分でも腹が立った。

 

 (腹をくくれ!後戻りできないのよ!龍が起きれば、(あまね)(わたる)も死ぬかもしれないわ)

 

 この国に、この世界にいるかも分からない我が子。

 でももし、いたとしたら――

 死ぬことだけは避けたい。

  

 最早、手段は選んでいられない。

 何もかも全部かなぐり捨ててでも、あの子達だけは守ってみせる。


 テーブルの上の手をぎゅっと固く結び、ローガー達の方を見やるミサキの目は、揺るぎない意志の色が宿っていた。

 

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