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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第六十九話 生きるためのミサキスペシャル

 子供達に愛情を注くこと。

 この世界に負けないこと。


 そう決意したものの、一体何をどうすれば良いのやら……

 そんなことを考えていると、炭鉱出入り口から第二陣の休憩組が吐き出されてきた。


 あっと言う間に店の前はごった返すが、第一陣から話を聞いてきたであろう人たちは、お利口さんに列をなして待っていた。

 我先にと詰め寄ってきた者たちへはお玉で威嚇し「並ばないと売りません」と忠告するが、過酷な掘削作業で鍛え上げられた男たちは、女の忠告なんて怖くないとばかりに脅しにかかる。

 

 結局、何名かは先程のクソ野郎と同じ目に合わせ、道端に捨てておいた。

 お陰で第二陣の休憩組も大人しく列をなして待っていてくれている。

 パンの宣伝をし、あちらへの売り上げに貢献することも忘れない。

 そして、お腹を満たされた子供達の様子を横目で確認すると、暇を持て余しているように見えた。


「クレア。お願いがあるんだけど、私がよそったシチューをお客さんに渡して貰えない?」

「お手伝い?いいよ〜」

「ゆっくりでいいから、気をつけてね」

「はぁ〜い」


 よしよし、まずは労働力を一人ゲットね。次は……


「マウロ、スプーンをお客さんに出してあげてくれない?」

「スプーン?渡してあげれば良い?」

「そうよ。『ありがとうございます』って言ってね」

「うん!」

 ……小さい子のお手伝いする姿はなんとも愛らしいものだ。

 これで看板娘と看板息子は出来上がった。

 さて、あとは年長組の五人だ。

 最年長のロドリゴにお金の受け渡しをお願いし、あとの4人には列の整理と、パンを浸して食べると美味しいという宣伝を任せる。

 ただし、二人一組で必ず行動するよう言い含めておいた。

 片方に何かあれば、片方が私のところへ伝えに来れるようにするためだ。


 小競り合いばかり起きていたときより、ぐっと楽になったが、子供相手だと強気に出てくる不届き者がいる。

 そのときは私が後ろから相手を黙らせれば良い。


「子供に手を出すようなクソ野郎じゃないですよね?」


 それはもう、笑顔で丁寧にお願いして差し上げた。ちょっと引き攣ったかもしれないけど、大人に対応できた自分を褒めてあげたい。

 お願いされた側の男は、何だか顔色が悪かった気がするけど、お腹でも痛くなったのかしら?


 

 第二陣の休憩組は子供達の奮闘もあり、順調に捌き切れた。

 人が疎らになったとき、子供達に休憩をさせるため声をかけた。


「みんな、ありがとう。すごく助かったわ!第3陣の休憩組が来るまで休んでて」

「えぇ?!まだ手伝うのかよ!疲れた」

「もう疲れたの?クリフはまだまだね!クレアは手伝う!」

「う……。俺だって!まだ手伝えるさ!」


 微笑ましくも、どこか懐かしい兄妹喧嘩のような光景に、思わず目を細める。

 とはいえ、大人相手に気を張ったのだろう。

手を出されたり、怒鳴られたりするかもしれない恐怖の中で接客をするのは、子供の精神にはかなりキツいはずだ。

 少しでも労ってあげたいと思い、私はポケットを探って「そうだ!」と閃いた。

 

「みんな!お小遣いをあげるから、甘いものでも買っておいで。パン屋さんになら、甘いお菓子とかあるかもしれないわ」

「良いのか?!」

「やったー!」

「早く行こうぜ!」

「お店の中に入っちゃダメよ〜!」

『はーい!』

 振り向きざまに手を挙げて、子供たちは一目散に駆けていった。

 見ていると、きちんと言いつけを守り、店の出窓から声をかけてお菓子を注文している。

 しばらくして、眩しい笑顔で「これだけ買えた!」と布包みを持って戻ってきた。


 包みを開けた瞬間、スパイスの香りがふわっ鼻をくすぐった。

四角い茶色のクッキーだ。

 

 (スパイスクッキーかしら?ヴァルグリムではスパイスをよく使うわね。)

 

 カエルの串焼きにしろ、クッキーにしろ、かなりスパイスを使っているようだ。

『ミサキスペシャル』にもそれなりの量を入れ、濃いめの味付けにしたから、見た目はアレだが、味はあまり抵抗がなかったのかもしれないなと、ぼんやり考えて、クッキーを分け合いながら食べる子どもたちを見ていた。

 

 (子どもたちのほうがお利口さんじゃない)

 

 シチューを奪い合って喧嘩したりする大人のなんと情けないことか。

 子どもたちを見習いなさいよねと、ため息をつくほかない。


「あ!あれたぶん、休憩の人たちだよ!」

「あら、ほんとね。さぁ!みんな。あと一踏ん張りお願いね!」 

『はぁ〜い!』

  

 

 第三陣は並んでくれる人がほとんどだった。

 というか、第三陣はドワーフばかりで、何故か私に対して妙に親切というか、気さくというか……

 ドワーフは頑固で気難しいと思っていただけに、肩透かしを食らった気分だ。

 

「これは美味いな!昨日は食べ損ねちまってよ」

「ごめんなさいね。今日はたくさん用意したから、まだおかわりもあるわよ!」

「そいつぁ、ありがてぇ。底にいると芯まで冷えてかなわねぇんだ」


 “底にいると”

 ドワーフの言葉が頭の中で何度も木霊する。

 

 (この人、鉱山の深部に行ってるのね)

 

ラウラさんから聞いた話を思い出し、顔に出ないよう細心の注意を払う。

 ここからは主婦の独壇場だ。

 スーパーでバッタリあったママ友と話をするように、ごく自然な感じでドワーフと話していく。


「鉱山の中って冷えるのね?冬は大変でしょう?」

「そうなんだよ!上のほうはまだマシなんだけどよ。下は日の光も届かねぇし、空気もなぁんか重いしよ。全く温まりゃしねぇ」

「鉱山の中では温まる道具とかないの?火は使えないんでしょ?」

「魔道具のヒーターがあるにはあるが、支給されねぇしな。個人で買うには、ちと値が張りすぎる」

「そうなの……。それなら、私のシチューを鉱山の中で出張販売できればいいのにね。温まるでしょうに」

「……」

「どうしたの?」

「それだ!」


 ドワーフの男は目をこれでもかと見開いたかと思うと、器を私に押し付け、急に思い立ったかのように猛烈な勢いで鉱山へと走り去って行ってしまった。

 

(まさか……本当に中での販売許可を執りに行っちゃったんじゃないでしょうね?)

 

 そんな上手くいくわけないと苦笑しつつ、残りのシチューを捌いていく。

その後は特に有力な情報は出なかったものの、用意したシチューは見事に完売した。

 片付けを終え、私は子供たちをぐるりと見渡した。

 

「みんな! とっっても頑張ってくれてありがとう、本当に助かったわ! 私、これから明日の仕込みの買い出しに行くんだけど、みんなの夕飯の材料も一緒に買っちゃおうと思うの。宿の厨房を借りて、みんなで一緒に作りましょ。それでいい?」

「一緒に作るの? クレアやる!」

「ぼくもー!」

 

年下組はやる気満々で、「何を作るのかなぁ」と早くもはしゃいでいる。

 

「クリフたちも、それでいい?」

 

 問いかけると、年上組の少年たちは黙り込んで、お互いに複雑な目配せを交わしていた。

 やがて、リーダーのクリフが意を決したように口を開く。

 

「……オバちゃんには感謝してる。けどよ、本当にいいのかよ。俺たちは盗みもするクソガキだぜ? 宿の部屋に上げたら、何か盗むかもしれねぇぞ」

 

 自分たちを「汚いもの」として突き放そうとする、寂しい強がり。

 その言葉を聞いた瞬間、私ははぁー、と盛大なため息を吐いてみせた。

 

「……はぁ? あんたたちがそんなことするわけないじゃない」

「え……。いや、だから、俺たちは今までそうやって盗んで生きて——」

「生きるために盗んだんでしょ」

 

 私はクリフの言葉を遮り、彼らの目を真っ直ぐに見据えた。

 

「下の子たちを飢え死にさせないために、必死だっただけじゃない。……だから、これからはあんたたちが盗まなくて済むように、私が『生きるための技術』をみっちり教えてやるって言ってるの。いいから黙って着いてきなさい!」

「教えるって……何をだよ」

「ミサキスペシャルよ!」

「は?」

ミサキスペシャルとは一体何なんだと、怪訝な顔で顔を見合わせている少年たち。

その戸惑う姿がなんだかひどく可笑しくて、そして彼らの未来へのささやかな期待に、私の胸の奥はぽかぽかと温かいもので満たされていくのだった。

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