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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第六十七話  魔素と嫉妬が渦巻く街

「ミサキさん、この量の食材を一人で運んできたのか……?」


 宿の主人、もといギルド職員のダニエルに、帰って早々「女一人が運べる量じゃないだろ」と呆れられた。

 そんなに重くないのだが、こちらの女性は非力なのだろうかと疑問に思ったが、食材を運ぶのに忙しく、すぐ忘れてしまった。


「あ!そうだ。クロに魔道具を渡しておかないと!」


 日が暮れてきていたので、早く渡さないと潜入するのが遅くなってしまうと、部屋へ急ごうとしたとき、クロがトコトコ歩いて食堂へ入ってきた。

 

「クロ!丁度よかった。魔道具預かって来たわよ……って、聞いてる?」


 差し出した私の手を完全に無視して、クロはダニエルさんの元へ一直線に向かう。

 「くぅーん」と、まぁそれはそれは可愛い上目遣いで一鳴きしてみせれば、あっという間に特盛りの肉皿が出てきた。

 

「……ダニエルさん、あんまり甘やかさないで下さいね」


 困ったように言う私に、ダニエルはデレデレしながらクロに肉を差し出している。


「いやぁ、だってさ、こんな可愛い子ちゃんにおねだりされたら断れないだろ? なぁ、クロ?」

 

 私をチラっと見たクロは「いいだろぉ?」と言わんばかりのしたり顔を披露する。


 (こいつぅ……)


 あとで覚えとけよと念を飛ばすが、クロはどこ吹く風で肉を美味しそうに頬張り始めた。

 

 そんなクロを横目に、皿洗いと煤角牛(すすつのうし)のシチューの仕込みをする。

前回の味見で感じた「物足りなさ」を補うため、市場で新しく見繕った香辛料を少しずつ足して調整していく。

 シチューがコトコトと煮込み段階に入った頃、ようやく満足したクロが優雅に毛繕いを始めていた。私はその首に、新しく交換してもらった魔道具をそっと下げてやる。

 

「今回も無理しないでよ」

 

 そう言うと、分かっていると言いたげに、いつも通り鼻を鳴らすが、今日はクリフ達の姿を見た後で、心にあまり余裕がなかった。

 ギュッと両手でクロの顔を包み、「絶対よ」と念を押す。

 何かを察したのか、クロが手を一舐めし黄金色の瞳は「安心しろ」と言っているように優しく揺れた気がした。


「いってらっしゃい」


 言うが早いか、クロはミサキの影に飛び込んで逝く。

 波打つ影を見つめ、暫く立ちすくんでいると「スープが沸騰してるぞ」というダニエルの声にハッと我に返る。


 それからは手早くシチューの仕込みを再開させ、あとは明日まで寝かせて、更に煮詰めれば完成だ。

 

 (今日は色々あって疲れた。早く寝よう……)

 

 部屋へ行き、ベッドへ倒れ込むと、さっきまでいたクロの温もりを感じ、すぐ寝落ちしてしまった。






  翌朝、いつの間にか帰ってきていたクロが隣で寝ていたことに気づいた。

 起こさないように(どうせ起きるだろうけども)慎重に魔道具を外して預かっておく。


「お疲れ様」


 と言い部屋を出る間際、クロは尻尾を一振して返事をする。


 そのままギルドへ赴き、ラウラさんに魔道具を渡して「鉱山で病が流行っている」という昨日の噂を報告する。

 苦虫を噛み潰したような顔をしたラウラは、現状分かっていることをミサキへ伝える。

 

「その噂は最近出始めたみたいです。こちらでも調査を始めようとしていたのですが、クロさんに潜入してもらって原因がわかりました。」 

「……もしかして、昨日の魔晶石が関係ありますか?」

「はい。魔晶石ができるほどの濃厚な『魔素』が溜まると、人体にも悪影響を及ぼします。クロさんが潜入した場所は中層のかなり奥で、空気が滞留しやすい場所だったようです。結果、濃度は薄いですが魔素溜まりができてしまったのだと見ています」

「中層で魔素溜まりが出来るなら、深部はかなり濃いんじゃあ……」

「そうだと思います。人族は魔素に強くはありませんので、病にかかる人が増えたのも納得です。恐らく深部に行っているのはドワーフかと……」

「じゃあ、ドワーフなら何が起きているか知っているかもしれないってことですね?」

「はい。クロさんには、このまま潜入を続けてもらって、ミサキさんはクロさんのサポートと情報収集を引き続きお願いします」

「分かりました」


返事はしたものの、クロのサポートと言っても私にできることはこれといってない。

 ……せいぜい、帰ってきたらブラッシングをしてあげることくらいだろう。


 足早に宿へ戻り、昨日から寝かせていたシチューを煮詰めていく。

 あの子供たちが待っていると思うと、不思議と時間が経つのが遅く感じられ、気持ちばかりが焦ってしまう。

 

 (ちゃんとお利口さんに待ってるかしら?)

 

 あれだけの「教育的指導」をしたのだから懲りただろうとは思うけれど、人間の本能、特に空腹には抗えないものだ。

 それに成長期の子たちに、もうひもじい思いはさせたくない。

ようやく完成したシチューを台車に乗せ、炭鉱の入り口へと向かう。今日は量が倍だ。

 ガタガタの石畳に神経をすり減らしながら、限りなく急いで台車を押した。



 炭鉱入り口には着いたが、子どもたちの姿が見えなかったので、辺りを見回してみるも姿を見つけることができなかった。

 

 (まだ寝ているのかしら、それとも……)

 

不安を抱えつつも開店の準備を始めていると、なぜだか周囲からの視線がチクチクと突き刺さることに気づいた。

顔を上げて確認してみるが、目が合った瞬間に、皆こそこそと慌てて視線を外していく。


 (もしかしなくても、昨日のアレのせいかしら……)


 何で自分はこうも目立つ行動をとってしまうのかと反省するが、もう後の祭りだ。

 頭を切り替え、作業を進めていくと串焼き屋のおっちゃんが顔を出した。


「よぅ!人が押しかける前に食いに来たぜ」


挨拶を交わし、シチューをよそってやると「やっぱ、すげぇ見た目してんなぁ」と器をのぞき込み、まじまじと観察しているが、一口食べると皆と同じようにあっという間に完食した。


「こいつぁ美味いな!あれだけ売れるのも納得だ。……ただ、気をつけとけよ。新参者に場を荒らされたって、やっかんでる奴がいるぜ」


 たぶん売上が下がったんだろうよと向かいの店のパン屋をチラリと見た。

 そこには、こちらを蛇のような目で睨みつけている、ふくよかなオバさんが仁王立ちしていた。

 いらぬ反感を買ったのは、売上だけのことか疑問だなと思い、パン屋のオバさんの様子をそれとなく窺う。

やはり串焼き屋のおっちゃんのことを店の中からチラチラ見ている節がある。

用事もないのに外に出ては、串焼き屋のほうに行って話をしたりしているようだ。

 

 (面倒なことに巻き込まれないようにしないと……)

 

 《女人嫉妬は鬼界に到る》

 ——女の嫉妬ほど恐ろしいものはないという古い言葉が、不穏に頭を過った開店前だった。


 

 

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