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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第六十二話 ミサキスペシャル

深呼吸で落ち着きを取り戻し、ラウラの見当違いな質問は適当に流して本題に入る。


「クロに潜入捜査をお願いしました。やってくれるみたいなので、魔道具をお借りできますか?」

「……でも、本当に大丈夫なんですか?」

「クロは利口です。自分に危害が及ばない限り襲ったりしませんし、潜入と伝えているので、自分から人に見つかるようなヘマはしないと思います」



……先走って潜入するマヌケだけど

ぼそっと呟いた瞬間、私の影が波打ち、そこからクロがぬるりと這い出てきた。


「ひぃっ!」


ラウラの小さな悲鳴が聞こえた気がするが、気のせいだ。

クロが私を鋭い目で睨んでいる気がするのも、きっと気のせいだ。そうに違いない。


「クロ、行ってきたのよね? まだ昼だけど大丈夫だった?」

「え? もう行ってたんですか!? 困りますよ、ミサキさん! 魔道具なしで行かれて何かあったら……」

「ふん!」と鼻を鳴らし、ラウラのことなど視界にも入れず、クロは咥えていた「何か」をテーブルに置いた。ゴトッ、と重い音が響く。


「ま、魔晶石!? これ、鉱山で……?」

「魔晶石って何ですか?」

「……魔力溜まりができると結晶化する鉱物です。通常の鉱山で見かけることはまずありません」


それがここにあるということは、鉱山に異常な魔力溜まりができている証拠だ。

ラウラが慌てて「どの辺りで取れましたか?」と尋ねるが、クロは彼女の存在を完全に無視して私の足元で毛繕いを始めた。


「クロ、これがあったのはどの辺りか分かる?」


壁に飾られた地図を指差すと、クロは後ろ足で立ち上がり、前足で一点を鋭く指し示した。


「鉱山の中層あたり……。クロさん、魔道具を持って、もう一度行けますか?」


ラウラの問いには無反応。

彼女の頬がピクピクと引き攣っている。

意外と執念深いクロなりの仕返しなのかもしれない。私はクロと目線を合わせて、改めてお願いした。


「クロ、これを持って同じところにもう一度行ってもらえる? 映像があれば皆と情報共有ができるから。お願い」


クロは私をじっと見つめた後、尻尾を一振りした。

私は「ありがとう」と呟いて、その頭を優しく撫でる。


「やってくれるそうです。首から下げられる魔道具はありますか?」

「……はい。これです」


ラウラがポケットから取り出したのは、チェーンのついた虹色の魔道具だった。

それを受け取り、クロの首に掛ける。


「じゃあ、お願いね。危ないことはしないで。無理だと思ったらすぐ帰ってきて。約束よ」


両手でクロの顔を挟んで言い聞かせると、彼は「分かっている」と言いたげに鼻を鳴らし、静かに私の影へと沈んでいった。


「……本当に意思疎通ができるんですね」


心底驚いた様子のラウラを横目に、私は誇らしい気持ちと「クロに謝れやコラ!」という怒りを混ぜ合わせながら、話を次の段階へ進めた。


「ラウラさん、潜入はクロに任せますが、私は鉱山近くで屋台を開いて情報収集しようと思います。美味しいご飯があると、人ってポロっと話しちゃうものですから」

そのまま出店費用の申請へと話を繋げる。

流石に金貨38枚の調理魔道具は却下されたが、ギルド所有の宿にある「保温機能付きの鍋」を貸してもらえることになった。

これで温かい料理が出せる。



ギルドを出た後、商業ギルドでの手続きを済ませ、私は市場へと向かった。


「肌寒くなってくると、豚汁が食べたくなるんだけど……こっちは米がないしなぁ」


夕飯の買い出しのような手付きで、安くて質の良い野菜を選んでいく。

体力勝負の男たちには、濃いめの味付けがいい。

パンに合うような、具沢山のビーフシチューにしようか。



ミサキスペシャルの材料は牛のショートリブ、玉ねぎ、人参、セロリ、にんにく、トマト、赤ワイン。

香草は定番のローリエ、タイムに、開いた長ネギ。

開いたネギでローリエとタイムを巻いて紐で縛れば、なんちゃってブーケガルニだ。


「問題はウスターソースとケチャップね……」


ケチャップはトマトと酢で、ウスターソースは野菜の端材をスパイスと煮込んで自作するしかない。

スパイス専門店で店主にお任せして、それらしいものをいくつか見繕ってもらった。

 


宿に戻り、厨房の一角を借りて作業を開始する。


「さぁ、久しぶりの料理ね! 腕が鳴るわっ!!」


かつて毎日、家族のためにしていた当たり前の作業。

こちらに来てから止まっていた時間が、包丁の音と共に動き出す。

一瞬、胸がチクリと痛み、視界が涙で歪んだ。


(だめだめ! しっかりしなさい。今は料理に集中!)


乱暴に袖で目を拭い、私は山積みの野菜に向き直った。

ヴァルグリムの荒くれ者たちの胃袋を掴む、「ミサキ・スペシャル」の仕込みが始まった。

ご一読いただきありがとうございました。

ついにミサキの「主婦の腕」が異世界で発揮され始めます。

チートな魔法で作る料理ではなく、異世界のスパイスを見繕い、野菜の端材でウスターソースから自作する泥臭い仕込みこそが、彼女の最強の武器かもしれません。


次回、ヴァルグリムの荒くれ者たちの胃袋を掴む「ミサキ・スペシャル」が完成します。



もし「お母さん頑張れ!」「クロが可愛い!!」と思ってくださったら、ページ下の【☆】やブックマークで応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

次回もお楽しみに。

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