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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第五十九話 家族

翌朝、手早く支度を済ませた私は、クロと一緒に宿で朝食を済ませた。


「クロ、今からギルドに行ってくるから、ここで留守番しててね。目立つから、外に出ちゃダメよ」


クロはベッドに寝そべり、既に二度寝を決め込む気満々だ。

私をチラリと見たかと思えば、すぐに規則正しい寝息を立て始めた。


「マイペースなやつ……」

「行ってくるね」と声をかけたが、尻尾を一振りして返事をしただけで、全く気にしていない様子。

いつも通りのやり取りに、どこかホッとしている自分がいた。


それにしても、昨夜のあれは何だったのだろう。

スキルか、あるいは種族的な特殊能力?


色々な考えが浮かんだが、結局考えても答えは出ない。

私は考えることを放棄した。


今度、グランヴェルのギルドマスター、ロルフさんに会ったときに聞いてみよう……

と思ったが、あの恐ろしい威圧感を思い出して身体が震えた。


「……や、やっぱりヴェンデリンさんあたりに聞いてみようかな」


あの部屋から出た後に腰が抜けるような相手と、対等に話せる自信がない。



昨夜の記憶を頼りにギルドへ向かったが、雨と暗闇のせいで景色が違って見え、案の定迷ってしまった。

キョロキョロしながら歩いていると、背の低く逞しい、毛むくじゃらの男性たちがチラホラと目につく。


(……え。ちょっと待って。あれ、ドワーフ!? まじか! ちっちゃいけど、筋肉凄いなぁ……)


獣人に続き、またもファンタジー全開の種族を見て感動しっぱなしだ。

やはり人族より長寿なのかしら、などと考えているうちに、ようやくギルドの看板が見えてきた。


受付でラウラさんへの取次をお願いすると、昨日と同じ奥の個室へ通された。


「失礼します。早くからすみませんね」


入ってきたラウラさんは、挨拶もそこそこに本題を切り出した。


「ミサキさんはどういった形で調査されますか? 今回が初めてと伺ってますから、できる限りサポートするよう言われてます」

「何から手を付けたらいいか、皆目見当もつかないのですが……。とりあえず噂話の聞き込みから始めたらいいですか?」

「そうですね。組織への潜入はまだ難しいでしょうから、外から情報を集めるのが良いと思いますよ。ところで——ミサキさんは、クロさんと意思疎通はできそうですか?」

「クロと、ですか? 言葉は理解してくれているみたいですが、私がクロの言いたいことを全て理解しているかと言われると……」



ぶっちゃけ、全然分からん。


表情や仕草でなんとなく察しているだけで、完璧なコミュニケーションなんて夢のまた夢だ。

私が眉を寄せて考え込んでいると、ラウラさんは「そうよねぇ……」と小さく呟いた。

「実は、ギルドマスターはクロさんに直接潜入を依頼したかったみたいなんです」


詳しく聞けば、ギルドが期待していたのは、私というより「影豹」であるクロの隠密能力だったらしい。

ドワーフしか入れないという鉱山の深部へ忍び込み、証拠を押さえてくること。


…なんだ。

私に見込みがあるから依頼されたわけではなく、私はあくまで「クロとのパイプ役」ってことだったのね。


責任の重さに震えていた肩の荷は降りたが、同時に気分も少し萎んだ気がした。

自分が見込まれたと勘違いして、無意識に少し調子に乗っていた自分が恥ずかしい。

私は両手で頬を押さえ、顔が赤くなるのを必死で抑えた。



「ミサキさん、クロさんにこの魔道具を持って潜入してもらうことは出来ますか?」


ラウラさんの手にある虹色のビー玉のようなものが、差し込む朝日にキラリと光った。

映像を記憶する魔道具だという。


「鉱山潜入は難航していまして。でもクロさんなら、その能力で深部まで行けるんじゃないかと……」

「あの……さっきから気になっていたんですけど、クロの能力って?」

「……クロさんは影豹(えいひょう)ですから、『闇に紛れる』スキルをお持ちのはずです。長く生きている個体は『影渡り』という、影から影へ移動するスキルも使うらしいですよ」


——あぁ、昨夜の雨。

濡れていなかったのは、影の中を通ってきたからなのか。

思いがけず真相に辿り着いてしまった。



長く生きた個体。

彼はどれほどの時間を過ごし、何を見てきたのだろう。

最初は諦めにも似た目をしていた。

けれど最近は、少しだけ心を開いてくれている……気がする。

ふてぶてしい態度が増えたのも、きっと気のせいじゃない。



私が苦笑いしながらそんなことを考えていると、ラウラさんは怪訝そうにこちらを見て、溜息を吐いた。



「やっぱり魔獣にお願いするのは無理ですよね。いくら賢くても、一匹で潜入なんて。ギルドマスターも何を考えているのやら。失敗したらどうするつもりでしょう。テイマーも同伴させずにそんな博打を……」


ラウラの愚痴ともとれる言葉が、私の頭の中でガンガンと鳴り響いた。





――魔獣だから何だ。


何も知らないくせに。

あの子がどれほど誇り高く、どれほど私の支えになっているか。

それを知りもしない他人が、あの子を低く語るな。





「できます」

「……はい?」

「クロに話して、鉱山の深部へ潜入してきてもらいます」

「いえ、でも……失敗は許されませんし」

「できます。魔道具は首から下げられるようにしておいてください。私は一度、街の方へ情報収集に行ってきます」


ガタッ、と椅子を鳴らして立ち上がり、私はラウラの呼び止める声も無視して部屋を飛び出した。

頭に血が上っているのは分かっている。

少し歩いて冷やさなきゃ。



(お前、家族のことになるとすぐカッとなるなぁ)



ふと、旦那の笑い声が耳の奥で蘇った。

いつの間にか、私の中でクロも「家族」に入っていたんだな。

そう思うと、少しだけ誇らしいような気持ちになって、自然と口角が上がるのを感じた。

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