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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第五十五話 厄介な裏事情


ギルバートさんたちと別れ、私は再び街の散策を開始した。

これだけ大きいと、歩いているだけで迷ってしまいそうだ。

私はキョロキョロしながら、先日のガムとの会話を思い出す。


(……あっちが、ガムさんの言っていた危ない裏路地?)


視線の先に、昼間だというのにどんよりと薄暗い通りが見える。


……よし、反対に行こう。触らぬ神に祟りなしよ!


屋台の並ぶ安全な大通りを選んで歩き出す。

ふと、人が多いのに全然肩がぶつからないことに気づいた。


(ラッキー! 都会なのにみんな歩行マナーがいいのね)


なんて呑気なことを考えていたが、すぐに間違いだと気づく。

ぶつからないのではない、近寄って来てすらいないのだ。

みんな遠巻きにこちらを見て、道を開けている。

原因は——私の足元で悠然と歩く黒い影。


あぁ、なるほど。これなら私に悪さをしようなんて人、いないわよね!


私はルンルンでウインドー?ショッピングを楽しんだ。

ふと、一つの屋台の前で足が止まる。

山積みにされた、乾燥した茶色い実が目についた。


「あの、すみません。これって何の実ですか?」

「これかい? こりゃロジンの実さ」

「ロジンの実? 美味しいんですか?」

「……まあ、乾燥前なら食べられなくもないけどね。洗うのに使うのさ。石鹸なんて金持ちしか使えないだろ? うちらみたいな貧乏人は、昔ながらのこっちで洗うのさ!お嬢ちゃん、見たの初めてかい? よっぽど稼いでるんだねぇ! 」

とガハハと豪快に笑うおばさん。

肝っ玉母ちゃんという感じで好印象だ。


「これ、髪も洗えますか!?」

「あぁ、洗えるよ」

「これください! とりあえず十個!」


これで! 髪が! 綺麗に洗えるかもしれない!!

水に浸せば泡立つという魔法のような実に、私のニヤニヤは止まらない。

その様子を見て、クロが少しずつ距離を取り始めていたことに、私は全く気づいていなかった。


(……でも、ギシギシになるかもしれないわね。オリーブオイルか何か……ロジンの実の種から油が取れないかしら。少量でいいんだけど……一度やってみよう!)


そんな考察をしながら他の露店も回り、時折買い食いしながら店の人と話をしてみる。

やはりどこも漁獲量や収穫量が落ち、物価が上がっているらしい。

キノコ農園などの魔物養殖は問題ないらしく、庶民はキノコでかさ増しをして凌いでいるという。


「どこに行っても、主婦のやることは変わらないわね……」


一旦宿へ戻り、ベッドに腰掛けて考えを巡らせる。


「それにしても……やっぱり水が問題なのかしら」


上流でアンデッドや毒系の魔物が繁殖してる?

でも、それならすぐに人体に影響が出そうだし、ギルドに討伐依頼が出ないのも変よね。

工業都市だから汚水問題……?


ブツブツ言いながら考察していると、クロが私の膝を前足でグイと押してきた。


「どうしたの? 今、考え事をしてて——」

顔を上げた瞬間、心臓が跳ね上がった。

部屋にいるはずのない人物が立っていたのだ。


「どわぁ!? ヴェ、ヴェンデリンさん!?」

「大変申し訳ありません。何度かお声がけしたのですが、反応がなく……。再訪しようとしたところ、クロさんがドアを開けてくださいまして」


あぁ、もう! クロのやつ、先に教えてよ!


少しの抵抗としてクロをギロッと睨んでみたが、当の本人はベッドで優雅に毛づくろいをしている。


…覚えてなさいよ。


「それで、今日はどういったご要件で?」

「昨日、依頼をした件です。こちらとしても、情報共有をしておいたほうが良いだろうということで参りました」

ヴェンデリンさんは椅子を引き、ギルドが現在掴んでいる「原因の三候補」を挙げた。



1、地脈異常による水質変化(鉱脈を掘った弊害)

2、精錬作業の汚水垂れ流し

3、魔物の発生



「三については、熟練の冒険者が調査しましたが、魔物の発生は確認されませんでした」

「なら、原因は一か二ですよね? そこまで分かっているなら、私がわざわざ潜入する必要はないのでは?」

「……そこが問題なのです」


ヴェンデリンさんの表情がわずかに曇る。

聞けば、鉱山は領主である貴族の領地であり、その貴族はなんと、隣国のドワーフが治めるバルドガルド王国の縁者だという。

下手につつけば外交問題、最悪は戦争の火種になりかねない。

さらには精錬を行う鍛冶師たちも「工業ギルド」に所属しており、強引に踏み込めば工業ギルドVS冒険者ギルドの全面戦争に発展してしまうというのだ。


「……え? それの調査を、私がやるんですか?」


思っていたより一億倍くらいヤバい案件だ。

私は思わず頭を抱えた。


「主婦の手に負えるスケールじゃないわよ、これ……」


王都の夕闇が迫る中、私の胃は早くもキリキリと痛み始めていた。

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