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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第五十四話 キノコの香りと、ヤギの年齢


まぶしい……もう朝?


だるい身体を無理やり起こし、目をこする。

窓に目をやれば、燦々と朝日が差し込んでいた。


「……流石に、疲れてたのね」


久々に熟睡してしまった。整備されていない道を何日も歩き続け、野宿をこなし、王都に着いたと思えば討伐にギルドマスターとの面談だ。

疲れて当然だと言い聞かせながら、ふと隣を見る。


「……クロ?」


そこにいるはずの相棒がいない。

キョロキョロと部屋を見渡すが、影も形もなかった。

今までいなかったことなんて、一度もなかったのに。どこかへご飯の調達にでも行ったのだろうか?

強いあの子のことだ、心配はない。

けれど——。


(あの子たちみたいに、逸れてしまったら……)


脳裏に、離れ離れになった子供たちの顔がよぎる。

一気に不安と恐怖が冷たい波のように押し寄せてきた。

どうしよう、どこを探せば……

半ばパニックになりかけたその時、ガチャリとドアが開いた。

そこにいたのは、何食わぬ顔で入ってきたクロだった。


「クロ!」


私は慌てて駆け寄り、その首元にしがみついた。


「どこ行ってたのよ! いなかったから心配したじゃない!」


クロの頭を撫でまわし、自分自身の高鳴る鼓動を落ち着かせる。

当のクロはといえば、どこかバツが悪そうにそっぽを向いていた。


ん?

……くんくん。


どこからか、香草のいい香りがする。


「あんた……下の食堂で、ちゃっかりご飯もらってたわね?」


ビクッとクロの肩が跳ねた。

図星か。


こっちは心臓が潰れる思いだったというのに、この子は……!


怒りがこみ上げてきた瞬間、目の前に肉厚の肉球が迫った。

ぽふぽふ、と私の顔を優しく叩く。


(……肉球触らせてやるから勘弁しろ、ってことかしら)


「……しょうがないわね」


暫くそのぷにぷにとした感触をむにむにしていると、ずいぶん心も安定してきた。

最近、不安になると肉球に頼っている気がする。

……これ、もしかして私、ベビーシッターされてる?

恥ずかしさと情けなさが込み上げるが、依存は良くない。


しっかりしなきゃ。



宿の食堂で朝食を済ませ、さてギルドへ……と思ったが、昨日の今日だ。

「血まみれの狂戦士」として顔が割れるのは避けたい。今日は買い出しと市場調査に留めておこう。

私は昨日気になった露店が集まる通りへと足を向けた。


露店には所狭しと商品が並び、人通りも多い。


「グランヴェル名物、コウシンキノコの塩焼きだよー! さぁ! 買った買った!」


威勢のいい声に吸い寄せられる。見れば、大きな椎茸のようなキノコが串に刺さって焼かれていた。


「これ、魔物なの?」

「茶色い傘のキノコの魔物だよ。近くの農園から卸してるから新鮮で安いぜ!」


魔物の農園! そんなものまであるのか。

カエンキノコの凶悪さを思い出して身震いしたが、このコウシンキノコとやらは、のんびり昼寝をするような大人しい性質らしい。


「じゃあ、二つちょうだい」

焼き立てを受け取り、一本をクロへ差し出す。

「熱いわよ、大丈夫?」

クロはそんなこと気にする様子もなく、大きな口でガブリ。

まぁまぁだな、という風に尻尾をゆったり振っている。

私も一口食べてみたが、味はまるっきり椎茸だった。美味しい。


けれど……。

(あぁ、お醤油が欲しい。七味をパラリとまぶして……)


贅沢な悩みに溜息をついていると、クロが何かに反応し、小走りで駆けていった。


「ちょっと待ってよ!」

慌てて追いかけた先——人混みが少し途切れた場所に、見覚えのある二つの背中があった。


「「「あ」」」


ギルバートさんとガムさんだ。


「昨日はご指導(?)、ありがとうご——」

「お前! 昨日は俺たちに事後処理を全部押しつけて逃げやがって!」

「いや、文句はヴェンデリンさんにお願いします」

「ヴェンデリンに言えるわけねぇだろ! あいつは怒らせると怖いんだからな……」


私から見れば素敵紳士なのだが、現場の冒険者からすると恐怖の対象らしい。


「それより、昨日は大丈夫だったのか? ギルドマスターに呼び出されたんだろ。お説教か?」

ギルバートさんが声を潜めて問いかける。

「いえ、状況説明をしただけです」

潜入捜査の件は口を噤む。

「そうか。よかったな。ここのギルマスはマジでおっかねぇからよ。あれでも現役時代よりは丸くなったんだぞ」


ガムさんが「不落のロルフ」と呼ばれていた時代の恐ろしさを語り始めた。


「……ん? ギルマスの現役時代を、ガムさんは知ってるんですか?」

「あ? そりゃあな。俺はギルマスより年上だぞ」

「えぇ!? まじ!?」


思わず叫んでしまった。

ヤギ(獣人)の顔は年齢が全く分からない!


「獣人族は寿命が長いからな。人間で言えばまだ三十代そこらだ」

「えぇ……羨ましい。老化とかないの?」

「その代わり、寿命が近くなると一気に来るぞ」


(スーパー)サイヤ人か。

獣人族の寿命と、現役時代の長さに、主婦特有の嫉妬混じりのツッコミを入れつつ——。

王都での二日目、私は少しだけ、この街に馴染み始めているのを感じていた。

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