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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜鉱山の闇編〜

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第五十三話 有能すぎる紳士

やっとギルドマスターの重圧から解放され、執務室の外へ出してもらうことができた。

扉が閉まった瞬間、私はその場にへなへなと崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。


「つ、疲れた……」


ギルドマスター・ロルフさんの放つ威圧感は、もはや物理的な質量を持っているかのようだった。

同じ部屋にいるだけで気圧され、全身の毛穴が収縮するような緊張感に、魂が削れる思いだった。

その点、我が相棒はといえば。


「あんた、本当に豪胆よねぇ……」


呆れて視線を向ければ、クロは廊下でも優雅に毛繕いをして、ゆったりと構えている。

強いからこそなのだろうが、もしロルフさんとやり合ったら、一体どちらが勝つのだろう。

そんな恐ろしい想像が脳裏をよぎったが、ヴェンデリンさんの落ち着いた声に我に返った。


「ミサキさん、大変お疲れ様でした。今からギルドの裏口へご案内いたします。今日はそちらから出てください」

「え? なぜですか?」

「ギルドマスターの執務室から正面玄関へ戻るには、必ず冒険者たちがたむろするフロアを通らなければなりません。今あそこへ出れば、ギルバートさんの報告を聞いた連中と、現場を見ていた者たちがさらに騒ぎ出すでしょう」

「あぁ……」


また変な二つ名が、尾ひれはひれをつけて爆誕する。想像しただけで顔がしかんだ。


「今ミサキさんへ注目が集まるのは、潜入捜査の件もありますし、避けたいのです。顔が割れすぎてしまっては、後々支障も出てくるでしょう」

「そうですね。私もそれは避けたいです」

「ギルバートさんたちへは、私から厳重な箝口令(かんこうれい)を敷きますので、ご安心ください」

「ありがとうございます。……他の冒険者の方たちは?」

「そちらは何もしない方がいいでしょう。下手に口封じをすればかえって邪推を招き、余計な注目を浴びる恐れがあります」


……この人、やっぱりものすごく頭が切れる。

もはや、潜入捜査もヴェンデリンさんが行けばいいんじゃないかしら。


「……私は潜入捜査はできませんよ」

「へっ!? え? 私、今、声に出てましたか!?」

「いえ。ミサキさんは、心の中が顔に出やすくて分かりやすいだけです」


微笑むヴェンデリンさんに、私はガーンと衝撃を受けた。


「えぇ……それじゃあ潜入捜査にはかなり不向きでは……」

「まぁ、そこも『らしくない』から良いのでしょう。相手の警戒を解く武器になりますよ」

「そんなものですか?」

「そんなものですよ」


ふふっと上品に笑うヴェンデリンさんの破壊力たるや。

く……っ!

私が人生経験が浅い子供だったら、今のでコロッと騙されて、どこまでもついて行ってしまうところだ。

危ない危ない。

足元から、クロの「何をデレデレしてるんだ」と言わんばかりの冷ややかな視線を感じたが、私は全力で知らんぷりを決め込んだ。



ヴェンデリンさんに裏口へ案内してもらい、宿も指定のところに泊まるよう指示を受ける。

なんと! 料金はギルド持ちだという!

なんて高待遇! ありがたや、ありがたや。

さっそく指定された宿へ向かう。



しかし、流石王都。

人でごった返している。もう夕方だと言うのにこの人だかりだ。


あ、あっちでいい匂いが……。

今度行ってみようか。

とにかく今は宿に行ってすぐにでも休みたい。

疲れた……


目移りしながらも、宿へ着く。

ようやく辿り着いた宿は、大通りから一本入った路地裏にあり、一見するとどこにでもあるごく普通の店構えだった。

これなら駆け出しの私が泊まっていても、周囲に変に邪推されることもないだろう。


「すみません、今晩泊まりたいんですが」


宿の主人へ声をかけると、私とクロをチラっと見て


「あぁ……二階の奥を使いな」


とぶっきらぼうに言われた。

礼を言ってお湯をお願いし、部屋へ行く。


……おぉ、外観の素朴さに反して、部屋の中は隅々まで手入れが行き届いている。

何よりベッドの質が、今までの宿とは比べ物にならないくらい良さそうだ。

早く寝たいが、まだまだきれいとは言えない状態だ。

装備を外し、傷がないかチェックする。

するとドアをノックする音がした。お湯を持ってきてくれたらしい。


「あ〜……サッパリした!」


お湯はもう黒いのか赤いのかよく分からない色に染まっている。

クロはお腹が空いているのか、非常に機嫌が悪そうだ。


「はいはい、行きますよ」


本当はもう寝てしまいたいが、相棒が許してくれそうもない。

宿の食堂へ行き、食事をする。

クロは肉。私は具だくさんスープとパンだ。


染みるなぁ……。


お腹が膨れるともう眠気は限界に来ていた。

ベッドへ倒れ込む。



あぁ、やっぱりこのベッド、ふかふかだ。


次の瞬間には泥のように眠っていた。

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