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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜旅立ち編〜

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第四十九話 無茶振りの極み


ガムさんから聞いた「遊撃手(スカーミッシャー)」の理論は、驚くほど腑に落ちるものだった。

魔法もスキルもない私には、カウンター狙いしか道はない。

回避して、空振りさせて、その隙を突く……。


(……あぁ。これが無意識にできるようになれば、この世界で言うところの『スキル』になるのかしら)


そんな考察をぼんやりとしていた、その時だった。


「……おい。ありゃあリバーウルフじゃねぇか?」

ガムが低く、鋭い声を出す。


「あぁ? 今の時間にリバーウルフかよ。流石に漁師が危ねぇぞ」

ギルバートさんも眉根を寄せた。


「強いんですか?」

「単体ならDランクだな。だが集団だとBに近いCってとこか。あいつらを見たら水辺には近づくな。見えてる数だけを信じるなよ、引きずり込まれたら終わりだ」


ウルフ系だから集団で襲ってくるのか。

……不気味な気配を感じて身を固くした私を余所に、二人は顔を見合わせる。


「つってもなぁ、このままだと漁師が襲われるぞ」

「仕方ねぇ、討伐しとくか」


(おぉ! 一級冒険者の戦闘が見られる!)


何かの参考になるかも、とウキウキして身を乗り出した瞬間。

背中に、岩のような大きな手が置かれた。


「行ってこい」



「……は?」

「だから、あれ討伐してこいっつってんだよ」

ギルバートさんは事も無げに言った。


「いや、いやいやいや! ウルフ系の集団ってさっき言ったじゃないですか! 無理ですよ、一人でなんて!」


隣ではガムが「ぎゃははは!」と腹を抱えて笑っている。

「安心しろ。何かあったら俺たちが助けてやるからよ」



……絶対に嘘だ。

面白がってギリギリまで助けてくれないに決まってる。


疑いの眼差しを向けていると、「早く行け!」という怒号と共に、これでもかという強さで背中を叩かれた。


「あだっ!?」


前のめりに派手に転倒し、私は恨み言をぶつくさ言いながら立ち上がった。


(……くそ。いつか絶対に仕返ししてやるから……)


文句を言いながらも、リバーウルフへ接近する。

河辺に近づきすぎれば引きずり込まれる。

正面から行けば集団で囲まれる。


なら——。


私は足元から掴みやすそうな適当な石をいくつか拾い集め、少し離れた位置から投擲した。

だが、やはり当たらない。

リバーウルフは野性の勘で鋭く回避し、私を警戒し始めた。


「何やってんだ、お前! 真面目にやれ!」

後ろからガムの叱責が飛ぶ。


(……初見の魔獣相手に慎重になって何が悪いのよ。こちとら魔法もスキルもないっての!)


私は一度足を止め、冷静に観察した。

ガムが言っていた「こんな時間に」という言葉が引っかかる。

通常なら出てこない時間帯に姿を現した理由。


(……お腹が減っているのか、あるいは何かに追われて逃げてきたのか)


もし空腹なら——。

私は先ほどこれでもかと陸へ叩き飛ばしておいたリバーファングの一匹を掴み、河辺から離れた場所へと力いっぱい投げた。


「……お。出てきたぞ」


予想通り、リバーウルフが鼻をヒクヒクさせながら餌に近づいてきた。

意識が完全に魚に移ったその瞬間、私は二投目の石を放つ。


狙うは——足。


ゴンッ!

「ぎゃんっ!」


前足に命中。

狼が体勢を崩した隙に、私は一気に距離を詰め、後ろ足に向けて強烈な蹴りを叩き込んだ。

足払いをしたつもりが、メキッという嫌な感触が伝わってくる。


……折れたわね、これ。


狼はその場でジタバタとのたうち、キャンキャンと悲鳴を上げた。


「ごめんね」

私は短く謝りながら、その喉をブーツの底で思い切り踏み抜いた。

窒息か、あるいは頚椎の骨折か。

どっちが死因でもいい。まずは一匹。

だが、感傷に浸る暇はなかった。

仲間がやられたのを察知したのか、河の中から次々とリバーウルフが這い上がってきたのだ。


その数、四体。


「……まじ?」


一人で四体は流石に無理ゲーすぎる。

救いを求めてチラリとクロを見た。


(——あんのやろぉ、爆睡してやがる!)

覚えてなさいよ。


次にギルバートとガムの方を見る。

二人は真剣な表情でこちらを見ていた。武器に手はかけているものの、まだ様子見の構えだ。


(……一応、助ける気はあるってことね)


なら、自分がどこまでやれるか試すしかない。

私は深く、長く息を吐き、頭を冷やした。



落ち着け。できなきゃ、死ぬぞ。



かつてガイルさんに叩き込まれたその言葉が、今、鼓膜の奥で激しく木霊していた。

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