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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜旅立ち編〜

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第四十八話 異能なき者の戦い方


河原には、私が叩き出したリバーファングが所狭しと打ち上げられていた。

そこに腰に手を当てて立っているのは、口の周りが血まみれで、全身ずぶ濡れの女。


……我ながら、端から見ればただの異常者だ。

もし日本でこんな姿をさらしていたら、間違いなく即座に通報されて職務質問、あるいはそのまま保護されているだろう。


そんな姿にした張本人であるギルバートさんは、口をぽかんと開け、呆れたような、あるいは得体の知れない怪物を見たような、何とも複雑な表情を浮かべていた。

隣にいるガムも似たようなものだ。


「魔法が使えないって……何でだ?」

「知らないわよ。使えないものは使えないの。そもそも『魔力』っていう感覚がよく分からないのよ」

私の答えに、二人は顔を見合わせた。

「魔力が分からねぇって……ギルバート、お前なんか知ってるか?」

「いや、聞いたことねぇな。適性の差はあれど、普通は何かしらの魔法は使えるもんだろ」


かつてガイルさんも言っていた。

この世界の住人は、生まれながらに何らかの魔法を宿している。魔力量や適性によって制限はあっても、一切使えないというのは、この世界の常識ではあり得ないらしい。


「ガイルさんにも魔法を教わったけど、結局ダメだったのよ」

「……なら、スキルはどうだ? スキルは使えねぇのか?」

ガムの問いに、私は首を傾げる。

「スキルっていうのも、いまいちピンとこないわね。使う時って、頭の中に何かメニューでも浮かぶの?」

「いや、なんつーか……こう、身体が勝手に動くっつーか。なぁ?」

「スキルの説明なんて考えたこともねぇな。やろうと思ったらできるもんだろ? 何回も練習してるうちに、急にパッとできるようになるんだよ」


……なるほど。

自転車の乗り方のようなものかしら。

最初はフラフラして何度も転ぶけれど、ある瞬間、理屈じゃなく「乗れる!」と身体が理解するあの感覚。

それなら、私にもいつか「パッ」とできる日が来るのかもしれない。

この得体の知れない異世界で、少しだけ希望の光が見えた気がした。


「お前、魔法もスキルも使えねぇから、そんな……その、野蛮な戦闘スタイルなのか?」

「失礼ね。必死なだけよ。主婦はいつだって、目の前の困難に全力投球なの」

「……すげぇな、お前」


ガム、あんたそれしか言えないの?

私は心の中で毒づいた。


「魔法もスキルも使わねぇ戦闘なんて、俺たちに教えられるか?」

ギルバートさんが腕を組む。

「ガム、お前の方が近いんじゃねぇか? タンクの俺より、遊撃手(スカーミッシャー)のお前の方が身のこなしの参考になるだろ」

「あぁ? まぁ……そうだな」


お、何か教えてもらえるのかしら。


私は期待を込めて、目をキラキラさせてガムを見つめた。

びしょ濡れのまま、私はガムの言葉を一つも漏らさぬよう、真剣に耳を傾け始めた。


遊撃手(スカーミッシャー)は、一、二撃入れたら離脱が基本だ。倒しきろうとすると欲が出て被弾するからな。正面からは絶対に行くな。横、背後、上……常に敵の死角に入り続けろ。ダメージを与えるより、位置取りのほうが優先度は高い」

「かなり長期戦を想定してるのね。じわじわ攻めるっていうか」

「個人で活動すればそうだ。パーティ向きの戦い方かもな」

「でも防御に不安があるから、そもそも攻撃を受けなければ良いっていうのは、理にかなってるわね」

私の納得に、ガムは深く頷き、さらりと言ってのけた。

「分かってるじゃねぇか。そうだ。だから俺の『防御』の概念は一つだ。そもそも当たらない位置にいろ」


「……は?」


思わず、ジト目でガムを見た。

「いや、それが難しいからみんな苦労するんでしょ? 理想論もいいところじゃない。スーパーのタイムセールで、怒涛の人混みをすり抜けて、誰にもぶつからずに目当ての半額シール品を掴み取れって言ってるようなものよ?」

「…何言ってんだ、お前?半額…なんだ?まぁ、いい。当たらないってのは、最大の防御だろ。回避と位置取りは基本だ。突っ込む前には必ず退路を決めておけ。攻撃を受けない位置をキープし続ける、それができて初めて遊撃手(スカーミッシャー)だ」

「……考えながら動くのは苦手なのよね。瞬時に判断できるのは、せいぜいどのレジが早いかくらいよ」

「…レジ?…じゃあ、止まらないことを徹底しろ。足を止めた瞬間に負けるからな。ただ、お前にそれだけの体力があるかは分からんが」

「うーん……。相手の体力次第かしら? もっと体力をつけなきゃダメね」

「難しいなら、敵の攻撃を受けずに『外させろ』。ギリギリで回避して空振りさせて、そこに大きな隙を作る。そこにカウンターを入れりゃあいい」

「なるほど……カウンターね。自分から打つより、相手の力を利用する方が効率的かもしれないわね」


私が感心して頷いていると、ガムは「ったく、俺はこんなに教えたりしねぇんだからな」と頭を掻いてぼやき始めた。

口では文句を言っているけれど、なんだかんだと世話を焼いてくれている。

ギルバートさんの知り合いの「愛弟子」というのが大きいのだろうけれど、それにしても親切だ。

持つべきものは、偉大でお人好しなお師匠様である。

ガイルさんが繋いでくれたこの縁を、私は全力で使いこなしてやろうと心に誓った。

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