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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜旅立ち編〜

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第四十七話 生存本能


ギルド併設の食堂は、ガイルさんの昔話で大いに盛り上がった。


「そしたらガイルの野郎、距離を読み誤りやがって、俺の背中にファイアーボールをかましやがったんだ!」

「えぇ!? あのガイルさんが!?」


今の彼からは想像もつかないような駆け出し時代のヘマに、私は思わず身を乗り出した。


「あいつは今も、元気でやってんのか?」

「はい。ラクトの町でお世話になりました。今はまた、別の場所へ行くと言っていましたが」

「……そうか。生きてんならいい」


「生きてるならいい」

一流の冒険者が口にすると、その言葉の重みがまるで違う。

ガイルさんも「生きろ」と口癖のように言っていた。

……まあ、同じくらい「死ぬぞ」とも脅されたけれど。


ふふっと笑っていると、ギルバートさんが突然、勢いよく立ち上がった。


「よっしゃ! ならばガイルの愛弟子の実力を、この俺が拝もうじゃねぇか!」


……この人、いきなり何を言い出すの。


顔に出ていたのだろう、彼はガハハと笑って私の肩を叩いた。


「そんな顔すんな! 俺がなんか助言できることがあるかもしんねぇだろ!」

「お、じゃあ俺も見に行くぜ。いい暇つぶしだ」

ガムまで当然のように席を立つ。

「……お二人とも、絶対面白がってますよね?」


納得いかないながらも、私は二人について行くことにした。

クロはやれやれと溜息をつくような仕草を見せ、ゆっくりと最後尾を歩き出した。



街を出てしばらく歩くと、雄大なリーヴァ河に辿り着いた。

穏やかな河面には漁船がいくつか浮かんでいるが、氾濫すれば肥沃な大地を作る母なる河だとも聞いた。

エジプトのナイル川のようなものかしら、なんて考察していたら、ギルバートさんが河辺を指差した。


「この辺は最近マッドスネークやリバーファングが多くてよ。漁網を破るわ船に噛み付くわで、皆困ってんだ。とってもとっても減らねぇどころか増えてる気さえする」


やはり、上流のヴァルグリムで何かが起きている影響なのだろうか。

うーんと顎に手を当てて考え込んでいた、その時だった。


「ほら、早く行ってこい!」


背中をバーンと叩かれた。

一級冒険者の、しかもタンク職の怪力だ。

不意を突かれた私の体はあえなくバランスを崩し、盛大な水しぶきを上げて河へと転落した。


「あ、すまねぇ」

「ぎゃははは! ギルバート、そりゃねぇぜ! 可哀想すぎるだろ!」


……可哀想と言いながら爆笑しているガムに、怒りがふつふつと沸き上がる。


だが、怒鳴り返すより先に、足首にヌルリとした感触が走った。


(何!? 引っ張られる——!)


思った時には遅かった。

茶色の細長い影が私の足に幾重にも絡みつき、そのまま水中へと引きずり込んでいく。

気泡を吐き出しながら、私は水中で目を開けた。

マッドスネーク。

文字通り、泥のような色の不気味な蛇が私を逃がすまいと締め付けてくる。

振り払おうとするが、水の中では力が入らない。


(……こうなったら!)


私は水中でもがくのをやめ、絡みつく蛇の頭を両手で鷲掴みにした。

そしてそのまま、首根っこに思い切り噛み付いてやった。

蛇の体が痛みでくねり、足の拘束が緩む。

その隙を逃さず、両手で頭と胴を逆方向に掴み、全身の力を込めて引きちぎりにかかる。


——ブチブチッ、ブチン。


水中だというのに、嫌な音が手に、そして口内に直接伝わってきた。

獲物を掴んだまま、私は必死に水面を目指した。



「ぶはぁっ!!」

「お、無事だったか……って、うへぇ、あいつマジかよ」

岸の上から、ドン引きしたような声が聞こえる。


何よ、ギルバートさん、あなたのせいなんだからね。


私はびしょ濡れのまま岸へ這い上がった。

口の周りには蛇の血がつき、両手にはそれぞれ食いちぎった頭と胴体をぶら下げている。


……絶対、また変な二つ名が付くわ、これ。


「お前……それ、噛みちぎったのか?」

「噛みちぎったのが早いか、引きちぎったのが早いか……自分でも分からないわ」

「……お前、すげぇな」



ガム、それさっきも聞いたわよ。


ふと見ると、クロは助ける気も心配する気もゼロで、乾いた地面で昼寝モードに入っていた。


「お。血に反応してリバーファングが集まって来たぞ」


ギルバートが河面を指差す。

ピラニアのような獰猛な魚たちが、しぶきを上げて群がっていた。


「さあ、あれはどうやって倒す?」


水中では勝ち目がない。

噛まれたら一たまりもないわ。

なら——。

私は水面ギリギリに立ち、近づいてきた魚を片っ端から拳で殴りつけ、岸へと叩き出した。

バチン! と豪快な音を立てて、銀色の魚が陸に放り投げられる。

気絶して動かないものは回収し、まだ跳ねているものには容赦なくとどめの一撃を叩き込んだ。


「……なんちゅう戦い方しやがる」

「普通、魔法とか使うだろ」

「私、魔法使えないの」

「「は?」」

「だから、使えないのよ。……文句ある?」


湿った髪をかき上げる私を、二人の屈強な冒険者は、何とも言えない複雑な表情で見つめていた。

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