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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜旅立ち編〜

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第四十六話 師匠の優しさ


ギルドの重い扉を押し開けると、そこにはサンティールとは比較にならないほどの「圧」があった。

広々としたホールには、一目で手練れだと分かる冒険者が何人もたむろしている。

見慣れない顔の私に向けられる視線はどれも不躾で、品定めをするような鋭さがあった。


(……この感じ、前にもあったわね)


けれど、ここでは「惨殺者(スローター)」という私の二つ名を知る者はいないようだった。

王都のギルドともなれば、地方の新人冒険者の噂など、吐いて捨てるほどいる有象無象の一つに過ぎないのだろう。

どちらかというと、私より目立っているのは隣のクロだった。


「……おい、あの従魔、影豹(えいひょう)じゃねぇか?」

「あぁ? 影豹(えいひょう)なんて珍しいもんが、こんなとこにいるかよ」

「あんなデカくて真っ黒な猫科の魔獣、影豹(えいひょう)ぐらいしかいねぇだろ」

……エイヒョウ?

クロの種族名、エイヒョウって言うのね。

珍しい種族だったんだ。

さすが王都、そこかしこに質の高い情報が転がっているものだと感心しながら、私は受付へと向かった。

幸い、今回は絡まれることもなく、すんなりと手続きを終えることができた。

だが、期待していた子供たちの情報は得られなかった。

ヴァルグリムでの水質汚染や環境異変の報告も、現時点では入っていないという。


(……でも、何かは起きているはず)


受付嬢の話では、グランヴェルでも漁獲量が落ちてきており、リーヴァ河の調査が始まっているらしい。

水棲魔獣の出現報告も増えているという。

ここでも少しずつ、静かな異変の波が押し寄せているようだった。


「気持ちを抑えないと……。焦っても良いことはないわ」


感情的になって失敗した、あの日の二の舞にはなりたくない。

私は手をぎゅっと握りしめ、自分を落ち着かせるために併設の食堂へ向かった。


「さあ、クロ。ご飯にしましょう。何食べた……い……?」


横を見ると、いるはずのクロがいない。

どこ行きやがった、あのご隠居。


キョロキョロと探していると、クロは食堂の一角、一番落ち着きそうな空き席をすでに見つけて陣取っていた。


「……ま、保存食ばかりだったものね。まともな食事、楽しみよね」


苦笑しながら席に着く。名物だという魚料理と、クロ用の肉料理を注文した。

届いたのは、野菜の旨味が凝縮されたアクアパッツァのような一皿だ。

香草の香りが鼻を抜け、一口食べれば塩味の奥にある出汁の深みが体に染み渡る。


「おいしい……。やっぱり温かいものはいいわね」


ふと見ると、クロは骨付き肉に豪快に齧り付いていた。


「これ、魚も結構いけるわよ?」


少しほぐして皿に分けてやると、クロは一口で平らげ、中々どうして悪くない、といった様子で少し目を見開いた。


「ふふん、美味しいでしょ」


私が作ったわけではないけれど、何だか誇らしい気分になる。

そんな和やかな食事を破ったのは、あのドスの効いた声だった。


「よう、なんか良い依頼はあったかよ?」


振り返ると、ヤギの獣人——ガムがいた。


「あ、ガムさん。さっきはありがとうございました」


挨拶をする私に、ガムの後ろから数人の冒険者がついてくる。


「あぁ!? お前、ガムに案内させたのかよ!」

「あはは! すげぇな、腹が据わってやがる!」

「それだけじゃねぇぞ、こいつ、俺に掴みかかってきやがってよ!」

「マジかよ! 命知らずだな!」


ガムのパーティメンバーだろうか。彼らは口々に笑いながら、私を興味深げに見つめていた。


「あ、どうも。ミサキと言います」


立ち上がって会釈をすると、彼らは少し意外そうな顔をした。


「冒険者にしちゃあ、礼儀正しいな……。訳ありか?」

「いえ……息子を二人、探しているだけです」

「拉致か?」

「……いえ、ちょっと逸れまして」


歯切れの悪い回答しかできない。

異世界から来ましたなんて、口が裂けても言えないからだ。ガイルさんのようなお人好しばかりではないだろうし、余計なリスクは冒せない。


「ふーん……。なぁ、お前、ガイルの知り合いか?」

不意に、大柄な男が問いかけてきた。

「え!? が、ガイルさんのこと、ご存知なんですか!?」

「昔、パーティを組んでたことがあってな。最近連絡が来たと思ったら、黒髪黒目のガキの情報を探してくれって言ってたからよ。まさかと思ってな」


ガイルさんの顔が脳裏に浮かび、目頭が熱くなる。

あの人は、こんな遠い都の知人にまで連絡を回してくれていたのだ。


男はギルバートと名乗った。

タンク職らしい筋肉質の巨躯。

なるほど、あのアタッカーのガイルさんの背中を守っていたのは、この人だったのか。


「ガムさんは、ガイルさんとはパーティを組んでないんですか?」

「俺は最近こっちに来たからな。フリージア王国は人族至上主義だろ。獣人は肩身が狭いから、あまり寄り付かねぇんだよ」

「確かに……見かけませんでした」

「獣人の多くは、ラグナヴァルトかドグラ高地にいる。国によって事情が色々あるんだよ」


ガムの言葉に、私は改めてこの世界の広さと、そこに根ざす複雑な事情を思う。

異世界にも、歴史があり、対立があり、そして見えないところで繋がっている温かい「縁」がある。

ガイルさんが繋いでくれたこの縁が、今の私には何よりも心強かった。

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