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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜旅立ち編〜

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第四十五話 獣人の冒険者


「……さて。とりあえずギルドへ行きたいけれど、どこにあるか見当もつかないわね」


案内板を探そうにも、人の波に揉まれてそれどころではない。


(……そうだ。いかにもな装備をした冒険者についていけば、自然とギルドに着くはず!)


私は名案だとばかりに、前を歩くガタイの良い冒険者の背中をターゲットに定めた。

キョロキョロと都会の街並みに目を奪われながら、一定の距離を保ってついていく。


「すごーい、あんな大きな噴水……。あ、あの露店の果物、見たことないわ……」


都会見学に夢中になっていた、その時だった。

どすん、と。

目の前の「壁」に思い切りぶつかった。


「ぼへぇ!?」


変な声が出た。

鼻を強打し、目の奥がチカチカする。


「いたたた……。鼻、曲がってないかしら……」


涙目で鼻を押さえていると、頭上からドスの効いた声が降ってきた。


「てめぇ、さっきから俺をつけてやがるな?」

見上げると、先ほどまで追っていた背中が振り返っていた。

「え? いや、つけているというか、その……」

「しらばっくれてんじゃねぇ! ずっと付いてきやがって! きめぇんだよババァ!」



——ブチン。


私の中で、何かが音を立てて切れた。


「誰がババァだ、コラァ!!」


瞬間給湯器ばりに怒りのボルテージがMAXまで跳ね上がる。

私は鼻の痛みも忘れ、反射的に相手の胸ぐらをつかみにかかった。

だが、相手も手練れだった。

私の手首を鋭くはたき落とすと、そのまま大きな拳が飛んでくる。


「っ!」


すんでのところで頭を振って躱し、空いた左脇腹へ右ストレートを叩き込もうとする。

が、拳は空を切った。

相手は絶妙なバックステップで、私の射程圏内から軽々と逃れていた。


(……おぉ。あの巨体であの体勢からバックステップ? すごい運動神経ね)


私が感心していると、相手が「ニヤリ」と笑った——気がした。


「おめぇ、中々やるじゃねぇか」


気がした、と言ったのは、その男の顔が人間とはかけ離れていたからだ。

顔は完全にヤギ。

角があり、細長い瞳孔。

表情が読み取りにくいが、声には戦士としての愉悦が混じっていた。


「こ、これは……まさか……獣人!?」


耳や尻尾がある程度の可愛いものではない。

二足歩行のヤギが重装備を身につけている、まさに異世界の種族!


「初めて見たわ! すごいわね! カッコいいわ! そのボディバランスと跳躍力、やっぱり種族的なものなの!? ねぇ、何か特殊な訓練とか——」

「ガウッ!」


ぐいっと外套を噛まれ、後ろに引き戻された。

クロだ。


「あ……ごめんなさい。私ったら、つい興奮して……」


年甲斐もなくはしゃいでしまった自分に気づき、頬が熱くなる。


「いや、まぁ……なんだ。おめぇ、良い相棒だな」


ヤギの冒険者は毒気を抜かれたように肩の力を抜いた。


「そうなの! お利口なのよ、この子! それに強いし、精神的にも支えてくれて——」

グイッ!!


今度はかなり強めに外套を引かれた。

クロの目が「いい加減にしろ」と冷たく光っている。


「あぁ! もう、分かったってば、ごめんってば!」


クロに謝る私を、彼は「ハァ……こいつは駄目だ」と言いたげな、呆れ果てた目で見つめていた。


なによ、その目は。


「……でおめぇ、俺に何か用があんじゃねぇのか?」

ヤギの男が問いかけてくる。

「え? いや、別にないわ」

「はぁ? ずっと後ろ付いて来てたじゃねぇか」

「……ギルドの場所がわからなかったから、冒険者っぽい人についていけば着くかなって……」


へへへ、と誤魔化すように笑うと、男は心底呆れたように大きなため息をついた。


……もちろん、隣のクロもセットで。


なによ。

都会の迫力に圧倒されて、門番に道を聞くのを忘れただけじゃない。

仕方ないじゃないの!


「……おめぇなぁ。ここはグランヴェルだぞ。そんな間抜け面で歩いてたら、ギルドに着く前に身ぐるみ剥がされるぜ」


男は「ガム」と名乗った。彼はぶつぶつと文句を言いながらも、「暇つぶしだ」と言ってギルドまで案内してくれることになった。


「ほら、あっちの通りは避けろ。あそこは裏路地の連中が幅を利かせてる」


ガムは慣れた足取りで大通りを進む。

石畳の上を(ひづめ)が鳴らすカツカツという硬い音が、都会の喧騒に混ざり合っていく。

道すがら、彼はこの街の「ルール」を教えてくれた。

騎士団が強いとはいえ、路地裏一つ挟めばそこは別世界であること。

そして、冒険者ギルドは「実力至上主義」の巣窟であること。


「おめぇみたいにキレやすいババァ……じゃねぇ、お転婆な女は、舐められやすいから気をつけな」

「一言余計よ。でも、ありがとう。助かるわ」


しばらく歩くと、ひときわ頑強な石造りの建物が見えてきた。

入り口には剣が2本あしらわれた巨大な紋章が掲げられ、そこからは戦士たちの荒っぽい気配と、鉄の匂いが漂ってくる。


「ここが冒険者ギルド、グランヴェル本部だ」


ガムが顎をしゃくって示した先には、重厚な扉が鎮座していた。

サンティールとは比べ物にならない威圧感。

私は一度、深く息を吐き、隣に立つクロの頭に手を置いた。


「よし。行くわよ、クロ」


クロは頼もしく一度だけ喉を鳴らした。

期待と緊張、そして少しの興奮を胸に、私はその重い扉へと手をかけた。

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