表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第三章 母の迷いと、黒き相棒〜旅立ち編〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/83

第四十四話 白亜の都へ


 サンティールの東門を抜けた翌朝、私たちは北の街道へと足を踏み出した。


 昨日の不気味な出来事は、まだ心の隅に冷たい塊として残っているけれど、隣を歩くクロの規則正しい足音と、新調した背負い袋の確かな重みが、私を現実へと繋ぎ止めてくれていた。


「さあ、行きましょう。次は首都グランヴェルよ」


 そこからの五日間は、驚くほど順調だった。

とはいえ、それは決して楽な旅という意味ではない。荷物を最小限にするため、調理器具の類は一切持たず、食事はサンティールで仕込んだ味の薄い保存食で済ませた。

 煮炊きをすれば匂いが魔獣を呼び寄せるため、火を起こすのも最低限。

 そんなストイックな旅の作法も、気づけば身体に染みついていた。

 何より、あの時時間をかけて吟味した新しい装備が、その真価を発揮していた。

五日間歩き通しても、新しいブーツは驚くほど足に馴染み、革の胸当ては身体の動きを妨げることなく、旅人としての安心感を与えてくれた。



 道中、何度か野犬やはぐれゴブリンの気配を感じることもあった。

 けれど、そのたびにクロが鋭く鼻を鳴らし、あるいは視線で茂みの奥を指し示してくれる。

私が身構えると、クロはそれ以上は手を出さず、少し離れた場所から静かに私を監視した。


 彼は私を助けない。

あくまで私自身がこの世界で生き抜く力をつけるよう、突き放し、見守っているのだ。


(……甘えてちゃダメね。一人で飛び出したあの時、どれだけ自分が無力だったか、忘れたわけじゃないでしょ)


 クロの「無言の指導」に応えるように、私は一歩一歩、自分の力で道を進んだ。

 緊張感のある旅路の中で、隣を歩くクロとの間には、言葉を超えた信頼が積み重なっていった。





 旅の五日目。

それまでの土の道が、唐突に、整然と並んだ石畳へと変化した。


「……あ」


 一歩踏み出した瞬間、靴の裏から伝わる感触が劇的に変わった。

土の道では吸収されていた衝撃が、ダイレクトに膝へと響く。

 コツコツと高く響く自分の足音は、都会に来た実感を抱かせてくれるけれど、歩く身としてはなかなかに厳しい。


(……痛っ。石畳って、こんなに足にくるのね)


 土の道がいかに足に優しかったかを痛感する。

けれど、横を通り過ぎていく馬車を見れば、その理由もなんとなく分かった。

 ぬかるみもなく、車輪がスムーズに転がっていく。

重い荷物を運ぶ馬車にとっては、この硬さこそが正義なのだろう。


(歩く人間には優しくないけど、物流を考えたらこっちの方が効率的なのね……。主婦時代の買い物カートも、ガタガタ道よりスーパーの床の方が楽だったものね)


 そんな妙な納得をしながら、緩やかな丘を越えた。

視界が開けた先——地平線の向こう側に、日の光を浴びて輝く白亜の城壁が姿を現した。


「あれが……グランヴェル」


 遠目からでもわかるその巨大さは、サンティールとは比べ物にならない。

 門へと近づくにつれ、その威容にさらに息を呑む。

天を突くような見張り台、街を囲む分厚いレンガの壁。

 今まで見てきた町とは、積み上げられた歴史も石の数も一線を画している。

 そして何より、人の数が桁違いだった。

行き交う人々の中には、一目で手練れだと分かる冒険者の姿も多い。


 揃いの鎧を纏い、街を巡回する騎士団の鋭い眼光が、この大都会の規律を物語っていた。

 門をくぐった瞬間、押し寄せるような人の熱量と喧騒に気圧される。


「着いた……」


 私は改めて深呼吸をし、気を引き締め直した。

期待と緊張を胸に、私は足の裏に伝わる石畳の硬い感触を確かめながら、未知なる都へと力強く踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ