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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
閑話

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第三十八話(閑話) ギルドの窓口に届いた「戦果」


ラクトの町の冒険者ギルド。

受付嬢のイルダは、いつものように淡々と書類の山を捌いていた。


「次の方、どうぞ」


ミサキが町を立ってから数日。

彼女がいなくなってから、ギルド内は少しだけ静かになった——気がする。

いや、正確には「得体の知れない緊張感」が消え、いつもの騒がしくもどこか緩い空気に戻っただけだ。


(……あの人、今頃どこまで行ったかしら。案外、早々に音を上げて戻ってきたりして)


ふと、真っ黒な豹を連れた、妙に所帯じみた雰囲気の女性を思い出す。

ギルドの「掃除」を完璧にこなし、あの偏屈なガイルが認めた謎の新人。


(私の休みの日に出発の日が被るなんて……最後の挨拶、したかったなぁ)


そんな個人的な感傷を振り払うようにペンを動かしていた時、ギルドの重い扉が勢いよく開いた。


「おい! 憲兵を呼んでくれ! 野盗の引き渡しだ!」


聞き覚えのある、やたらと声だけは大きい男——

『無敗の四狼よんろう』のリーダー、ドゥラークが、ボロボロになった野盗たちを数名引き連れて入ってきた。


(……また、この人たち?)


イルダは内心で溜息を吐いた。

勇ましいパーティ名のわりに、最近は失敗続きで降格寸前の崖っぷち集団だ。


「ドゥラークさん。野盗の捕縛ですか? 珍しいこともあるものですね。……あら、皆さん随分と顔色が悪いようですが?」

イルダの問いかけに、ドゥラークの後ろにいた取り巻きたちが、ここぞとばかりに胸を張って割り込んできた。


「いやぁイルダさん! 見てくださいよこの戦果! 俺たちの鉄壁の守りを突破しようとした不届き者を、ドゥラークさんの必殺剣が火を吹いてサクッと全滅させてやったんですわ!」

「そうですよ! まさに『無敗』の名に恥じぬ大立ち回りでしてね。もう、あっという間ですよ!」


(嘘ね)


イルダは一目で確信した。

取り巻きたちが必死に盛り立てる一方で、リーダーのドゥラーク本人は、居心地が悪そうに視線を泳がせ、何度も首筋を掻いている。

さらに、転がされた野盗たちの拘束を見て、イルダの目は釘付けになった。


(この、力任せで、とにかく執拗な縛り方……。洗練されてはいないけれど、絶対に逃がさないという異常な執念を感じるわ。……どこかで、似たような気配を……)


「……ドゥラークさん。報告書を受け取る前に確認しますが、本当にあなたたちだけで?」

イルダがジロリと睨むと、取り巻きたちは「当然ですよ!」と食い下がろうとしたが、それをドゥラークが手で制した。

「……よせ、お前ら」

ドゥラークは深いため息を吐くと、カウンターに身を乗り出し、正直に口を開いた。


「……イルダさん、嘘だ。こいつら、俺たちが寝ちまってる間に、一人の女が全部片付けちまったんだ」

「ド、ドゥラークさん!? 何言ってるんすか!」

焦る取り巻きを無視して、ドゥラークは続ける。

「でかい黒豹を連れたミサキって女だ。……凄ぇのなんの。石を投げたと思ったら男が倒れ、魔法を放とうとした奴が眉間を撃ち抜かれ……。トドメは、あの無表情で流れるような殴打と蹴撃だ。……俺は、あれを人間だとは思えねぇ。本物の『惨殺者(スローター)』ってのは、ああいう奴のことを言うんだろうぜ」


ドゥラークの言葉は、飾らない分だけ真実味を帯びてギルド内に響いた。

周囲で聞き耳を立てていた冒険者たちが

「やっぱりあいつ、ただ者じゃなかったんだ」

「街道でも暴れてるのか……」

とヒソヒソと話し始める。

イルダは額を押さえた。


(……ミサキさん、あなたね。せっかく静かになったのに、お騒がせな人ね)


そうは思うものの、どこか誇らしい気持ちがして口元が緩む。


「わかりました。今回の手柄は彼女……ミサキさんのものとして処理します。ドゥラークさん、正直に話してくれたことだけは評価します。……でも、見張り中に寝落ちしたことについては、後でたっぷりお説教ですからね」

「……へいへい。わかってるよ」


ドゥラークは肩を落としながらも、どこかスッキリした顔をしていた。

アホではあるが、他人の手柄を横取りするほど腐ってはいない男なのだ。

イルダは乱雑に書かれた「無敗の四狼」のランク維持申請書に、厳しめの修正ペンを入れた。


(あんなに心配して損したわ。……どこへ行っても、あなたはあなたなのね)


イルダは窓の外の空を仰ぎ、小さく笑った。

ラクトの町に刻まれた「スローター・ミサキ」の噂は、本人の預かり知らぬところでさらに深く、禍々しく、そして少しだけコミカルに根を張っていくのだった。

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