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神は愛を知らない 〜異世界に飛ばされた主婦が、それでも子供を探し続けた記録〜  作者: 忠犬
探すために、進む

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第二十七話 昇格の壁


あれから一週間。

私は連日、ガイルさんに叩き込まれる「狩りの基礎」に明け暮あれから一週間の月日が流れた。

私の生活は、冒険者ギルドと宿屋、そして黄金色に輝く草原の往復で埋め尽くされていた。

ガイルさんに叩き込まれる「狩りの基礎」は、想像以上に過酷だった。


泥にまみれて数時間も動かずに風下を維持し、下草のわずかな折れ方から獲物の体重や移動速度を読み取る。

夜、宿に戻れば指一本動かすのも億劫なほどの疲労が襲ったが、不思議と心は澄んでいた。

昨日できなかったことが、今日できるようになる。

その確かな手応えが、元の世界で忘れていた高揚感を呼び覚ましていた。



そんなある日の夕暮れ。素材の買取を終えた私を、受付のイルダさんが神妙な面持ちで呼び止めた。


「……あの、ミサキさん。そろそろ、昇格のお話をしてもいいでしょうか」

「昇格……EからDへ、ですか?」


聞き返すと、イルダさんは帳簿をめくりながら、少し困ったように眉を下げた。


「はい。採取依頼の達成数も、素材の質も文句なしです。実力的には、もうDランクに片足を入れていると言っていいでしょう。……ですが、今のままでは『推薦』が出せないんです」

「……どういうことですか?」


イルダさんは一枚の紙を差し出した。


EランクからDランクへの昇格条件

・正式依頼の達成実績

・危険度のある任務の成功経験

・ギルドからの評価



「ミサキさんが持ち込んでくれる魔物の素材は、あくまで『買取』なんです。依頼として受注した実績ではないので、ギルドの評価としてはカウントされにくいんですよ」

「つまり、今のままだと、ただの『腕の良い採取屋』で終わってしまう……ってこと?」


イルダさんは申し訳なさそうに頷いた。


「Dランクからは護衛や街の警備など、責任ある仕事も任せることになります。そのため、どうしても『依頼を完遂した』という公的な証明が必要なんです」


(……このままでも、食べてはいける)


宿のおいしい食事、クロとの穏やかな日常。

無理をしてランクを上げる必要はないのかもしれない。

けれど、私の脳裏を過ったのは、あの子たちの姿だった。

Eランクのままでは、入ってくる情報の質も量も限られる。

あの子たちに一歩でも早く近づくには、この壁を越えるしかないのだ。


「……イルダさん。どうすれば、その実績が作れますか?」


私の真っ直ぐな視線に、イルダさんは少し驚いたあと、真剣な表情で一通の依頼書を差し出した。




■依頼名:ゴブリン群生地の調査および間引き


内容:街道近くで目撃情報が増加しているゴブリンの巣の特定、および個体数の確認。可能であれば間引き。


備考:本来はDランク以上の依頼。

Eランク単独は不可だが、ギルド職員の推薦があれば受注可能。




「本来はパーティで受けるべきDランク相当の仕事ですが……私が推薦を出します。ミサキさんなら、調査だけでも確実にこなせると信じていますから」


真剣な表情で、真っ直ぐにミサキを見つめて続ける。


「無理に戦う必要はありません。危険を感じたらすぐに撤退してください。……どうされますか?」

「受けます。やってみます、私」


ぐっと拳を握りしめる私に、イルダさんは少し安心したように微笑んだ。


「わかりました。……無事に戻ってきてくださいね」



ギルドを出ると、私はそのまま薬屋のゼラさんの元へ走った。


「ゼラさん、一番えげつない毒草を分けて。煙で吸わせたら、目が痛くなったり、吐き気がしてくるようなやつ。痺れるとか、動けなくなるやつはダメ」

「なんだい。えらく物騒なもん頼みに来たねぇ」


私の必死な形相に、ゼラさんは眉を上げながらも、いくつか強烈な薬草をブレンドしてくれた。


「何すんだい?」

「これ?…害虫駆除」

「は?…まぁいいさね。気をつけなよ。自分が吸ったら、暫くのた打ち回るよ。」

「わかった」


礼を言って宿に戻り、一人で黙々と準備を進める。

グローブの点検、毒草の梱包、そしてガイルさんから教わった知識の反芻。


(大丈夫。段取りさえ完璧なら、あとは掃除と同じよ……)


自分に言い聞かせる私の手は、わずかに震えていた。

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