第二十六話 お湯の魔法と、決意の夜
ギルドで、ウサギの角と皮、キングバッタ、そしてヴァイパーの買取を済ませた。
今日の稼ぎは銀貨と銅貨が三枚ずつ。
採取と買取で過去最高記録を更新したというのに、昼間の失態が尾を引いていて、素直に喜べない自分がいる。
「ミサキさん、今日もすごいですね! 最近の駆け出しの中では飛び抜けてますよ!」
受付でイルダさんが弾んだ声で褒めてくれた。
「……ははは。どうも」
「? どうかされました?」
「いやぁ……今日、ちょっとヘマしちゃって」
落ち込む私を見て、イルダさんは身を乗り出して励ましてくれた。
「元気出してください! あのガイルさんが目をかけてるなんて、滅多にないことなんですよ。ミサキさんは、本当にすごいんですから!」
「……ガイルさんが?」
「ええ。あんなじゃないですか、あの人。ぶっきらぼうで、いつも怒ったような顔してて。いい人なんですけどね。でも、あれでも腕利きのB級冒険者なんですよ」
(……B級!? あの人、そんなにすごかったの?)
驚く私に、
「イルダ、聞こえてるぞ……」
と背後から低い声が飛ぶ。
「うひゃっ! ごめんなさーい!」
イルダさんの慌てぶりに、思わず吹き出してしまった。
おかげで、胸のつかえが少しだけ取れた気がする。
「イルダさん、ありがとう。……あ、そうだ。一つ聞いてもいいですか? この辺にお風呂に入れる場所、ないでしょうか」
「……お風呂、ですか?」
イルダさんは少し困ったように眉を下げた。
「うーん、お風呂は貴族か豪商のお屋敷にしかないですね。普通は宿でお湯を貰って体を拭くくらいで……」
「お湯! その手があったわ!」
今までずっと井戸の水だけで拭いていたけれど、お湯が使えるだけで天国だ。
「ありがとう、イルダさん!」
「ど、どういたしまし……て?」
きょとんとする彼女に手を振り、私は急いでギルドを後にした。
「クロ、早く帰るわよ! ガイルさん、今日もありがとうございました!」
「お、おう……」
呆気にとられるガイルを置いて、私は宿へとひた走る。
宿に戻るなり、
「ご主人! お湯を! 私にお湯をください!」
と叫んでしまった。
「いきなりなんだ、やかましいな」
主人は呆れ顔だが、体を拭きたいと説明すると
「後で部屋に持ってってやる。まず飯だ」
と約束してくれた。
背後では、クロが尻尾をぶんぶんと振って待機している。
ご主人、やっぱりクロには甘い気がする。
今日はウサギが一匹しか獲れなかったので、スープにたっぷりの野菜を入れてかさ増ししてもらった。
クロの食いつきもいいし、私の胃にも優しい。
食事を終え、クロを厩舎へ送ってから部屋に戻ると、既に大きな桶になみなみとお湯が用意されていた。
まずは布を浸して、丁寧に体を拭く。
それから、思い切って頭にお湯を被った。
「かぁーーっ! 気持ちいい……!!」
思わず、中身がオッサンになったような声が出た。
乙女心はどこかへ飛んでいったけれど、知ったことか。
石鹸もシャンプーもないお湯シャン。
当然、髪はギシギシだ。それでも、頭が軽くなるだけで、後ろ向きだった心にスッと光が差し込むのを感じた。
(ショートカットで良かったわね。ロングだったら悲惨だったわ……)
髪を乾かしながら、私は自分自身に言い聞かせる。
くよくよしていたって、世界は変わらない。
明日からは、もっと必死に。
死ぬ気で頑張る。
一刻も早く、あの子たちを見つけ出してあげなきゃいけないんだから。
「よし、やるわよ、ミサキ」
温まった体と新しく固めた決意を抱いて、私は深い眠りへと落ちていった。




