第二十五話 浮かれた後の代償
ギルドへ戻ると、ガイルの姿があった。
挨拶もそこそこに、さっきゼラさんから持ちかけられた「直接取引」の話をぶつけてみる。
「……指名が入るなら、そう来るだろうと思ってたよ」
ガイルは意外そうな顔もせず、淡々と答えた。
「これって、皆さんやってることなんですか?」
「全員じゃねぇ。ギルドを通さないのはリスクがある。いざこざが起きた時、間に入ってくれる奴がいねぇからな。あとは、ギルドに睨まれる。やりすぎりゃ潰されるぞ」
「潰されるって……どうやって?」
「他の冒険者をけしかけて襲わせるギルド長もいる」
(この世界の倫理観、どうなってんのよ……)
戦慄する私に、ガイルは
「ここのギルド長はそこまで過激じゃねぇから大丈夫だろ」
と付け加えた。
それなら、ゼラさんのところには直接卸してみよう。
「そういえば。イルダさんが『カエンキノコ』に気をつけてって。私、どう戦えばいいんでしょう。殴るわけにはいかないし」
「……あぁ、もうそんな時期か。あれは魔法で燃やすか氷漬けにするのが一番だが」
「使えません!」
即答する私に、ガイルは呆れたように肩をすくめた。
「……殴る蹴るしかできねぇなら、槍か弓、あるいは罠だな。落とし穴の底に杭でも打っときゃ勝手に死ぬ」
なるほど、それなら私でも――
と思ったけれど、すぐに不安が過る。
「でも、間違って人が落ちたら?」
「……一番は、遭遇しないようにしろ」
結局、それが真理だ。自分の身の丈に合わない相手には近づかない。
肝に銘じよう。
ガイルが採取に同行してくれることになり、私たちは一度薬屋に寄って直接取引の相談をした。
今回の希望は、毒消しの葉10枚、ポポの葉5枚。そして中級ポーションの材料になる「カキシドの葉」を2枚。カエンキノコの被害を想定して、より効能の強い薬を揃えておきたいらしい。
町の外へ出ると、私は必死に草むらを探った。
クロの鼻に助けられながら、ようやく見つけたのは「カキシド」。
蔓性で、茎や丸い葉に細かい毛が密集している。
「……これよね?」
確認するとガイルが頷いた。慎重に葉を摘み取っていく。
半分ほど採り終えた頃だった。
視界の端で、鮮やかな「赤」が揺れた。
「――っ!」
クロが「がるる……」と喉を鳴らす。
敵か。
そう気付いた時には、頭が炎のような形のキノコが目前に迫っていた。
見た目はエリンギに手足が生えたゆるキャラのようだが、纏っている空気は凶悪そのものだ。
「しまっ――」
飛び退こうとしたが、焦りで足を取られ、無様に尻餅をついた。
(あ、やばい。触れる――!)
死の予感が背筋を駆け抜けた瞬間、目の前のカエンキノコが激しい炎に包まれた。
「この間から浮かれすぎだ。死ぬぞ」
ガイルの声が降ってくる。
「あ、ありがとうございます……」
心臓がうるさい。
そうだった。
私はまだ、子供たちの情報の欠片さえ掴んでいないのに。
死んでる場合じゃない。
それからは、無心で、けれど周囲への警戒を限界まで高めて採取を続けた。
一角ウサギにヴァイパー、そしてバッタを五匹。
(……ウサギを狩りまくるつもりが、バッタばっかり)
申し訳ない気持ちでクロを見ると、彼は今日も一匹仕留めたウサギをくわえてルンルンだ。
一匹じゃ足りないわよね。
せめて宿で野菜をかさ増ししてもらおう。
薬屋へ戻ると、シェリルさんが
「早い! 綺麗! 最高!」
と小躍りして迎えてくれた。
「お前、この間採った毒消しを丸薬にしてもらえ」
ガイルのアドバイスに従い、シェリルに調薬をお願いする。
草のままより効能が段違いに上がるらしい。
「代金はいいですよ!」
という好意に甘え、
本日の報酬――銀貨六枚と銅貨九枚を受け取った。
ずっしりとした重み。
またニヤけそうになる自分を、必死で抑え込む。
(浮かれたら死ぬ。調子に乗ったら終わるのよ、ミサキ)
店を出て、ようやく一息ついた。
「……あ、お昼、食べ損ねちゃった。みんなお腹空いたでしょ?」
慌てて二人に声をかけるが、
「あ? 俺は干し肉食ってたから大丈夫だ」
「…………」
クロも、採取の合間にこっそり何かを狩っていたらしい。
……必死になりすぎて、周りが全く見えていなかった。
もしあの時、ガイルがいなかったら。
もし別の魔物が背後にいたら。
夕暮れの風が、やけに冷たく感じられた。
今日は、反省ばかりの一日だ。




