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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第五章 ノクス=ヴェリア編

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第百六十四話 再会はナッツと共に

「ミ、ミサキ?!大丈夫か?」

 私が急に泣き出したので、横に座っていたセリスは驚いて背中を擦ってくれた。

「ありがとうセリス。大丈夫よ。ちょっとこの……クレッテ茶?が故郷で飲んでたものに似てて……」

 カップを両手で包み込むように持ち、その香りを胸いっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出した。

「懐かしくって……」

 口の端が自然と上がり目を細める私を見て、セリスはホッとしたように強張っていた顔を崩した。

「なぁんだ。びっくりした!毒でも入ってたかと思った!」

 セリスの言葉にアリアンさんは目を瞬かせた後、「そんなことをするはずがないでしょう!」と両手をブンブン振って否定していた。

 その姿がなんだかおかしくって私は思わず噴き出した。

「ぶふぅ!あ、あはははは!!あー!おっかしい!!」

 (悩んでも落ち込んでも仕方ないわ!今やれることをやるしかない!!)

 私が気合を入れて拳を握れば、クロはその様子を見て「まったく……」と呆れたように息を吐く。

 その顔には、どこか嬉しそうな笑みがあった。

 セリスは泣いたり笑ったりする私を見て、どうしたら良いのか分からない様子で私とクロを見比べている。

「セリス、もう大丈夫。本当にちょっと懐かしくなっただけなのよ。心配しないで」

「そ、そうか?ならいいんだ……」

 セリスはそう言った割に、それからも私の顔を心配そうにチラチラ見ていた。

 私はその視線を感じながらアリアンさんへ質問を投げかけた。

「アリアンさんが大森林の神殿に行かれた理由をお聞きしても?」

「構いませんよ。元々は、私の研究……つまり世界樹の枯れた原因かもしれない『世界の力の淀み』を調べるためでした」

 アリアンさんは手元のクレッテ茶を一口飲み、遠い目をした。

「神が強引に異世界召喚を行うと、世界樹に負荷がかかるほどの巨大な力の歪み……言わば『淀み』が発生するのではと私は仮説を立てていました。かつてダークエルフの一部族が住んでいた大森林の廃神殿は、地脈が集中する巨大な節目でしてね。そこに淀みが溜まっていないか確認しに行く計画を立てていたのです」

「地脈の節目……」

「えぇ。ですが、その調査資料……神殿に残る転移陣の図解を見たヲーレが『自分が飛ばされてきた時に見た魔法陣と同じかもしれない』と言い出しまして……」

 思い出しながらポツリポツリと話すアリアンさんの顔は、とても寂しそうに見えた。

「当時、大森林はすでに獣人族の縄張りとなっており、一人で行くのは危険だと止めました。ですが彼は『帰れるかもしれないのに邪魔をするな!』と興奮して聞き入れず……。結局、私の地脈調査も兼ねて、彼に同行することにしたのです」

「そうだったんですね……」

「えぇ。現地に着いて私が見たものは、神殿の地下に固まっていた目に見えるほどの凄まじい魔力の淀みでした。そして……その淀みによって勝手に暴走、変質していたのが、あの転移魔法陣だったと思われます」

「あの……その魔法陣で帰れたり、もしくは私の子供たちを探すヒントになったりは……しないでしょうか?」

 一番聞きたかったことを、無理矢理声を絞り出すように質問した。

 膝の上でカップをぎゅっと握りしめる。

 クレッテ茶を飲んだばかりだというのに、なんだか妙に喉が渇く。

「……すみません。私は魔法陣のことは専門外でして。先程紹介してほしいと仰っていた件ですね?今、召喚と転移について研究している若いシャーマンがおりますので、その者をお呼びしましょう。私と研究内容が被るところがありますので、最近よく意見交換などもしておるのですよ」

 アリアンさんはそう言って手を組み、ぼーっと手を見続けていた。

「あの……アリアンさん?」

「しっ……。念話をしてるんだ。シャーマン同士は念話できるから、たぶんさっき言ってた若いシャーマンを部屋に呼んでるんだ」

 セリスが口元に人差し指を立てて、私に静かにするよう注意した。

(念話って、傍から見てる分には地味なのね……。何にも様子が変わらないから、ぼーっとしてるだけに見えるわ)

「今呼びましたので、暫くすればここに来ますよ。その間にクレッテ茶のおかわりをご用意しましょう」

 

 アリアンさんがクレッテ茶のおかわりを用意してくれていると、ドアがノックされる音が部屋に響き、一人の人物が部屋に入ってきた。

「失礼致します。アリアン様、火急の用とは一体何事で……」

 私と目が合ったその人は固まり、大きく目を見開いた。

「お、お前!!何故アリアン様の部屋にいる!?穢らわしい人族が入っていい場所ではないとあれほど——」

 そう言いかけた瞬間、クロの目つきが変わった。

 耳を伏せ、低い唸り声を上げようとするクロの殺気を感じ取った。

 (——あ、ヤバい)

 そう思った私は、お皿にあったハーゼルの実を全て鷲掴みにして、クロが飛びかかるより早く、思いっきりそいつ目掛けて投げつけた。

「痛い!!痛い!!!やめろ!何をするっ!」

 身を小さくしているその人物は、昨日の“栄養失調貧弱シャーマン”だった。

 

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