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神は愛を知らない 〜異世界に飛ばされた主婦が、それでも子供を探し続けた記録〜  作者: 忠犬
探すために、進む

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第十五話 導く者

「よし、ここでいい」


町を出てしばらく歩いたところで、ガイルが足を止めた。

周囲はまばらな林。

道はあるが、人の気配は薄い。


「……町から思ったより近いですね」

「近いからこそ、油断する奴から死ぬ」


即答だった。


「この辺りは、町の外に慣れるための場所だ。雑魚も出る。だが、気を抜けば普通に食われるぞ」

「なるほど……」


頷きながら、周囲に意識を向ける。


「まずは確認だ」


ガイルがちらりとこちらを見た。


「お前、名前は」

「あ、そういえば……今さらですね。ミサキです」

軽く頭を下げると、彼は短く「ガイルだ」とだけ名乗った。

「……それだけですか?」

「他に何がいる」

「いえ、まぁ……」


愛想のなさに苦笑する。


「で、そっちは」

視線が足元のクロに向く。

「クロです」

「そのままだな」

「分かりやすいでしょ?」


クロは、じっとガイルを見上げている。


「……ただの従魔じゃないな。目が違う」


その一言に、妙に納得した。

ガイルの観察眼は、ただの冒険者のそれではない。

「で」

ガイルが腕を組み、鋭い視線を向けてくる。


「南に行く理由は」


一瞬、言葉に詰まった。

けれど、隠す必要もない。


「子供を、探しています」


まっすぐに言うと、ガイルの眉がわずかに寄った。


「この世界に、一緒に来ているはずなんです。……確証はないですが、絶対に見つける」


拳を軽く握る。

短い沈黙の後、ガイルはそれ以上何も聞いてこなかった。

「この世界…ね」

小さくガイルが呟く。


「……そうか。なら尚更だな。生き残れなきゃ、意味がない」

「はい」

自然と、言葉に力がこもった。


「そのデカ猫だが、戦えるだろ」


ガイルが断言するように言う。


「分かります? 村ではかなり助けてもらったんですけど、今は基本、後ろで見てるだけなんです。命令はしていません」

「命令をしない根拠は」

「勘、です。多分、しない方がいい気がして」

普通なら笑われるような答えだが、ガイルは「勘で生き残る奴もいる」とだけ言った。

「ただし、外れたら死ぬ。……基本はお前がやる。ということだな」

「ええ。そのつもりです」


そのとき、草むらが大きく揺れた。


「……来るぞ。やれるか」

「やります」


飛び出してきたのは一角ウサギだ。

一直線にこちらへ飛び込んでくる。

速い。

思ったよりも、一歩分近い。

「っ――!」

踏み込みが半歩遅れ、振りかぶった拳が空を切った。着地したウサギが、すぐに跳ね直す。


「……次!」


今度は引かない。

ぶつかる瞬間、腰の回転を乗せて拳を叩き込む。

ぐしゃり、と骨に当たる鈍い衝撃。

ウサギの体が沈んだところへ、さらにもう一撃。


「――終わり!」


動きが止まる。

息を整えながらガイルを見ると

「悪くない。力任せだが、無駄は少ない」

と短い評価をくれた。


「だが、次はこれだ」


ぬるりとした音。

スライムだ。

「核の位置、分かるか」

「……多分」

構える。

ぬるり、と地面を滑るように近づくスライムに、腕を突き入れる。

冷たくて、ぬめる。

気持ち悪い。


「……あった!」


指先に触れた硬い感触を、逃がさず握り潰した。

――ぱきり。

力が抜けるようにスライムが崩れ落ちる。


「及第点だな。死ぬ動きはしてない」


その一言に、少しだけ肩の力が抜けた。

クロがそっと隣に寄り添う。

ガイルがそれを横目で見て

「面白いな、その距離感」

とぽつりと呟いた。


「今日はここまでだ。南へ行くなら、徒歩で三日。途中に水場が一つある。そこを外すな」

「はい。ありがとうございます」

「細かい話は、また今度だ」

「……また、いいんですか?」


一瞬だけ間があった。


「死んでなければな」


口元が、わずかに緩んだ気がした。


「頑張ります」

「頑張るな。生きろ」


背を向けたまま投げられたその言葉が、やけに重く、温かく残った。

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