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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第五章 ノクス=ヴェリア編

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第百四十四話 (閑話)苦労人ダニエルの独白

 俺の名前はダニエル。

 元々B級冒険者をやってたが、引退しようか迷ってたときにギルマスから引き抜かれた。

 腕も立つし、人当たりも良いってことでヴァルグリムの潜入捜査のために宿屋の主人として紛れ込んだ。

 自身での諜報活動もそうだが、他の諜報員のサポートなんかも俺の仕事だった。

 それに加えて宿の主人としての仕事もしなきゃなんねぇから、忙しいのなんの……。

 俺を過労死させる気かと副マス…いや、今はヴァルグリムのギルドマスター代理か。

 兎に角、ヴェンデリンの馬鹿野郎を呪いたくなったね。

 本人に馬鹿野郎なんて言ったら殺されるから言えないが……。


 忙しさに翻弄されているときに、アイツが派遣されてきた。

 パッと見は、ガタイの良いオバサンだ。

 何でこんな奴を派遣してきたのか、俺にはさっぱり分からなかった。

 ド素人感満載だったからだ。

 やっぱりヴェンデリンが俺の仕事を増やして過労死させる気なんだと、あの時は本当に腸が煮えくり返りそうだった。

 ミサキと名乗ったその女は、諜報活動そっちのけで孤児を拾ってきて慈善活動を始める始末だ。

『こいつは何考えてやがんだ?仕事する気あんのか?』

 と、本気で思った。

 しかし、結果はどうだ。

 あれよあれよと言う間に情報を集めて来たかと思えば、何故かドワーフ連中に聖女様だと持ち上げれる始末だ。

 挙句、ドワーフを仲間に引き入れて、キッチリ証拠まで押さえた。

 まぁ、それからのアイツの暴走は想定外だったが……。

 怒ると怖い。

 母ちゃんみたいだ。

 怒らせないようにしようと心に誓ったのは内緒だ。


 しかし、そこから後が俺の予想の遥か斜め上をいった。

 何故か俺までバルドガルド王国に派遣されることになった。

『いや、何で?ジャンだけで良くないか?』

 本当にそう思った。

 しかし、ヴェンデリンの馬鹿野郎は

『貴方なら、ミサキさんが暴走しそうになったら止めれるでしょう?止められますよね?やりますね?……やりなさい』

 と、真顔で詰めてきた。

 本当に怖いから止めてくれ。チビるかと思ったくらいだ。

 アイツは元Aランク冒険者でもある。怒らせると本当に不味いんだ。


 ヴェンデリンの威圧に負けて、結局バルドガルド王国へ着いていった俺は、早々に後悔した。

 ミサキのバカはバルドガルド王に対して失礼な行動ばかり取るし、俺の胃がいくつあっても足りない。

 おまけに何故か避難民の誘導と坑道の魔物の討伐をすることになった。

『いや、使節団の仕事じゃねぇだろ!』

 と激しくツッコミたかったが、断って国際問題に発展してはかなわない。

 バルドガルドのような大国相手に、小国のフリージアが敵うわけがないのだ。

 そこのところを、現フリージア王は分かっていない。

 愚王と言われるのは、そういうところもある。

 

 何やかんや避難民の誘導と坑道の魔物の討伐をどうにかやり切ったかと思った頃に、あの古龍の復活ときたもんだ。

 あの時は本当に死んだと思った。

 ミサキのバカがまた暴走して突っ込んでいくし、俺はもう半ばヤケクソだった。

 ただ、あの時の判断は間違いだったと思う。

 あんな地獄は、見たことなかった。

 俺が今まで経験してきた、死線と思い込んでたものが全て、生ぬるい薄っぺらいものに感じた。


『あぁ……終わったな』

 そう思ったときでも、諦めない奴らがいた。

 正直、なんて馬鹿なことをと思った。

 古龍の理不尽な暴力の前に、何ができるんだと思った。

 でも、諦めない奴らが必死に掴んだチャンスを、俺が無碍に出来るはずがなかった。

 ただ、ただ、必死だった。

 

「私に出来ることがあるならやるだけよ」

 そう言って考えなしに突っ込んでいく馬鹿を相手にするのは、本当に疲れる。

 サポートする方の身にもなれと頭をぶん殴ってやりたい。

 いや、何度か頭をどついた気もする。が、全く効果なしだ。

 ……はぁ。

 結局、古龍は再封印できたから良かったものの、バルドガルド王国の損害はかなり激しかった。

 だから俺がこうして復興の手伝いをしているわけだが——。


「あ!ダニエルだ!!今日はこっちの手伝いしてくれるの?」

「ダニエル!遊ぼうよ!!昨日は忙しいからダメだって来なかったろ!」

 ドワーフの子供達はクロがいなくなってからというもの、何故か俺のところに来る始末だ。

「俺はいま家建てるの手伝ってんだ!遊べないって何回言えば分かる!」

「ちぇー……」

「仕方ない……。ため池で遊ぼうぜ!」

 子供達は「ダニエルのバーカ!ハゲ!!」と俺を罵りながら、坑道の奥へ走って逃げていった。

「誰がハゲだ!!まだハゲてねぇよ!!!」

 俺が子供達に向かって叫んでいると、後ろから声がかかった。

「ダニエルも大変だな」

 そう言って笑いながら近づいてきたのは、ローガーだった。

 この男は、あの古龍戦のときに諦めなかった内の一人だ。

 ヴァルグリムでは、どうも頼りない印象が強かったが、こちらに来てからは何かに覚醒したのかと思うほど変わった。

 いや、まぁ物理的に覚醒したようではあるが。

「クロがいなくなってから、俺のところに来て困ってるんだ。どうにかならないか?」

 俺は肩を落として深いため息を吐いた。

「クロがいなくなってから……か」

 あ、不味い。

 反射的にそう思ったときには、時すでに遅し。

 ローガーはみるみる目に大きな涙を溜め始め、鼻水を垂らしながら喚き出した。

「な、何で聖女様は俺を置いて行っちまったんだぁぁ!!俺も一緒に旅に出たいってあれほど……。うぐっ……」

 しゃくり上げながら泣く中年ドワーフに、俺は頭を抱えて空を見上げた。

 ローガーはミサキに着いて行きたかったらしいが、ミサキは勿論、バルドガルド王国の人々が許さなかった。

 ローガーは今や大英雄と讃えられるほどだ。

 言ってみればドラッヘンベルクの。いや、バルドガルド王国全体の希望の星と言ってもいい存在だ。

 あれだけの絶望を叩きつけられた者達には、神にも等しい存在に見えたことだろう。

 現にローガーは騎士団連中から崇拝されている。

 そんな奴が、街の真ん中でおいおい泣いているのだ。

「……全く。いつまでメソメソしてるんだ!早く作業に戻れよ!お前だって騎士団の仕事があるんだろうがっ!」

「……うぅ。だってよ……」

 俺が一喝しても、泣き止まないローガー。

 こんなのでも、古龍討伐の功績が認められて切り込み隊の隊長に抜擢されたのだから、困ったもんだ。

 俺がどうしたものかと頭を抱えていると、ヨルゲン隊長が通りかかった。

「ローガー!!こんなところで何をしている!さっさと仕事に行け!!そんなんじゃあ、ミサキ殿に笑われるぞ!」

「聖女様に……笑われる?」

 ローガーは呟くと、目をゴシゴシと乱暴に腕で拭き上げ、顔を上げた。

「……仕事に行ってくる」

 それだけ言うと、雄叫びを上げながら王城の方へ走っていった。

「何なんだ?全く……」

 俺はやれやれと肩をすくめて、ローガーの走って行ったほうを見つめる。

「全く……。ローガーはミサキ殿がいないと身が入らないな。あれがあの獅子奮迅の活躍を見せた大英雄には見えん」

「全くだ。ヨルゲン隊長も今から仕事ですか?……おっと、隊長じゃなくて、副騎士団長でしたね」

「……そう呼ばれるのは、荷が重いのですがね」  

 ヨルゲン副騎士団長は、困ったように眉を下げながらも、その口元には柔らかな笑みが浮かんでいた。

 ヨルゲン副騎士団長もローガー同様、古龍戦で諦めずに戦い抜いた一人だ。

 ヘルムフリート騎士団長が怪我で指揮が取れなくなったとき、全ての指揮を執った功績が認められて、一気に副騎士団長まで上りつめた。

 ヨルゲン副騎士団長に憧れている者も少なくないと聞く。

「さぁ、私もそろそろ仕事へ戻ります。ダニエル殿、また飲みに行きましょう」

「次はお手柔らかにお願いします。また飲み潰されてはかないません」

 俺は眉尻を下げて困ったように苦笑し、ヨルゲン副騎士団長を見送った。

「……こっちは皆、元気でやってるぞ。そっちはどうだ、ミサキ」

 ポツリと呟いた俺の言葉は誰に聞かれることもなく、街の中の喧騒に飲み込まれていった。

 

 

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