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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第五章 ノクス=ヴェリア編

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第百四十話 森も敵

「あっち行ってよぉぉぉぉ!!」

 全速力で半べそをかきながら逃げる私。

 それを凄い形相で追いかける猪の魔獣。

 これを見たらクロはさぞ呆れることだろう。

 今いなくて良かった。いたら絶対に後から酷いしごきが待っているはずだ。

 そんなことを考えてひたすら走る私の周りを、ふよふよとまた精霊が姿を現した。

「い、いま相手してあげれないのよぉ!」

 半泣きで叫ぶ私をよそに、精霊は猪の魔獣の前に躍り出た。

「ダメよ!危ない!!」

 全速力のまま急停止しようとした勢いで、体が横へ流れた。

 靴底が土を削り、砂煙を巻き上げながら横滑りする。

 私はそのまま魔獣の方へ鋭く視線を向けた。

 すると、精霊が魔獣の目の前で(からか)うようにふよふよと飛び、邪魔をしている。

 猪の魔獣は煩わしそうに首を振って地団駄を踏んでいた。

「え……。あれは、遊んで……るの?」

 助けるべき状況か分からず、私は首をひねった。

 助けようにも、私が出ていったとして死ぬ以外の未来は見えない。

 私が考え込んでいると、精霊はそのまま猪の魔獣を誘導するように、セリス達が逃げた方へ連れて行ってしまった。

「え……そっちはちょっと困るんだけど……」

 悩みながらも、どのみちセリス達をとっちめに行かなければならないため、私も警戒しながら後を追った。

 暫く進むと、「ブオオォォォ!!」という雄叫びが遠くから聞こえてきた。

 木に登り、雄叫びが聞こえた方を注意深く見てみると、猪の魔獣が暴れているのが目に入った。

 セリスではなかったが、女の子のダークエルフがいた。

 木の上から矢を射るが、分厚い毛皮と脂肪に阻まれ、致命傷にならない。

 怒り狂ったジャイアントボアは木へ体当たりをかます。

 ドゴォッ!と何かが爆発したのかと思うような音が森に響き渡り、幹が激しく揺れた。

 ダークエルフはバランスを崩し、木から足を踏み外して落下してしまった。

 打ちどころが悪かったのか、ピクリとも動かない。

 遠目からでもわかった。

 セリスたちよりも小さくて、華奢な女の子だ。

「……まずいわね」

 あのままでは踏み潰されて死ぬ。

「あぁ、もう!!出たとこ勝負よ!」

 私は木から滑り降りて、一気に駆けた。

 絶対に自分より格上だと分かる初見の魔獣と戦うなんて、なんて無謀なんだろうと自分でも思う。

 でも、見殺しにするのは、違う。

 例えいけ好かなくても。

 性格がクソみたいに終わってても。

 幼い子供を見捨てるなんてこと、できない。

 ——子供は守る。

「こっちよ!!!」

 大声で魔獣の背後から声を掛けても反応しないため、私は一気に距離を詰めて、右後ろ足の膝裏関節を狙って殴った。

 不意に膝カックンを食らった形になった魔獣は、大きくバランスを崩した。

 しかし、倒れるまでには至らない。

 急いで二撃目を左膝の皿を目がけて叩き込む。

 

 (せめて皿が割れれば動きが鈍るはず!)

 ルブロンスパイダーで散々、関節攻撃をしまくった記憶が頭をよぎる。

 体重を乗せ、グローブの威力を一点に集中させた。

「どりゃあぁぁぁぁ!!!」

 思いっきりぶん殴った瞬間、グローブからの衝撃波が出て「ボギン!!」という鈍い音がした。

「ギャオオオオ!!!」

 悲鳴にも似た鳴き声を上げて倒れ込む猪の魔獣を横目に、ダークエルフへと近寄る。

「息はしてるわね。どうにかして運ばないと……」

 しかし、魔獣も手負いとは言え、逃がしてはくれないだろう。

 魔獣は私が殴ったことに、相当腹を立てているようだった。

「セリス!!セリス何処?!この子を連れて逃げて!」

 木の上に向かって叫んだが、セリスは近くにいないのか答えない。

「何処行ったのよ!こんな時に!!」

 文句を言いながらダークエルフを担いで、私は走った。

 意識のない人間は驚くほど重く、膝にズッシリと重みが加わって足が上がり辛い。

 木の根に足を取られながら必死で走るが、足が絡まって遂には派手に転んでしまった。

「いてて……」

 ダークエルフの方を見れば、顔面から地面に突っ込んだようで、所々擦り傷がついていた。

 私は慌てて担ぎあげようとしたとき、足元に矢が飛んできた。

「……は?」

「お前!!そこをどけ!」

 声のする方を見れば、セリスが弓を完全に引き絞った状態で私を睨みつけていた。

「ちょっと!今それどころじゃないでしょ!」

「そこをどけ!!仲間にこれ以上手出しさせるものか!」

 セリスは怒り心頭の様子で私を親の敵のように睨みつけている。

 

 (あ~……。やり過ぎたかしら?)


 どうやら最初の二人をボコボコにしたせいで、私がまたセリスの同胞に手をかけようとしていると勘違いしているようだ。

「魔獣が追ってきてるのよ!早くしないと死ぬわよ!!」

「嘘をつくな!!ジャイアントボアならさっきあっちへ誘導した!」

「そんなの知らないわよ!でっかい猪がこの子を踏みつぶしそうだったから、担いで運んだんじゃない!」 

 言い合いをしている内に、後方からはジャイアントボアの雄叫びと足音が聞こえてきた。

「来たわよ……」

「ちっ……。本当だったか。もう一匹いたなんて」

 セリスは狙いを定めてジャイアントボアに向かって弓を引き絞っている。

「ちょっと!あれと戦うとか正気?逃げなきゃ!」

「ジャイアントボアは速い!人一人担いで逃げ切れない!」

「あいつの膝の皿を割っといたから、そんなに速く走れないわよ!!早く行くわよ!」

 私は気絶しているダークエルフの女の子を担ぎ直して、さっさと逃げる。

「……は?ジャイアントボアの膝の皿を?お前が……?」

 後方から間の抜けた声が聞こえた気がしたが、今は一々気にしていられない。

 とりあえず広場に出ればダークエルフも沢山いるし、何よりクロとタリエシンさんがいる。

 あそこまで辿り着けば、どうにかしてくれるだろうと足を動かす。

 セリスは少し悩んでいたようだったが、すぐ私を追いかけて走ってきた。

「おい!何処に向かって走ってるんだ?!何か作戦があるのか?」

 少し焦っている様子で私に尋ねるセリスに、私は『息が上がってきているというのに話しかけるな』と文句を言いたいのを我慢して()()()答えてあげた。

「うるっさいわね!作戦なんかないわよ!!とりあえずタリエシンさん達がいる広場に行けばどうにかなるでしょ!!」

「はぁ?!お前、広場は反対だぞ!!」

「……マジ?」

 どうやら森の中をあっちこっち歩き回りすぎて、方向感覚が狂ったらしい。

 確かにこっちだと思っていたのに、いつから間違っていたのか見当もつかなかった。

「……チッ。トレントにでも騙されたんだろ!森のことを知らないのに中に入るからだ!」

「そんなこと言ったってしょうがないでしょ?!アンタ達すぐ殺しにかかるじゃない!」

 そんな言い合いをしている内に、ジャイアントボアがすぐそこまで迫っていた。

「ブォォォォォォ!!!」

 皿を割ったお陰か、足を引きずっているため走る速度はそこまで速くない。

 しかし、こちらとて気絶した人を一人担いでいるため、そこまで移動速度は速くない。

 セリスと顔を見合わせ、どうするかと思案する。

「……仕方ない。共闘よ。一時休戦。いいわね?」

「……チッ。人族と共闘などと」

「死ぬよりマシでしょ!」

 私はダークエルフの女の子を木の陰に隠し、離れた場所へ移動した。

「……はぁ。本当ついてない」

 愚痴をこぼしながらも、アレをどうやって倒すか考える。

 目の前には、木に体当たりしては薙ぎ倒しながら進む怒髪天のオッコトヌシ様がいた。

「……倒すとか、無理じゃない?」

 私の呟きは、オッコトヌシ様の雄叫びにかき消されていった。

 

  

 

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