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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第五章 ノクス=ヴェリア編

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第百三十七話 屈しない覚悟と一族のプライド

 知らない間に、神様の悪趣味なゲームの主人公に決定されていた私は、酷く腹を立てていた。

「私をこっちに連れてきた神様って、誰か分かる?いや、神様なんて言いたくないわ。うんこよ、うんこ!」

「「……うんこ」」

 タリエシンさんとクロは、目をぱちくりさせた後、口をきゅっと結んで必死に笑いを堪えていた。

「まさか……。神を排泄物よばわりするとは……思わなんだ」

 タリエシンさんは、ぷるぷると肩を震わせて笑いを噛み殺しているが、時折吹き出しているため諦めて笑ってしまったほうが楽なのではと思う。

「で、誰なの?私を連れてきたのは」

「そいつは恐らく観測神ミーヴァルか、遊戯の神レイグだろう。俺が今まで会ってきた奴らの話を聞く限り、どっちかの玩具にされている可能性が高い」 

 クロは低く唸り声を上げ、歯を剥き出しにした。

「あいつらは昔から人間を玩具にする。この世界の人間でも、異世界人でも関係ない。レイグは悪意の塊だが、ミーヴァルの方は毛色が違う」

 クロはそう吐き捨てるように言うと、不快感を隠そうともせず、低く短く唸り声を上げた。

 鋭い爪が床の木目をキチキチと軋ませる。

 パチッと小さく炭が爆ぜる音が響き、囲炉裏を囲む空気までもが冷え込んでいくようだった。

「違うって……どんな?」

 私が固唾を呑んで尋ねると、クロは前脚に顎を乗せ、どこか遠くを見るような冷めた目で応えた。

「悪気がないから余計にたちが悪い」

「悪気がないって……。人を死ぬまで虐めてるのに悪意がないの?神様とは言え、どんだけ傲慢なのよ!」

 私は怒りのあまり、思わず身を乗り出して床をバシッと叩いた。

 囲炉裏の火がチラチラと揺れ、自分でも驚くほど強い語気が静かな室内に響き渡る。

「……お前は歩いているときに、蟻を踏み潰すかもしれないと気を配ったりするか?」

 クロの冷ややかな一言に、私の怒りがピタリと止まった。

「自分より遥か下の存在が、どうなろうと知ったことではない。ミーヴァルにとって人間は、ただの『観察対象』でしかないんだ。だから絶望しようが、狂おうが、ただ観ている」

「……っ」

 蟻——。

 その例えは、あまりにも的を射ていて、背筋に冷たいものが走った。

 怒ることすら、向こうからすれば「面白い反応」でしかないのだ。

「……決めたわ」

 私は拳を強く握り締め、クロとタリエシンさんを順番に見つめた。

「絶対に挫けてやらない。その神様だか何だか知らないけど……あいつらの思い通りになってたまるもんですか。私は子供達を見つけて、全員で笑って家に帰ってやるんだから!」

 私が決意を新たに息巻いているのを、クロとタリエシンさんは目を細め、呆れたように笑ったが、その表情にはどこか温かさがあった。



 それからダークエルフについてタリエシンさんに質問していたら、家のドアをノックする音が響いた。

「タリエシン様、セリスです。お願いがあり参りました」

「セリスか。入って構わんよ」

「失礼します」

 ギィィ……と音を立てて入ってきたのは、私達に弓を構えて威嚇してきた女の子だった。

 

 (……確か村長の娘さんだったかしら?)


 私は村長であるエイノンの尊大な態度を思い出し、苦々しい顔をしてしまった。

 そんな私を横目で睨みつけると、セリスはタリエシンさんの近くに座り、頭を下げた。

「そこの人族の女と勝負がしたいです!」

「は?」

 私は思わず間抜けな声を上げた。

 何故私がそんなことをしなければならないのか、全く理解できない。

「……勝負のぉ。そんなことをする必要があるのかのう?」

 タリエシンさんも疑問に思ったらしく、理由を聞いてくれた。

 いや、理由を聞いても私はやりたくないけども。

 横目でクロをチラリと見れば、何だか悪巧みをしているのか、口元がニヤリと笑っている。

 

 (こいつ……戦わせる気じゃないでしょうね?)


 『実戦あるのみだ』そう言っていたクロは、これまでも私に出来る限り戦闘経験を積ませようとしていた。

 まさかとは思うが、対人間の戦闘経験まで積ませようと企んでいるのではなかろうかと、内心ヒヤヒヤしている。

 これは、絶対に阻止せねばならない。

「勝負する理由など、分かっているでしょう! 私はあの黒い魔獣に後れを取りました……。ですが、その人族相手ならば勝てたはずです!」

 セリスは自身の胸に強く手を当て、タリエシンさんに必死に訴えかける。

「魔獣を自分の意のままに操って虐げるような、低俗なテイマーに負けたとなれば、一族の恥さらしです!!」

「セリスよ……。お主、色々勘違いしておるのう。まずメルケは従魔ではないし、ミサキもテイマーではないぞ」

「そんなはずありません! 人族の言うことを聞く魔獣などいるものですか! この女が、怪しい魔道具で無理矢理使役しているに決まっています!」

 決めつけるように指を差してくるセリスに、私は思わず「はあ!?」と声を張り上げた。

 

 (言いたい放題言ってくれるじゃない!!)

 

「のう、セリス。仮にそうだったとして、なぜ勝負をせねばならんのだ? そなたが川底に沈められそうになったのを、ミサキは助けたのだろう。恩人ではないか」

「低俗なテイマーに助けられたなど、屈辱以外の何ものでもありません! このまま引き下がれるものですか!!」

 悔しそうに奥歯を噛み締め、額に青筋を浮かべるセリス。

 タリエシンさんが「困ったものじゃ」とお手上げ気味にため息を吐いた、その時だった。

「いいぞ。その勝負、受けよう」

「いや! 受けないわよ!! バカなの!?」

 間髪入れずに、私は断固拒否の姿勢を示す。

 

 (冗談じゃないわよ!ダークエルフ相手にどう立ち回れっていうの?!あっという間に体中、蜂の巣にされちゃうじゃない!!)


 情けない話だが、私に長距離攻撃を避ける身体能力はないし、防げるような防御力もない。

 懐に入れればまだ勝算はあるかもしれないが、懐に入る前に死ぬ。

 クロだって分かっているはずなのに、何故勝負をしようとするのか、意味が分からなかった。

「勝負は一回きりだ。そしてお互い致命傷は避けること。これが条件だ。呑めなければ勝負はせんぞ」

「分かった。それで良い」

「ちょちょちょちょっ!!!ちょっと待って!何で勝手に決めんのよ!」

 二人は私を無視して勝手に話を進めている。

 タリエシンさんに助けを求めて視線を送るが、楽しそうに微笑んでいるだけだった。

 

 (……終わった)


 さっきまで味方をしてくれていたはずのタリエシンさんまでもが、敵に回ったと悟った瞬間、私の明日は来ないかもしれないと本気で思い、私は天井を仰いだ。


 

 

 

 

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