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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第五章 ノクス=ヴェリア編

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第百三十六話 神々の暇つぶし

「はっはっは!ひぃー!ひぃーひっひっひ!!」

 腹を抱えて笑うタリエシンさんに、『そこまで笑わなくても……』と苦笑いを浮かべる私を見て、更にため息を吐くクロ。

「もう!クロもため息ばっかり止めてよねっ!!」

 眉間にシワを寄せて怒る私を見て、クロはまたため息を吐いた。

 

 (こいつ!当てつけかぁ〜?)


「あのねぇ!それ止めてって——っ!」

 私が顔をクロに近づけて文句を言おうとしたとき、目の前が真っ黒になったかと思うと、顔面にクロの肉球が押しつけられた。

「うるさい」

「むー!これふべば、わほひがははむほおほっへ!」

 (もー!これをすれば、私が黙ると思って!)

 顔を顰めてクロの肉球から逃れ、ぷはっ!と息を吐く。

「お前は本当に仕方のないやつだな。『何もできない』なんて胸を張って言うことじゃないぞ」

「だって仕方ないじゃない!魔力って言われても分からないし、スキルなんてどうやって習得するのかも、発動条件も分からないんだもの……」

 私は自分のズボンの裾を、シワがつくことも気にせず強く握る一方で、紡いだ言葉はどんどん弱々しくなっていった。

 ガイルさんに基本は教えてもらってマシになった。

 そこから実戦を積んで、クロに教えてもらいながらここまで来た。

 少しばかり戦えるようにはなったが、Bランクの魔物が出れば一人では確実に死ぬだろう。

 まだまだ強くならないと、私は子供達を探すどころか、自分の身体の一部を探し回る羽目になるかもしれない。

 しかも、即死すればそれすら叶わない。


 そんなことを考えて小さくなっていると、タリエシンさんがいつの間にか笑い終えていることに気づき、私は顔を上げた。

 タリエシンさんと視線がぶつかると、いつものにこやかな表情ではなく、真剣な顔つきでこちらを見ていることに私は驚いて、ビクッと肩を震わせた。

「ミサキよ、お主。何か勘違いをしてはおらんかのう?」

 タリエシンさんの声色は優しく、私を諭すようだった。

「……勘違い、ですか?」

「左様。お主は魔法もスキルもない。何も出来ないと言うが、愛の女神モウゼル様の加護がついておるじゃろ。その加護のお陰で助けられた人もおるはずじゃ」

「それは……そうですが。加護の効果で身体能力が二、三割向上しても、私のように元がそこまで強くない人間では、あまり意味がないのでは……」

 愛の女神モウゼル様の眷属であるクロを前にして、女神様のスキルに文句を言うのは、非常に居心地が悪いが、私は言い淀みながらも言葉を続けた。

「まぁ、それはそうじゃろ。ミサキとメルケは同じ加護を持っておるが、元が違いすぎて文字通り桁違いじゃ。そもそもメルケの強さは、この世界でも指折りであろうよ」

 

 (強いとは思っていたけど、そこまでだったなんて……)


 私はクロの横顔に目を移すが、クロはこちらを見ずに話出した。

「……お前は戦士になりたいのか?違うだろう。モウゼル様はお前を守れと俺に神託を下さった。他の神の悪意から守れと。お前のような者が出る度に心を痛められ、俺に守れと仰る」

 クロは一呼吸置いてから、私の目を見て言った。

「モウゼル様は次こそ無事でいてほしいと、お前に加護をつけられた。それをどう使うかは、お前次第だ」

 

(御守りみたいなものなのかしら……?)


「そうは言っても、いつまでもクロに守ってもらうわけにはいかないわよ。ある程度、自衛できないと」

「それはもう出来ている。ガイルの指導のお陰もあるが、バルドガルドで戦闘が多かったからな。戦い方がだいぶ身体に染み込んだろう。やはり実戦あるのみだ」

 クロはニヤリと悪い顔で笑った。

「やっぱり。今まで私にやらせてたのね?」

「ふん。そうしていなければ、お前はすぐ死ぬと思ったからな。ゴブリンを殴れないときはどうしようかと思ったぞ」

「だ、だって!向こうでは魔物なんていないし、人を殴ったことなんて……。……ないとは言わないけど、数える程度しかないもの!」

 人を殴ったことがない!と断言しようとして『いや、あったな……。あ、これも殴ったな……。』と過去のアレコレを思い出し言葉に詰まったが、クロ達は気にしていないようなので良しとする。

「それで……。私以外の異世界人はどうなったの?帰れたの?」

 最も聞きたかったと言っても良い話題に切り込み、私の心臓は次第に速さを増していった。

 気づけば手にはベッタリと汗をかいていて気持ち悪い。

「お前以外は全部死んだ」

 クロは私と目を合わすことなく言う。

「死んだ……?帰れなくて自殺したの?」

「そういう者もいた。あとは気が狂った奴もいれば、魔物に殺られたのもいる。色々だ」

 心無しか、クロが小さく見えた気がした。

 思い出して傷ついてしまっただろうかと不安になったが、これは聞いておかなければならない。

「神様は、何で異世界人を連れてくるの?」

 クロは黙っていたが、代わりにタリエシンさんが重い口を開き、答えてくれた。

「……暇つぶしじゃよ」

「…………え?」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。

 暇つぶし——?

(じゃあ……私が、子どもたちが、命の危険に晒されて死ぬほど苦しんでいるのは……ただの神様のヒマつぶしだって言うの!?)

 そんな胸糞悪い考えが頭の中をグルグルと駆け巡り、私は震える手で自分の口元を覆った。

 そんな私の様子を見ながらも、タリエシンさんは構わず続ける。

「神の中には、性根の腐ったような者もおる。人と同じじゃよ。自分達の楽しみのために人を陥れて、その反応を見て面白がるんじゃよ。そういうものに目をつけられれば、身の破滅じゃ」

 囲炉裏の火を見つめるタリエシンさんの瞳は、どこか違うものを捉えていたように思えた。

「つまり、私も破滅するってことですか……?」

 古龍に子供達が食べられたと思い込んで絶望したときを思い出し、私の声は震えだした。

 喉が締まる感じがして、妙に喉の奥が痛かった。

「…………お前は、今までの奴らとは違う」

 ぽつりと零したクロの言葉を聞いて横を見れば、クロは私に背中を向けて話していた。

「落ち込んでも、次の日にはケロッとしている。絶望しても、這い上がってくる。文句を言いながらも、やれるだけのことをやる。ひたむきに努力する者が報われないなど、あってたまるものか」

 クロの顔は見えなかったが、その背中はいつもの頼もしい背中で、尻尾は照れ隠しなのか大きく左右に揺れていた。

 

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