第百三十一 大シャーマンが見た神の加護
恐ろしい場所で生活しているダークエルフ達を見ながら顔を引きつらせていると、エイノンから声がかかった。
「タリエシン様の家は一番上だ。早く来い」
よりによって一番上とは、恐ろしいことこの上ない。
案内されるまま上へ上へと上がっていくと、下からは見えなかったが、巨木の根が至るところに根付いていることに気づいた。
どうも根を土台にして家を建てているようだ。
自然と共に生きるダークエルフに相応しい住居というべきなのかもしれないが、私は怖くて住めそうにない。
足を滑らせれば真っ逆さまだ。
落下防止の魔法でもかかっていれば良いのだが、試す勇気は持てそうもない。
下を見て背中に寒いものを感じていると「ここだ。入れ」と言われ中に通された。
ドアを開けて中に入るが、月明かりしか光源がないため奥がよく見えない。
「久しぶりよのう、メルケ」
メルケとは誰のことかと思っていると、クロが口を開いた。
「ふん……。老いぼれたな、タリエシン」
「貴様……!!タリエシン様になんと無礼な!」
近くで控えていたエイノンが、腰の短刀に手を掛けたが、タリエシンが止めた。
「エイノン!……下がれ」
「し、しかし!!」
「……下がれと言うておる」
落ち着いた声色ではあったが、有無を言わせない凄味を感じ、私は少し肝が冷えた。
エイノンは顔色を悪くしながら部屋から出ていったが、タリエシンという人物はそんなに恐ろしい人なのだろうか。
部屋の奥を見ようと目を凝らしていると、タリエシンが何かの魔法を唱え出した。
私は咄嗟に身構えたが、クロは何でもなさそうにしている。
(危険なものじゃないのね)
クロの様子を見て私は警戒を解き、ただ黙って様子を伺った。
魔法が唱え終われば、幾つもの光の玉が浮き上がり、部屋全体を仄かに照らしている。
ホタルの光のようで、とても幻想的だった。
その光が、ぼんやりとタリエシンというダークエルフの姿を浮かび上がらせた。
深い藍色のローブに小さな星がいくつも刺繍され、月を模した銀の首飾りをかけている怪しい雰囲気の老年の男性が、淡い光の玉を周りに宿して鎮座している。
「お前のところのダークエルフは、無礼な奴ばかりだな。首を噛みちぎってやりたいくらいだ」
物騒なことを言う割に、あまり怒っているようには感じられなかったが、タリエシンという人物もそう受け取ったようだった。
「すまぬなぁ。ダークエルフは元来、尊大な性格ゆえ。気を悪くさせてしまったな。そちらのお嬢さんも申し訳ない」
そう言って頭を下げるタリエシンに、私は正直面食らってしまった。
ダークエルフは人を見下し馬鹿にするような、クソみたいなやつばかりだと思っていたため、驚いたのだ。
「タリエシンさんみたいなダークエルフもいるのですね」
思わず本音がポロっと出てしまい、私は『ヤバっ!』と思って口を塞いだが、あとの祭りだ。
そんな私をいつもの呆れた顔で見るクロには、笑って誤魔化しておいた。
「はっはっは。ダークエルフとて、色々よ。まぁここの国のダークエルフは、凡そ性格が悪いのう」
(悪いのかよ!!)
思わず口にしてツッコみそうになるのをグッと堪えて、心の中だけに留める。
「して、メルケ。ここへは何をしに来たのかのう?私に会いに来たのではあるまい?」
タリエシンは、顎髭を撫でながらクロへ質問した。
「ミサキの子供を探している。黒目、黒髪の男の子二人だ。こちらで見てないか?」
「……黒目、黒髪の?見ておらんのう。この国ではそんな噂も聞かぬよ。ここにおれば目立ちすぎる」
首都に着くまでもなく、噂すら聞かないと言われてしまい、私の心は折れそうになった。
しかし、まだ分からない。
もしかしたら、首都と離れすぎていて、噂がまだ届いてないだけかもしれない。
「首都まで行って、情報を集めようと思っています」
私がタリエシンの目を真っ直ぐ見て言うと、タリエシンは私を見つめ返した。
その瞬間、彼の細められた瞳が月のような光を帯び、まるで私を透かして奥の何かを見ているように目を見開いた。
「……ほぅ。これはこれは……。メルケ。お主、知っておったのか?」
目を見開いたまま、私をずっと見つめるタリエシンに薄気味悪さを感じ、クロに助けを求めようとクロを見るが、クロはどこ吹く風で私を助けようとはしてくれない。
「モウゼル様の加護か?守れと神託があった時点で、そうだろうとは思っていた」
「ほぉ……。お主、まだやっておったのか?わざわざ自分から苦労しに行くとは、お主も阿呆よのう」
「ほっとけ、ジジイ」
気の置けない仲なのだろう。
クロの表情を見れば分かる。
口は悪いが、どこか懐かしそうに、楽しく会話しているのが伝わってくる。
しかし、会話の内容は全く理解できず、私はただ二人の会話を聞いているだけだ。
「あの……。さっきから話がよく分からないのですが……」
私が堪らず手を挙げて質問すると、クロもタリエシンもこちらを見て黙ってしまった。
「あの……?」
再度話しかけると、クロがため息をついてタリエシンに話せと言うように顎でしゃくって合図した。
「お主が話せばよかろうに。全く。昔から面倒なことは私にさせおってからに」
タリエシンはブツブツ文句を言いながら私の方を見た。
「お主、ミサキといったかのう。お主には愛の女神モウゼル様の加護がついておる」
「モ、モウゼル……様。ですか?愛の女神様の加護とはどのような効果があるのでしょうか?」
火の神や水の神ならまだしも、愛の神の加護なんて何に使えるのかと私は眉をひそめた。
「モウゼル様の加護は“皆から愛される効果”がある!」
「…………は?」
「加護持ちなんて、そうおらんのじゃぞ!有難いことなのだ。感謝し、日々祈りを捧げると良い」
「…………は?」
思わず、間抜けな声が出た。二度も。
もっとこう……火を吹くとか、空を飛ぶとか、危険を察知するとか、冒険に役立つ実用的な魔法効果を期待していたのだ。
(皆から愛される……? なによそれ、アイドルにでもなれってこと!?)
予想の斜め上を行くクソみたいな効果に、私は怒りを覚えるのを通り越して、心底呆れ返ってしまった。




