表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は愛を知らない 〜異世界に飛ばされた主婦が、それでも子供を探し続けた記録〜  作者: 忠犬
探すために、進む

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/40

第十三話 あたたかい夜


「……街の周りは、やっぱり競争率が高いわね」


しゃがみ込みながら、小さく呟く。

足元の薬草は、葉が欠けていたり茎が傷んでいたりするものばかりだ。

踏み荒らされた跡も目立つ。


「そりゃそうか」


子供の小遣い稼ぎや、お年寄りの日銭稼ぎ。

誰にでもできる仕事だからこそ、皆がやる。

そして――仕事が雑になる。


「まぁ、だからこそ、ね」


私は状態の良いものだけを選び、根を傷めないように丁寧にナイフを入れる。

村で叩き込まれたやり方だ。

雑に引き抜けば次は生えないし、傷つければ価値は落ちる。


「……ちゃんと意味があったのよね、ハッサン」


厳しい指導を思い出して、ふと口角が上がる。


「クロ、こっち」


声をかけると、少し離れた場所で匂いを嗅いでいたクロが顔を上げた。

ゆっくりと歩み寄り、くるりと一度回る。


「あるの?」


尻尾が揺れる。どうやら当たりらしい。

案内された先は、少し開けた斜面だった。


「……おお、すごい」


思わず声が出た。

薬草がまとまって自生している。

人が入っていない場所はこれほど違うのか。

私は腰を据え、一つ一つ丁寧に採取していく。


「……あ、これもあったわね。ポポの葉」


独特の形をしたそれは、数が少ない。

何に使うかは知らないが、高く売れることだけは知っている。

ハッサンはこういう「実益」に直結することをしっかり教えてくれた。

村を出る前に何枚か確保しておいたのは、正解だったかもしれない。

ポシェットがパンパンになってきた。


「破けないでよ……?」


ハッサンから貰った大切な道具だ。

軽く叩いて強度を確かめていると、突然クロがぴたりと動きを止めた。


「……どうしたの?」


耳を澄ます。

ぬるり、とした不快な這行音。

振り向くと、半透明の塊――スライムがゆっくりと近づいてきていた。

そしてその向こうに、腰を抜かして動けなくなっている二人の子供の姿が見えた。


「っ、危ない!!」


考えるより先に、体が動いていた。


「動かないで!!」

子供たちに叫びながら、地面を蹴る。

一気に距離を詰め、スライムの体内に腕を突き出した。

ぬるりとした感触。その奥にある硬い手応え。


「――そこっ!」


迷わず、核を握りつぶした。

ぐしゃり、と嫌な音がして、スライムがその場で自壊する。


「……ふぅ」

息を吐き、振り返る。


「大丈夫? 怪我はない?」


子供たちは涙を溜めながら、こくこくと首を縦に振った。


「よかった……。もう、こんなところまで来ちゃダメよ」


少し強めに言うと、びくっと肩を揺らして

「ごめんなさい……」

と小さな声が返ってきた。

このまま帰すわけにはいかず、町まで送ることにした。

道中、飛びかかってきた一角ウサギを「はっ!」と一撃で沈める私を見て、後ろから「すごい……」と尊敬の眼差しが刺さる。


「まぁ、伊達に長年、主婦やってないからね」


よくわからない自慢をしながら、町へと戻った。

ギルドへ向かい、採取した薬草とウサギを差し出す。


「……これは、質が良いですね。適切に採取されています」


受付の女性が、少しだけ目を細めて感心したように言った。


「買取額、上乗せしておきますね」


提示された金額は、想像を遥かに超えていた。

ポポの葉もしっかり値がつき、財布にずっしりと重みが戻る。


「助かります」


素直に頭を下げてギルドを出たが、空はすでに茜色に染まっていた。

宿を探したが、一軒目、二軒目と立て続けに満室。


「……詰んだかしら。町の中で野宿……外よりはマシよね」


そう覚悟したときだった。


「あ! いた! あの人だよ!」


聞き覚えのある声。

振り返ると、さっき助けた子供たちと、その両親らしき大人が駆けてくるところだった。

事情を聞いた母親は、私の手をぎゅっと握りしめた。


「本当に、ありがとうございました……! お礼に今夜はうちに泊まってって!」

「いえ、そんな……」

「いいから! 命の恩人なんだから! そっちの大きな猫ちゃんも一緒に!」


押し切られた。

お母さんの「ぐいぐい来る感じ」は、どの世界でも共通らしい。

案内された家は、驚くほど温かかった。


「さぁ、食べて! お口に合うかわからないけど」


食卓に並ぶ湯気の立つ料理。

子供たちの笑い声。


「今日ね、この人がね、スライムをぐしゃーって!」

「やめなさいってば」

苦笑しながらスプーンを持つ。

けれど、ふとした瞬間に胸の奥が痛んだ。


(あまね)(わたる)……今頃、どこにいるの? ちゃんとご飯、食べてる?)


手が止まる。

すると、足元でご飯を食べていたクロが、顔をあげて鼻先で私の腕をツンと突ついた。


「……どうしたの?」


母親が心配そうに覗き込む。


「……いえ、なんでもないわ。美味しいです、本当に」


私は精一杯の笑顔で答えた。

その夜、用意された寝床に横になる。

クロが「今日は一緒に寝てやる」と言わんばかりに、狭い寝床に割り込んできた。


「狭いわよ、クロ。……でも、ありがとね」


伝わってくる体温が心地いい。

明日は、もっと稼いで、情報も集めなきゃ。

温かい夜。でも、ここは私の帰る場所じゃない。


「待ってなさいよ、(あまね)(わたる)

小さな呟きは、クロの寝息にかき消された。

私は明日への活力を蓄えるように、深く、重い眠りに落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ