第百二十五話 唯一、ギルドがない国へ
無事?式典を終えた私達は、それぞれ自分達の任務や目的に戻っていった。
ジャンは一足先にヴァルグリムへ戻った。
帰りも龍往路の使用許可が出た上、騎士団の見回りに同行させて貰えることになり、騎獣に乗ってあっという間に国境線まで辿り着いたとダニエルを通して話を聞いた。
ダニエルは毎日バルドガルドの復興のために尽力している。
元々、ヴァルグリムの潜入でも人当たりの良さを買われて宿の主人として仕事をしていたそうなので、バルドガルドでも既に溶け込んでいた。
私は、ヴァルグリムの孤児達へ手紙をしたため、ジャンが帰るときに渡すようお願いしておいた。
あそこへ戻れば、きっとそのまま居着いてしまう。
そんな気がして、帰るのを躊躇った。
薄情な奴だと嫌われるだろうかと思ったが、生活していけるだけの基盤は整えたつもりだ。
あとは年長者組に任せても大丈夫だろう。
そう自分に言い聞かせ、私は情報収集に勤しんだ。
とは言っても、黒目、黒髪の子供の情報はまるで無く、どこから探せば良いか全く見当がつかなかった。
とりあえず、バルドガルド王国の王都にある冒険者ギルドに行ってみたが、成果なしだ。
ただ、ヴェンデリンさんから、今回の潜入捜査と使節団での働きとして報酬が支払われていた。
その金額、なんと金貨50枚——。
追加の特別報酬が金貨30枚追加されたらしい。
目ん玉が飛び出るかと思った。
しかし、あの極限状態と、死ぬかもしれなかったことを考えると、これは高いか安いか全く分からなかった。
あと、嬉しい誤算だったのはC級冒険者への昇格だ。
バルドガルド王国への貢献が認められ、ヴェンデリンさんが手続きしてくれていたらしい。
新しいギルドカードと金貨50枚を震える手で受け取り、ギルドを後にする。
(ってか、私の格好とこの大金って危なくない?野盗に襲われるんじゃあ……)
そんなことを考えていたら、ふとバルドガルド王達の言葉が頭を過ぎった。
『街で売られてるのを見かけたら、首が飛ぶと思え』
「ひぃ……っ!」
思わず変な声が漏れ出て、私はクロを見て「私を守ってね……」と涙を浮かべて懇願したが、クロはため息をついて何処かへ行ってしまった。
「お、置いてかないでよっ!」
私はクロに向かって叫びながら後を追ったが、最終的に影渡されて完全に置いていかれたのだった。
クロに置いていかれた寂しい私は、仕方なくバルドガルド王の執務室を訪れていた。
「バルドガルド王、お忙しい時にすみません。実は相談がありまして…」
執務机に向かって何かをしたためていたバルドガルド王は、羽根ペンを置いて顔を上げた。
「なぁに、気にするな。我らの間に遠慮は無用だ。して、『救国の聖女様』は何の相談をしに来たのだ?」
ニヤリといつもの悪戯っ子のような笑みを浮かべて、残った手で頬杖をつきながら聞いてくる。
「……子供の情報を集めていますが、全く成果が得られず、次の旅の目的地を決めきれずにいます。国の情勢にも疎いので、教えていただければと」
私はバルドガルド王のからかうような口調に、一呼吸置いて頭を冷やしてから丁寧にお願いした。
「成る程な…」
バルドガルド王はそう言って椅子の背に身体を預け、天井を見ては何かを考えこんでいた。
その様子を見て、私は黙って返事を待つ。
「ヘルムフリート、地図をここに」
「はっ!」
バルドガルド王が指示を出すと、ヘルムフリートさんは書棚の中から巻物を一つ取り出し、執務机に丁寧に広げた。
「これは、西大陸の地図ですか?」
「そうだ。古龍封印の作戦会議のときに見せたような立体地図は、魔石の消費が激しいのでな。大がかりな作戦のときにしか使わんのだ」
「ここが今いるバルドガルド王国の首都、ドラッヘンベルクです」
ヘルムフリートさんが指をさして教えてくれる。
(ドラッヘンベルク……。首都の名前なんて聞いてなかったわね)
ジャンが言ってたかもしれないが、緊急時だったためどっちにしろ聞き流していただろう。
頭に残っていなかったのは仕方がない。
そう、私の頭が悪いせいじゃない。
「ミサキ殿?聞いていますか?」
「ひゃい?!」
不意に声を掛けられたせいか、責任転嫁に忙しかったせいか、変な声で返事をした私を、二人は笑いながら許してくれた。
「前も話した通り、バルドガルド王国は龍背山脈にあり、バルドガルド王国の上にはノクス=ヴェリアがある。ノクス=ヴェリアの連中はダークエルフという種族柄、他の種族との交流を嫌う。保守的で排他的な連中だ」
「おまけに攻撃的ですので、会ったら逃げたほうが良いですよ。数に任せて潰しにきます」
「えぇ……」
(何、その恐ろしい集団は。野盗の方がまだマシじゃない……)
「出来れば会いたくないですね……」
「そうだな。しかし、こいつらは保守的で排他的であるが故に、この世で唯一、ギルドを置いていない国だ」
「ギルドを置いていない……?それってつまり……!」
私は思わず目を見開いて、バルドガルド王を見つめた。
「ギルドの目が唯一届かない場所だ。もしかしたら、いるかもしれん」
その言葉に、僅かながらの希望が見えた。
もしかしたら、今度こそ、見つけてあげられるかもしれない。
絶望を味わった後なだけに、嬉しさは何倍も大きくなって、喜びが全身から溢れそうだった。
「ノクス=ヴェリアには、いま親書をしたためていたところだ。二通書いたから、一通はミサキが持っていけ。一通はこちらからノクス=ヴェリアに送る」
「ありがとうございます!」
既に私がノクス=ヴェリアに向かうことを想定して準備していてくれたことに感動し、視界が滲む。
「……あれ?でも、何で二通?親書を送るなら、私が持っていく必要は……。身元保証ですか?」
「それもある。一番の問題は、首都に着くまでに遭遇するであろうノクス=ヴェリアに点在している民だからな。出会わないのが一番だが、会った場合はこれを見せろ」
そう言ってバルドガルド王は、先程書いていた書類に封蝋を施して、私に渡してきた。
「無差別に攻撃してくるわけじゃあるまいし、他の種族を見かけた程度で…………えっ?」
言い終わらない内に、私はバルドガルド王とヘルムフリートさんの顔を見て悟ってしまった。
「まさか……攻撃してくるんですか?」
「言っただろう。排他的で攻撃的だと。あやつらは群れない。協定を結ぶのも100余年とかかって、ようやくだ。かなり苦労したんだぞ……」
深いため息をつき、肩を落とすバルドガルド王を見て、いかにノクス=ヴェリアのダークエルフ達が一筋縄ではいかない種族か分かった気がした。




