表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第四章 バルドガルド王国派遣編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/129

第百二十三話 強くあれ、我が子らよ

「ドワーフの紋章入りの装備品は、そう多くない。国を挙げて作られた物は、王に献上されるのが普通だからだ。ましてや他国の、しかも、ただの使節団ごときが貰える代物じゃない。この装備だけで一生遊んで暮らせるぞ」

 そんな悪魔の囁きを、顔面蒼白で冷や汗をかきながら説明するジャンに、ダニエルもまた顔色を悪くしていた。

「返すなんてことは……」

「そんな失礼なことできるわけないだろっ!!蔵でも作って厳重に保管しろ!」

 ヘルムフリートさん達が出ていった控室では、そんなやり取りが行われていた。

「冒険者辞めてから、こんな上等なもの貰うとはなぁ……」

 勿体ないと言いながらも、やはりどこか嬉しそうにしているダニエルに、私は首をひねった。

「ダニエルって、冒険者だったの?」

「今更かよ……。一応、B級冒険者まではいった。歳も取ったし、引退するか悩んでたときに、ギルマスから引き抜かれたのさ」

「へぇ……」

 意外な事実だったが、確かに一緒に戦ったときには、かなり動きが良かったなと思い納得した。

「ジャンも元冒険者だぞ。ギルド職員には元冒険者が多いんだ。暴れたりするやつもいるからな。制圧できないと困るだろ?」

「ああ……成る程ね」

 今までのギルドでの絡まれ方などを思い返せば、納得も納得だ。

 うんうん頷いていると、ドアをノックする音が部屋に響いた。

「失礼致します。式典のお時間が近づいて参りました。ご案内させて頂きます」

 見覚えのある近衛騎士の後に続くと、城のテラスへと案内された。

 テラスから下を覗き見れば、歓声が上がり、多くの人が手を振っているのが見える。

 その瞬間、目眩と動悸が襲ってきて、後ろによろめいてしまった。

 倒れる!と思った瞬間、クロが影から出てきて支えてくれた。

「おい!大丈夫か?!」

「顔が真っ青だぞ……」

 ダニエルとジャンが支えてくれて、どうにか立つことはできたが、足に力が入らず、動悸も止む気配がなかった。

「……てっきり出たくないから嘘ついてんだと思ってたよ。……悪い」

 ダニエルが私を支えながら、呟くように謝罪した。

 しかし、私はそれに答えることが出来ずに、吐き気と戦っている。

 ここでぶち撒けるわけにはいかない。

 すると私の後ろに控えていた医師と魔導士が椅子を持って現れた。

 医師が飲ませてくれたミントのような香りの水薬のお陰で、かなり気分が良くなったが、立つことはまだ無理そうだった。

「バルドガルド王が来られたときだけ立って、あとは座っておきましょう。顔色が悪いですよ」

 医師にそう諭され、私は情けないながらも一度椅子に深く腰掛けた。

 式典の最中は出来るだけ立っているつもりだったが、今は一秒でも長く体力を回復させなければならない。

 折角、バルドガルド王国が復興の希望を見出しているのに、水を差すようなことは出来ない。

「……クロ、近くにいてくれる?」

 吐き気と目眩のせいで俯き、目を閉じている私はクロに声を掛けた。

 クロは既に私の右横に控えていたらしく、右手にクロの尻尾がそっと触れたのが分かった。

「……ありがと」



 そんなやり取りをしていた私の後ろでは、ゆっくりとバルコニーの扉が開く。

 傷の癒えぬ身体を近衛騎士に支えられながら、バルドガルド王が姿を現した。

 私は足に力を込め、ゆっくりと立ち上がる。

 クロの尻尾を右手で優しく掴み、意識のすべてをその温もりに集中させた。

 

 王城前広場を埋め尽くした群衆は、バルドガルド王に気づくと一斉にざわめきを止め、民は静かに頭を垂れた。

 バルドガルド王は民を静かに見渡し、ゆっくりと口を開いた。

「……皆、よく生き延びてくれた」

 その一言に、広場は静まり返る。

「このたびの災厄により、多くの命が失われた。家族を失った者、友を失った者、住まいを失った者も少なくあるまい。まずは、犠牲となった者たちへ哀悼の意を捧げたい」

 王は胸に手を当て、静かに頭を垂れた。

 広場に集まった者たちも、それに倣って黙祷を捧げる。

 しばしの静寂の後、王は再び顔を上げた。

「古龍は再び封印された。よって、本日をもって非常事態の終結を宣言する。ただし、坑道には未だ崩落箇所も多く残っている。復旧作業は今後も継続し、諸君には引き続き協力を願いたい」

王は一度言葉を切り、力強く続ける。

「王として、儂は国を守ろうと最善を尽くしたつもりだ。しかし、この災厄で痛感した。国を守るのは、王一人ではない」

 バルドガルド王は、民一人ひとりへゆっくりと視線を向ける。

「騎士は命を懸けて剣を振るい、職人は崩れた坑道を支え、治癒師は眠ることなく傷を癒やし、民は互いに手を取り合い、生き抜いた」

「そして――。遠くフリージア王国より訪れた使節団は、我らの危機に背を向けることなく、最後まで共に戦い、多くの命を救ってくれた」

 バルドガルド王は、私達をバルコニーの前に来るように手で促す。

 激しい動悸に耐えながら、私はクロの尻尾を握る手に力を込める。

「余は、バルドガルド王国を代表し、ここに深く感謝を申し上げる」

 バルドガルド王は私達の方へ向き直ると、深く一礼した。

「失った命は戻らない。傷跡も、すぐには癒えぬだろう。それでも、我らは歩みを止めない。亡き者たちが命を懸けて守ったこの国を、さらに強く、さらに豊かな国へと築き上げることを、ここに誓う」

王は右拳を胸に当てる。

「共に歩もう。バルドガルドの民よ。我が子らよ。強くあれ!」

 バルドガルド王が言葉を終えると、広場を埋め尽くす民から地鳴りのような歓呼が沸き起こった。

「バルドガルド王、万歳!」の声が幾重にも重なり、城を揺るがした。



「これより、バルドガルド王国に多大なる功績を残したフリージア王国使節団への表彰式を執り行う」

 そうバルドガルド王の言葉が紡がれると、群衆の声は小さくなっていった。

 バルコニーから見える多くの人が私達を見ている。

 そう思うと、血の気が引き、目の前が真っ暗になりそうになるのを、必死に耐えた。

 クロはその気配を感じ取ったのか、私の足にピッタリとくっついて意識を反らしてくれている。


「フリージア使節団への感謝を表し、三名には我がバルドガルド王国秘蔵の武具一式の進呈を行う。特に聖女ミサキに関しては、我が弟ローガーを救ってくれた恩もある。従って、カルドラン・フォン・バルドガルドの名において、ミサキに『救国の聖女』の称号を授ける。あわせて、そなたを我がバルドガルド王国の盟友として迎えよう」

 そう言ってバルドガルド王は、手招きして私を傍に呼んだ。

 クロにだけ意識を集中させて、ゆっくり、確実に歩き、バルドガルド王の元へ辿り着くと、私はどうにか群衆へ向き直り、手を挙げて挨拶した。

 このときの私の顔色は土色で、笑顔も引きつっていたと後からダニエル達から聞いた。

 私はあまりの気持ち悪さから『どうでもいいから、早く終わってくれ』としか考えきれなくなっていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ