第百二十二話 聖女という名の着せ替え人形
「私には無理です!プロパガンダなら、ジャンやダニエルで良いじゃないですか!!」
私は必死にやりたくないと抗議したが、バルドガルド王はチラリとジャンとダニエルを見た後、私を見て言った。
「……やはり見た目は大事だろうと思ってな」
ボソリと呟いた声が静かな会議室に響いた。
ジャンやダニエルは乾いた笑いをして、お互いの顔を見ている。
「カルドラン様、失礼ですよ」
ヘルムフリートさんが嗜めるが、バルドガルド王は続ける。
「もちろん、国民には三人とも紹介する!しかし、聖女として血縁者から話を聞いている者も相当数いるのは事実。ならばプロパガンダとして最適なのは、自ずと答えが出よう」
ヴァルグリムでの自分の行いが悪かったのか、はたまたドワーフ達の暴走のせいか、またしても変な方向に話がいっている。
ドワーフに付き合うと碌なことがない。
ドワーフとは今後、距離を置いたほうが良さそうだ。
そんな考えまで浮かんできたが、今は一旦保留だ。
そもそも、ここまでの付き合いをしておいて、今更距離を置くというのも、もう無理な話だとため息を吐いた。
「……分かりました。やります。……式典も、出ます」
バルドガルド王はその言葉を聞いて、うんうんと嬉しそうに頷いているが、それより喜んでいるのがローガーだ。
こいつ、意味分かって喜んでるのか?と、ツッコみたくなるが、もうその気力すらない。
「では、今後の予定を……」
その後はヘルムフリートさんから式典の日時や進行等の説明があり、解散となった。
プロパガンダに決定された魂の抜けた私は、会議室からフラフラ出ようとしたところをヘルムフリートさんに声を掛けられた。
「ミサキ殿!大丈夫ですか?」
「へ?えぇ……、まぁ……。たぶん?」
頭が回っておらず、歯切れの悪い返答をしてしまっても、ヘルムフリートさんは嫌な顔一つしなかった。
「大変な役目を押し付けてしまって、申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。それより、ヘルムフリートさんの足は大丈夫ですか?」
曲がってはいけない方向に折れ曲がっていた足は、しっかり真っ直ぐになって普通に歩いている。
「ええ、魔導士達が頑張ってくれました。ハイポーションもかなり使ってしまいましたが……」
何でも骨を治すのはかなり痛むらしい。
折ったときのほうが痛くないと言っていたから、よほどだと思う。
骨だけは折らないようにしようと心に決めた日だった。
それから3日間は採掘区の基礎工事に集中した。
職人達が手際よく進めてくれていて、石の灯籠はほぼ完成している。
しかし、職人達の矜持が刺激されたのか、古龍が剥き出しになっているのは駄目だと言い出し、祭殿を作ろうと言い出す者や、祭壇のようにして高さを出そうと主張する者が現れ、話し合いが難航している。
私としては、封印さえしっかりされていれば後のことはどうでも良いので、勝手にやってほしい。
職人達の口喧嘩のような話し合いを見て、私はため息を吐いた。
ふと手元が光った気がして見てみると、丁度、魔導伝令が届いたところだった。
「お前は!どこほっつき歩いてんだっ!!十分以内に城に来い!!!間に合わなかった殺す!」
返事も待たずに切れたダニエルからの魔導伝令に「ヤバ……。いま何時?」と独り言を呟きながら城までダッシュする。
今日はバルドガルド王が追悼式をすると言っていた日だ。
フリージア使節団の紹介をすると言っていた日でもあるため、遅刻するのは非常にまずい。
ダニエルが既にブチギレているので、お説教は確実だ。
ヒィヒィ言いながら全力疾走して、城に着いた頃には土埃と汗で、非常に汚らしい格好になっていた。
私の姿を見るなりダニエルは烈火の如く怒り、ジャンは呆れて天を仰いだ。
「まぁまぁ、お二人とも。そのために早く来ていただいたようなものですから」
ヘルムフリートさんは二人に落ち着くよう諭し、メイドさん達を呼んだ。
「ミサキ殿を浴室へ案内して、用意していた服に着替えをさせてくれ」
「畏まりました」
私はメイドさん達に案内されるまま、浴室へ連れて行かれ、頭の先から爪先まで綺麗に洗われた。
久しぶりのお風呂に感激したのは言うまでもない。
そして用意された服に着替え、先程の控室へ戻ると、ダニエルとジャンは目を見開いて口は半開きのまま固まっていた。
「お前……その格好……。男みたいだな」
「うるさい!ほっといてよ」
私を指差して間抜け顔をしているダニエルに、私は鼻にシワを寄せながら吠える。
今の私の姿は、ボロボロの麻布服ではなく、細かな刺繍の入ったしなやかで頑丈な革の鎧に、小ぶりだが美しい胸当て、さらに上品な白いファーが付いた深緑のロングコートまで着せられている。
どれもかなりの高品質な品だと、すぐに分かるようなものばかりだ。
「一流の冒険者に見えるな……。D級には見えん」
ジャンも驚いた様子で上から下まで私を見る。
「我が城のメイド達が、是非とも選ばせてくれと言って聞かなかったものですから。勿論、品質は一級品ですよ」
ヘルムフリートさんが笑って言うと、後ろに控えていたメイドさん達はとても嬉しそうにニコニコして、そしてどこか誇らしそうにも見えた。
「聖女様としての格式も保ちつつ、動きやすさを重視した冒険者風の仕立てにいたしました!」と息を荒くして私に着せていたメイドたちのドヤ顔を思い出した。
「ですが、これは頂けません!こんな高価なもの……。グローブも頂いたのに」
私がそう言うと、ヘルムフリートさんは真剣な顔つきになり、私達を見回してから言葉を紡いだ。
「……貴方がたには、本当に感謝しています。下手をすれば、我らはカルドラン様を失っていたかもしれません」
うつむき、口をきつく結んだ後、ヘルムフリートさんは顔を上げた。
「御三方の装備一式は、その感謝の印です。是非とも受け取って頂きたい」
見ればダニエルもジャンも、かなり良い装備品に身を包んでいた。
「勿論!ドワーフの特注品ですから、売りに出されているのを見つけたときには、首を跳ねますよ」
そう言ってニコリと笑うヘルムフリートさんは、いつか見た、あの黒いオーラを纏っているようだった。




