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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第四章 バルドガルド王国派遣編

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第百二十話 癒えない傷跡

 ダニエルとジャンに頭を後ろから押さえつけられ、地面にゴリゴリと擦り付けられたせいで、額からは血が少し滲んでいた。

 酷いとは思うが、一国の王に頭からハイポーションをぶっかけるという愚行を働いたのだから、まぁ仕方ないだろうと思っている。

 私も精神的にかなり不安定になって、後先考える余裕なんてこれっぽっちも残っていなかった。

 今も気を緩めれば涙が出てきそうなのを、ぐっと堪えている。

 

 研究員と魔導士達により、術式の構築が急がれる中、私達は出来る限り生存者を見つけ出し、手当てをしていた。

 動いている方が色々考えなくて済むため、私はただただ作業に没頭した。

 クロは常に私の傍で見守り、様子を伺っているのが分かる。

 何だかんだとクロも心配性だなと苦笑いが出た。

 そんな時、研究員と魔導士の声が採掘区に響く。


「こちらは終わった!!術式展開は可能か?!」

「問題ない!祭壇跡地から持ってきた四属性の魔石と魔法陣を配置して起動してくれ!」

 古龍を中心に複雑な模様が掘られ、それを囲うようにして四方に羊皮紙に描かれた魔法陣を置き、その上に四属性の魔石をそれぞれ配置していく。

 最後の一つを置いたとき、魔石がそれぞれの色に輝き出し、羊皮紙に描かれた魔法陣で光が増幅されていく。

 光はどんどん輝きを増し、やがて古龍の周りに掘られた模様に振り注ぎ、模様そのものが虹色に輝き出した。

「綺麗……」

 思わず口に出たが、私は不謹慎だったと思い、慌てて口を噤んだ。

 しかし、周りを見渡せば神々しさまで感じる光景に、皆が手を留めて見入っていた。


 古龍は気力尽きたのか、あるいは諦めたのか。

 ぐったりと荒い呼吸を繰り返すだけで、もうほとんど動かない。

 その巨体を取り囲むように、岩盤に彫られた模様が、眩い光の輪となって浮かび上がった。

 研究員はバルドガルド王の千切れた腕を大切そうに布で包み、躊躇いがちに光の輪の中へ放り投げた。

 光に包まれた腕は、一瞬で光の鎖となって四方八方へ飛び散り、古龍の身体に這うように纏わりついていく。

 古龍は痛みを感じたのか、最後の力を振り絞って暴れ出したが、光の鎖がそれを許さず地に伏した。

「終わった……か?」

 誰が言ったか分からないが、その言葉を皮切りに古龍の身体が凍りつくように、パキパキと音を立てて固まり始めた。

 全て固まると光は落ち着き、仄かに光る程度に辺りを照らしている。


「封印……完了です!!」

 研究員が叫ぶと、その場の全員が雄叫びを上げ、歓喜の波に沸いた。

「やった!!封印できましたよ!バルドガルド王!見てましたか?!」

 バルドガルド王を支えていた近衛騎士が、王の顔を覗き込むと、王は虫の息で目を閉じていた。

「バルドガルド王……?バルドガルド王!!しっかり!」

「早くバルドガルド王を城へ運ぶぞ!!先導しろ!残った者達は救助と怪我人の手当てを!我らは先に帰還する!」

 バルドガルド王は丁寧に簡易担架に乗せられ、城へ戻っていった。

「大丈夫かしら……」

 心配しても結果は変わらないだろうが、祈らずにはいられなかった。

 神様がいるのなら。

 私を異世界(ここ)に連れてきた無慈悲な神様じゃなくて、優しい神様がいるのなら。

 どうか助けてあげてほしい。

 怪我した人も、生き埋めになった人も。

 お願いだから助けてほしい。

 もう、苦しむ人は、見たくない。


 爪が掌に食い込むほど強く握り、バルドガルド王を見送った。



 それから数日は、バルドガルド王国の復興に尽力した。

 王城のある首都カルドゥムは、古龍のブレスによって壊滅的な損傷を受けている箇所が幾つもあり、人が生活できるように整えるだけでも、かなりの時間が必要だった。

 そんな中、避難していた人たちも徐々に戻り、一緒に作業をしていく内に仲良くなっていく。

「よぉミサキ!今日はどこの作業に行くんだ?」

 通りすがりのドワーフの中年男性が、手を挙げて挨拶をしてきた。

 よく見れば、避難誘導のとき第三坑道でルブロンスパイダーの消化液を被った私に、中和剤をぶちまけてくれた人だった。

「今日は新たな封印の地を護るための、結界用の灯籠を建てる手伝いよ」

「あぁ〜。新しく建てるって言ってたやつか」

「そう。羊皮紙じゃ劣化するから、石工に頼んで何世紀も封印できるように、魔法陣を刻んだ石の灯籠を建てるんですって」

「そうか……。あんなのは二度と御免だからな」

「……そうね」

 二人して俯き、言葉を紡ぐことが出来ずにいると、奥さんと思わしき女性ドワーフが声をかけてきた。

「あら!ミサキじゃない!!これから仕事?コレ持ってきなよ」

 手にはポムの実が二つ握られていた。

「え……でも、悪いわ」

 受け取れないと手を振って断るが、奥さんの押しは強かった。

「なぁに言ってんの!あんたは命の恩人なんだから、遠慮したらダメよ!!一個はクロちゃんにあげてね」

 ほぼ無理やり押し付けられた形でポムの実を受け取り、礼を言って作業場へ向かった。

 クロはと言えば、今日は一緒にはいない。

 親達は復興で忙しく、子供達の面倒をあまり見れない。

 目を離した隙にいなくなったりすることが増えたため、託児所のような施設を急遽設置したのだが、子供達が怖がって泣いてしまった。

 古龍の件で親を亡くした子も多く、精神的にも不安定になっているのだ。

 クロはそんな子供達のところへ自主的に通い、ベビーシッターというか、カウンセラーをしている。

 今では子供達の笑顔も増えてきているようだ。

 

「聖女様!早いな、もう来たのか?」

「ローガーのほうが早いじゃない。ちゃんと休んでるの?」

 私は呆れてため息をつきながら作業を始める。

「俺は頑丈さだけが取り柄だからよ。こんくらい、どうってことねぇ」

 ニカっと屈託なく笑うローガーは、どこか無理をしているように見えた。

 私と同じで、動いている方が何も考えないで済むのだろう。

 夜は遅くまで働き、朝は誰よりも早く来て作業をしている様だった。

「……あまり根を詰めると身体を壊すわ。ゴルムさんだって怒るはずよ」

 作業の手を止めることなく、ローガーへ話しかけると、ローガーは困ったように笑って言った。

「そうだな……。……そうだと思う、が。何かしてねぇと、頭がおかしくなっちまいそうだ」

 ローガーは口をきつく結び、鼻の上には深くシワが刻まれていた。

「……そうね。私もよ」

 (わたる)のキーホルダーがあった。

 ここに来て唯一の繋がりがあったと思ったのに……。

 古龍に食べられてなかったことへ安堵したものの、キーホルダーが魔物だと分かったときの絶望感は、今でも私を蝕んでいる気がした。

 


 

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