第百十九話 死んだら、それで終わり
ミサキ達が古龍を捕らえようと必死に戦っている頃、第三中継砦では、王立古代魔法研究院の研究員達が必死に古文書を解読していた。
「おい!これを見てくれ」
研究員の一人が何かを発見し、古代ドワーフ文字を解読しながら、静かに読み上げた。
「“王の血は封印を開く鍵にして、封印を閉ざす最後の楔なり。血のみあれど、心なき者に封印は成らず”と記載がある」
「王家の血が必要……。やはり龍縛杭だけでは封印できないということか。」
別の研究員が、別冊の古文書を手に取り数ページ捲って手を留めた。
「こちらにも封印についての記載があります。“祭壇は石にあらず。封印は形にあらず。王が民を守らんと立つその地こそ、新たなる封印の地となる”と」
一瞬、部屋が静まり返った。
「……祭壇は石にあらず?」
「どういう意味だ……?」
「まさか……」
一人の研究員が目を見開く。
「祭壇そのものが封印ではない……?」
暫く考え込んだ後、ハッとした表情で一気に捲し立てた。
「……封印の本体は術式だ。だから祭壇が壊れても、術式を新たに構築すれば――っ!」
「新たな封印の地を築ける!」
全員が顔を見合わせ、息を呑んだ。
「必要なのは封印術式、龍縛杭、そして王家の血……。」
研究員達は一気に顔を輝かせた。
「すぐに陛下へ魔導伝令を。」
「再封印は可能。龍を拘束した地点に、新たな封印術式を展開できます。――そう伝えなさい」
「はっ!」
魔導伝令の光が走り、研究員は騎士を数名引き連れて、二手に分かれた。
一方は魔石の回収に。もう一方は術式の再構築をいち早く行うため、古龍の元へ急いだ。
——採掘区では、古龍を龍縛杭で縫い留めた後、怪我人の手当てや、落石によって生き埋めになった者たちの救出が急がれている。
私が呆けている後ろでは、第三中継砦に残り、古文書を解読していた研究員達からの魔導伝令が、バルドガルド王の元に入っていた。
「バルドガルド王!朗報です!!古龍封印の方法が判明しました!」
一縷の希望を見つけた研究員達の声は明るく弾んでいるが、魔導伝令から聞こえてくるバルドガルド王の声は途切れ途切れで、酷く辛そうなものだったのだろう。
異変を感じ取った研究員達は、何があったのか問いただしたが、バルドガルド王は明言せずに説明を促した。
「再封印は可能です。龍を拘束した地点に、新たな封印術式を展開できます!」
「……そうか。よく見つけてくれた」
「いまから私達もそちらへ向かい、術式の準備をします。魔石を回収しに行った者達が戻ってくる頃には準備が整うかと」
「よろしく頼む……」
通信が終わった後も、バルドガルド王は息も絶え絶えで、時折意識も朦朧としている様だった。
そこへ、騎士数名を引き連れて研究員達が戻ってきた。
バルドガルド王の様子を見て驚いたものの、直ぐ様、術式の再構築のために動き出した。
「魔導士は、私達が書いた模様を地面の岩盤に彫ってくれ!!」
そう言って研究員達は、古龍の周りに複雑な模様を次々に書きなぐる。
そうこうしている内に、魔石回収組の研究員達が戻ってきた。
「バルドガルド王!これは一体……」
「なぁに……この程度、かすり傷だ」
ニヤリと笑って茶化すバルドガルド王の顔色は悪く、誰もが王の最期を感じ取っていた。
「これを……最後のハイポーションです。気休めかもしれませんが、お使いください」
研究員は差し出したが、バルドガルド王はそれを拒んだ。
「まだ何があるか分からない以上、無駄遣いをするな。この程度、どうということはない……」
そう言って強がるバルドガルド王は、優しく笑いかけた。
その顔に、私は研究員が差し出していたハイポーションを奪い取って、バルドガルド王の顔にぶっかけた。
「なっ……!!」
「この!!無礼者!」
「おまっ!!!何やってんだ?!」
あらゆる方向から罵声を浴び、叱りつけられたが、私はそんなもの知ったことかと仁王立ちして叫んだ。
「うるさいわね!!死んでほしくないなら、いま出来る最善をやりなさいよっ!ハイポーション一本で傷が少しでも塞がるなら良いじゃない!!血が少しでも止まれば、少しでも楽になるなら、それで良いじゃないっ!!」
一気に捲し立てると、唇は震え、涙が溢れてきた。
「…………死んだら、それで終わりなのよ」
震える声でどうにか紡いだ言葉は、静かな採掘区に妙に大きく響いた気がした。
「聖女様、ありがとうよ。叔父貴達は昔から頑固で俺の言うことなんて聞いちゃくれねぇから、助かった」
後ろから声をかけてきたのは、ローガーだった。
スキルの効果でまだ巨体を維持し、血と土埃で全身汚れているが、心配そうにバルドガルド王を見つめる目は、いつものローガーだ。
「私は別に……もう誰にも死んでほしくないだけよ」
目元を袖でぐしぐしと乱暴に拭き、ぶっきらぼうに言うと、誰かが急に私の頭を鷲掴みにして、地面に叩きつけた。
「いったぁ!」
「バルドガルド王!!大変失礼しましたっ!!申し訳ございません!とんだご無礼を!」
ダニエルとジャンが私の頭を鷲掴みにして、地面に押し付けながら、二人とも土下座をして謝罪をしていた。
「よい……。多少驚かされはしたが、お陰で楽になった。痛みが少し引いたよ。ミサキ、感謝する」
「次からは強がらないで、痛いって仰って下さいね」
頭を押さえられながらも、多少の憎まれ口を叩いたら、ダニエルとジャンが思いっきり私の頭を地面に叩きつけた。
「うがぁっ!」
「「お前は……黙ってろっ!!!」」
そのやり取りをする間に、私の心は少しばかり落ち着きを取り戻しつつあった。




