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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第四章 バルドガルド王国派遣編

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第百十八話 偽りの宝、子の行方


 ——返しなさいよ。

 私の子供達を。

 食べたんでしょう?

 今、お母さんが出してあげるからね。


 落ちていたバトルアックスを掴み、引きずりながら古龍の腹へ一歩、また一歩と近づく。

 古龍は龍縛杭(りゅうばくこう)によって完全に地面に縫い留められている上、ブレスを何度も吐いたことにより衰弱しているようだった。


 これなら、助けられるかも知れない。


 そう思い、私はバトルアックスを両手で持ち、思い切り振り上げた。

 しかし、それは振り下ろされることはなく、何者かによってバトルアックスを掴まれたかと思うと、そのまま後ろに放り投げられた。

「いった……」

 私も一緒に後ろに倒れ、何が起こったのかと周りを見渡せば、鬼の形相をしているダニエルが立っていた。

「お前は何をやっているんだ?!」

「あの中に子供達がいるのよ!!食べたのよ!それを返して!返しなさい!!」

 ダニエルからバトルアックスを取り返そうと、私は半狂乱になりながら掴みかかった。

「何言ってんだ?子供が食べられた?ドワーフの子供達なら避難しただろうが!」

「違うわよ!私の子よ!!助けてって言ってるのよ!」

 髪を振り乱しながら泣き叫び、仲間に掴みかかる姿は頭がイカれたと思われても仕方がない。

 でも、そんなことを気にする余裕なんてない。

 私はただ、我が子を助けたいだけだ。

「いい加減にしろ!一体どうしたんだ?!古龍を見てから変だぞ!!」

「古龍の足元に落ちてたのよ!!(わたる)のキーホルダーが!見間違えるはずないわ!!」

 ダニエルの襟首を掴んで叫ぶ私を、ジャンが止めに入って窘める。

「ミサキ!落ち着け!!キーホル……?ってのは、子供が持ってたものか?それが落ちてたからって、何で古龍に食べられたことになるんだ」

 ジャンに肩を掴まれ、私は固く握っていたダニエルの襟元を離し、よろよろと力なく一歩後ろに下がる。

「分からない……。けど、声がしたのよ。お母さんって言ったんだからっ!」

 私はそう言って古龍に向かって駆けた。

 バトルアックスがないなら、自分の拳で打ち破るしかないっ!!

 そう思って拳を振り上げたが、クロが急に目の前に現れ、私の攻撃から古龍を守るように立ちはだかった。

「クロ……。どいて」

 クロは、私の言ったことなど聞こえていないかのような澄まし顔をして、私を見つめ返すだけだった。

「どいてよ!そこにいるんだから!!早く出さないと溶けちゃうじゃない!!!」

 クロを押しのけようとしたとき、ジャンが私を呼び止めた。

「ミサキ!キーホルってこれのことか?さっき古龍の近くで拾ったんだ。見たことないものだったから……」

 土埃で薄汚れた、黄色いネズミのキーホルダーが、ジャンの手に摘み上げられ左右に揺れていた。

「それよ!(わたる)のキーホルダー!!」

 私は思わずジャンに駆け寄ってキーホルダーを受け取ると、涙が止まらなくなってしまった。

 

 やっぱりこっちに来てたのね。

 早く出してあげなきゃ。


 決意を新たに古龍の方へ向き直ると、クロが今度は私に向かって威嚇していた。

 今まで、私に対して威嚇なんてしたことがなかったのに、どうして……?

 私が愚かしい間違いをしたときでも、後ろから見守って支えてくれたクロが、何故か急に私に対して威嚇をしたことに、気持ちは更に沈み込んだ。

「クロ、どうし……」

 言いかけた瞬間、クロは私に襲いかかってきた。

『クロ?!!』

 ダニエルやジャンも、まさかクロが私に襲いかかるなんて予想していなかったのだろう。

 驚愕の表情を浮かべつつも、慌てて間に入ろうとするが、クロの速さに勝てるはずもなく、私の手にあった(わたる)のキーホルダーを口で奪い取り、少し離れたところに着地した。

「クロ!それを返してっ!!」

 私が叫ぶと、クロは咥えていたキーホルダーをペッと吐き出し、前足で踏みつけて破壊してしまった。

「なぁっ……!? あ、あああ……っ!!」

 バキリ、とプラスチックの砕ける音が、私の心臓を叩き割った。

 

 何をするの。

 どうして。

 返してよ。

 あの子の、あの子の形見なのに……!

 

 目の前が血の気で引いていく。

 クロへの怒りよりも、唯一の繋がりを失った絶望で、喉の奥から声にならない悲鳴が漏れた。

 クロの行動の意味が理解できず、途方に暮れていると、クロが破壊したキーホルダーの割れ目から、緑色の粘度の高そうな液体がドロリと出てきた。

「え……何それ」

 黄色いネズミのキーホルダーの中身が、あんな気味の悪い液体なわけがない。

「な、何だこりゃ……?」

 ダニエルは気味悪そうに覗き込んでいて、その隣ではジャンが顎に手を当てながら、何か考え込んでいた。

「もしかして……擬宝虫(ぎほうちゅう)か?」

 ジャンがクロに向かって尋ねると、クロは正解だと言わんばかりに尻尾を大きく一振した。

擬宝虫(ぎほうちゅう)?何それ……」

 私は訳が分からず尋ねると、ジャンは「落ち着いて聞け」と前置きしてから説明を始めた。

擬宝虫(ぎほうちゅう)っていうのは、一般的な金銀財宝に擬態するのではなく、対象の人物にとっての、宝に擬態する魔物だ。」

「つまり……どういうことだ?」

 ダニエルは意味が分からないとジャンに詳しい説明をするよう促す。

「あ〜つまりだな……。今回この擬宝虫(ぎほうちゅう)は、ミサキをターゲットに選んだんだ。ミサキにとっての宝物。今回は子供が持ってたコレに化けたってことだ。他の人間にはガラクタだが、ミサキにとっては宝だからな。必ず拾うだろ?拾ったところで少しずつ生気を吸って、最終的には殺すんだ」

「つまり……(わたる)(あまね)もここにはいなかった……?」

「その可能性が高い。そもそも坑道内は騎士団が巡回しているし、鉱夫も沢山働いている。その中に黒目、黒髪の人族の子供がいれば、すぐ目につく。目撃情報が一件もなかったんだから、まずここにはいなかったとみて良い」

 ジャンのその言葉を聞き、私はその場にへなへなと座り込んだ。


 ……勘違いだった?

 あの子達はここにいなかったの?

 良かった。食べられてなかった。


「おい、大丈夫か?」

 放心状態の私に、ダニエルが声をかけるが、私はその声に反応できないでいた。

 ジャンがダニエルの肩を叩き、「そっとしておいてやろう」と私の傍を離れていく足音が聞こえた。

 クロは私の横に来て座り込み、尻尾で背中を擦ってくれている。

 時折、私の頬に当たるクロの尻尾が私の意識をどうにか縫い留めていた。

 

 

 

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