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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第四章 バルドガルド王国派遣編

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百十六話 死を阻む怒号

「聖女様っ!!!」

 古龍が尻尾で薙ぎ払ったときに飛んできた岩が、聖女様に直撃した。

 龍縛杭(りゅうばくこう)と共に吹き飛んでいく聖女様の姿は、酷くゆっくり見えた。

 地面に叩きつけられ、転がっていく先ではルブロンスパイダーが鋏角(きょうかく)を見せつけるようにして待ち構えている。

「やめろぉぉぉぉ!!!」

 俺は叫ぶと同時にツルハシを渾身の力でルブロンスパイダーに投げつけた。

 ツルハシは回転しながらルブロンスパイダーに向かっていき、上手い具合に脳天に突き刺さる。

 ルブロンスパイダーはそのまま沈黙したが、他の魔物が寄ってきていた。

「くそっ!そこをどけぇぇぇ!!」

 俺の目の前にいるアースワームにタックルをして弾き飛ばし、聖女様の元に急ぐが、またしても魔物に阻まれ、思うように前に進めない。

 その時、クロが聖女様の影から、ぬっと出てきて、聖女様の上を跨ぐようにして佇んでいる。

 酷く怒っているのがすぐ分かるほどの威圧感だった。

 歯を剥き出しにし、鼻にシワを寄せて低く唸っている。

 それだけでも恐ろしいのに、身体全体から黒い(もや)が出ており、そこからは黒い火花のようなものがバチバチと音を立てて(ほと)ばしっていた。

 聖女様に近づく魔物は、直ぐ様黒い触手に絡め取られ、何故かそのまま息絶えていく。

 恐ろしくも頼もしい、神々しささえ感じる存在に、思わず息を呑んだ。

 クロがついてくれているなら、聖女様は安全だな。

 そう確信したとき、遠くから近衛騎士の声がした。


「バルドガルド王を守れ!!多重円陣!」

 振り返った俺が見たものは、多くのルブロンスパイダーに囲まれ、逃げ場を失ったバルドガルド王の姿だった。

 その姿を見た瞬間、俺は目の前が真っ赤になった。

「もう、誰も、殺させんぞっ!!」

 足に力を入れ、バルドガルド王の元へ一気に駆け出す。

 迫りくる魔物は弾き飛ばすか、殴り飛ばす。

 いま俺の手元に武器はない。

「うおぉぉぉぉぉっ!!!」

 叫びながら突進する俺に気づいたルブロンスパイダーは、ほとんどが俺の方に向かってきた。

「ローガー!無理をするなっ!!!」

 バルドガルド王の声がした気がするが、耳に膜が張られているような感覚がして、よく分からなかった。

 落ちていた大槌を拾い上げ、片手で振り回しルブロンスパイダーを殴り殺していく。

 魔導士達も加勢してくれているから出来ることだ。

 でなければ、子供の頃から出来損ないで、貧弱だと言われ続けてきた俺なんか、とっくに死んでいる。


「儂のことは良い!ローガーを援護せよっ!!」

 バルドガルド王もバトルアックスを抱えて戦闘に参加し、ルブロンスパイダーを打ち倒していくが、土魔法をほとんど使わないところを見ると、既に魔力が底をつきかけているのだと分かった。

「ローガー!!龍縛杭(りゅうばくこう)は何処だ?!」

 そう聞かれて少し頭が冷えた俺は、しまった!と思わず顔を(しか)めた。

「聖女様のところです!岩の直撃を食らって気絶しています!」

「何だと?!何処だ!」

 バルドガルド王に場所を顎で指し示し、ルブロンスパイダーの脚関節に大槌を叩きつける。

 聖女様の方を見たバルドガルド王は、目を見開き驚いた様子で口を開いた。

「……影豹(えいひょう)をあれほど使役できるとは思わなんだ」

 バルドガルド王はそう呟くと、すぐに戦闘モードに戻る。

龍縛杭(りゅうばくこう)の回収に行く!!このまま進め!」

 バルドガルド王の号令と共に、魔物の溢れた採掘区を一気に横断する。

 もう少しで辿り着くかと思われたとき、古龍が一際暴れだし、龍縛杭(りゅうばくこう)を引き千切らんばかりの勢いで身を捩った。


 尻尾で周囲を薙ぎ払い、咆哮を上げて周囲の空気を震わせる。

 その時、古龍の尻尾による一撃で、王を囲っていた重装兵が吹き飛び、陣形が崩れた。

「バルドガルド王!!」

 近衛騎士たちが前に出ようとするが、間に合わない。

 古龍は龍縛杭(りゅうばくこう)を地面から引き抜き、立ち上がる。

 そして、バルドガルド王に向かって前脚を振り下ろした。

 バルドガルド王はバトルアックスで防ごうとするが、そんなもので古龍の攻撃が防げるはずもなく、バトルアックスは粉々になり、バルドガルド王の右腕と共に吹き飛んでいった。

「バルドガルド王を守れ!!後退しろ!」

 ヨルゲン隊長が叫ぶが、英主が打ち倒されたという事実がドワーフ達の士気を一気に下げた。

 纏わりつく死の予感に、その場の多くの者が支配されようとしていたとき、俺は叫んだ。


「我らドワーフに栄光あれっ!!」

 俺は大槌を掲げ、バルドガルド王を守るように古龍の前に立ちはだかり、睨みつけた。

 古龍は龍縛杭(りゅうばくこう)を引き抜いたは良いものの、身体全体に絡みついた網は外せずに藻掻いている。

 俺は古龍に向かって走り、大槌を渾身の力を込めて前脚に叩き込む。

 古龍は一瞬、身じろぎはしたものの、傷一つ付いていない。

 それでも何度も叩きつけた。

 俺が時間を稼いで、バルドガルド王になんとか龍縛杭(りゅうばくこう)を打ってもらわなければならない。

 

 しかし、事態は悪化するばかりだった。


「魔導士!!誰でもいい!!バルドガルド王に回復魔法を!出血が止まらん!!」

「バルドガルド王!!お気を確かに!」

 近衛騎士達がバルドガルド王のフルメタルアーマーを部分的に外して、患部の確認をしているが、状態はあまり芳しくなさそうだった。

「無理です!魔力が残っている者がおりませんっ!」

「くそっ!ハイポーションも魔力回復ポーションもないのか!!?」

「手持ちは底をついています!第三中継砦まで戻ればどうにか!!」 

「……そこまで保つかどうか」

 傷口を押さえる近衛騎士は、苦々しげに呟いた。


「近衛騎士!!今すぐバルドガルド王を第三中継砦にお連れしろ!我らがここを押さえるっ!」

 ヨルゲン隊長が叫びながら弓を発射し、ローガーの援護をする。

 その後もヨルゲン隊長の指示が飛ぶが、士気の下がった騎士団の足は重い。

 

 ——もう駄目だ。


 そんな空気が立ち込め始めたとき、声が聞こえた。

「あんた達!!落ち込んでんじゃないわよっ!今そんなことしてる暇ないでしょ!やらなきゃ死ぬわよっ!!」

 俺はハッとして古龍から距離を取り、声のしたほうへ視線を向けた。

 そこには、頭から血を流しながらも龍縛杭(りゅうばくこう)を抱え、古龍に睨みをきかせながら怒りに身を震わせている聖女様がいた。 

 

 

 

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