第百七話 地獄の咆哮
「ローガーを援護しろっ!!絶対に死なすな!!!」
バルドガルド王は叫びながら指示を出し、自身も土魔法で援護しながらローガーを守っていた。
蜘蛛の海へと投げ出されたローガーは、鬼神の如き活躍をしている。
身体は一回りも二回りも大きくなり、人族の大男のような様相でツルハシを振り回しながら戦っている様は、おとぎ話に出てくる大英雄ドゥルガンを彷彿とさせた。
その姿を見た騎士達も“勝てるかもしれない”と思い始めるほどだ。
前線が崩壊しかけ、気持ちも崩れそうになったときに現れた英雄の姿に、その場の全員が鼓舞された。
「儂のスキルも型無しだな……」
バルドガルド王はそう呟くと、ふっと口が綻んだ。
「ゴルムよ、お前の死は無駄にせんぞ」
目をギラつかせ、歯を食いしばり、憎き蜘蛛の魔物を睨みつける。
「魔法陣の書き換えはまだか?!!」
ヘルムフリートが後方へ叫びながら聞くと「あと少しです!」と返答があった。
しかし、魔法陣を書き直したとして、祭壇跡地まで戻らなければならない。
ただでさえ状況は悪いというのに、魔物の発生源に近づくなど自殺行為だ。
どうすれば……
と考えているときに、ふとローガーがツルハシで崩した地面が、陥没しているのが目に入った。
「第三中継砦の真下は何だ?!」
後方の研究員へ叫び尋ねる。
「古文書によれば、封印装置の監視をする部屋があったようです!封印の地にも、祭壇跡地にも繋がっています!!」
「それは僥倖!」
ヘルムフリートはこれしかないと自分に言い聞かせ、指示を出す。
「ローガーが砕いた地面の先に、祭壇跡地に通ずる部屋がある!!そこから祭壇跡地へ戻るぞ!皆、穴を広げよ!!!ルブロンスパイダーが溢れ出てくるかもしれない!警戒は怠るな!!」
『はっ!』
何名かは砦の外へ降り、ツルハシや大槌で穴を手早く広げていく。
その間、ルブロンスパイダーを近づけさせないように、残りの騎士達で魔法での援護をしていると、ついに貫通し、ドワーフが2人ずつほど飛び降りられるぐらいの穴ができた。
穴から慎重に下をのぞき込み、魔物がいないか確認する。
「敵、視認できません!」
「よし!!そこから祭壇跡地へ行くぞ!皆準備しろ!」
「団長!!魔法陣、書き終わりました!」
「よくやった!騎士団の後に続き、下へ降りろ!」
「はっ!」
「カルドラン様!ここはもう駄目です!早くこちらへ!!」
ヘルムフリートは、バルドガルド王へ声をかけるが、バルドガルド王はローガーへの援護を止めようとしない。
「儂はここに残る!!早く行け!」
真っ直ぐヘルムフリートを見て言い切ったバルドガルド王の目は真剣そのものだった。
「な、何を仰っているのですか!王の貴方が死ぬ気ですか?!」
「ローガーに声が届いておらん!あやつが後退しない限り、儂はここに残る!!」
チラリとローガーへ目をやれば、一心不乱にルブロンスパイダーを屠っている。
「全く、たまには言うことを聞いてくださいよ……。近衛騎士団!半分はこちらへ残りカルドラン様をお守りしろっ!!死なせるなよ!」
『はっ!』
ルブロンスパイダーの数はかなり減ったとはいえ、騎士団百名で凌げるかどうかは何とも言えないところだった。
急いで再封印をして戻らなければ……
焦る気持ちを抑え、押し広げた穴から飛び降り、隊列を組んで只々先を急いだ。
こちら側へはルブロンスパイダーはあまり来ていないようだ。
途中、物置のようなゴチャついた一室を通る。
移動式の大きなカタパルトや、肩に担ぐ大砲のようなものなど、古代武器と思われる品々が並ぶ保管庫のようだった。
暫く進むと祭壇跡地へ着いた。
思ったよりも早く着いたものの、まだまだ魔法陣からはルブロンスパイダーが生まれ出ていた。
「騎士団五十名は私と共にルブロンスパイダーの駆除だ!他のものは研究員を守れ!!」
魔法陣へと一気に走り出し、ルブロンスパイダーを盾で押さえつけては袋叩きにして潰していく。
その間に研究員は魔法陣の羊皮紙を取ろうとするが、やはり全くビクともしない。
前回は魔石を手で取ろうとしたら弾かれて酷い裂傷を負った。
それならばと研究員は近くの魔導士へ尋ねる。
「手で触れられないなら、遠距離から焼き払うしかありません!羊皮紙を焼けますか?!」
「……やってみよう。ファイヤーボール!」
羊皮紙目がけて飛んだ火の玉は、羊皮紙を焼き始め、バチバチと黒い雷のようにスパークしていたものは綺麗に霧散した。
それと同時に中央祭壇の魔法陣の輝きも消え、ルブロンスパイダーが新しく生み出されることはなかった。
しかし、生み出されたルブロンスパイダーは消えずに襲いかかってくる。
「騎士団は残党狩りを始めろ!!研究員は再封印を急げ!!!」
そう指示が飛ぶやいなや、研究員は火の魔石を取り、台座の上を手で払って綺麗にしたあと、新しく書き直した羊皮紙を乗せた。
最後に魔石を置き直そうと手を伸ばした、そのとき——。
この世のものとは思えないほどの雄叫びが、耳を貫いた。
地面は震え、まるで大地が怒りに満ちているかのような声に、その場にいたドワーフ全員が悟った。
———龍が目覚めた。
「急げっ!まだ間に合う!!」
ヘルムフリートが叫ぶが、もう遅かった。
足元がせり上がり、身体が吹き飛ばされる。
祭壇は破壊され、そこから龍の腕が出て地上へ出ようと藻掻いているようだった。
「全員、戦闘準備!!古龍をここで迎え討つ!」
「だ、団長!それは無理です!!」
青い顔をした騎士の一人が進言するが、ヘルムフリートは退かない。
「ここで討たなければ国が滅ぶぞ!我らドワーフの誇りにかけて、ここで迎え討つ!!」
恐怖で腰の抜けた者、ただただ呆然と立ち尽くす者、泣き出す者を尻目に、ヘルムフリートは一人バトルアックスを構えて古龍へ挑む。
「魔導士はカルドラン様へ伝令を飛ばし報告!研究員!!祭壇は壊れたが、封印は可能か?!倒す方法は?!!」
矢継ぎ早に指示と質問を飛ばし、どうにか状況を打開しようと考えを巡らせるが、ハッキリ言って無理だとヘルムフリート自身分かっていた。
「次から次に……。呪われてるのかと思うね」
額からは汗が流れ、自分はここで死ぬのだと腹を括った。




