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神は愛を知らない 〜チートなし40代主婦。姿なき我が子を捜して突き進む異世界生存譚〜  作者: 忠犬
第四章 バルドガルド王国派遣編

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第百五話 崩壊まで秒読みの籠城戦

「大丈夫か?!」

 手を負傷した研究者に、宮廷魔導士が駆け寄り魔法の詠唱を行うと、たちまち裂傷は塞がっていく。

 すると突然、地面が小刻みに揺れだした。

 最初は小さい揺れだったが、どんどん激しさを増す。

 立っていられなくなるほどの揺れが襲ったとき、突然中央祭壇の魔法陣からルブロンスパイダーが次から次に湧き出してきた。

「まずい……。近衛騎士団!!バルドガルド王を安全なところへ誘導する!殿(しんがり)は私だ!!宮廷魔導士団!援護しろっ!!!」

『はっ!!』

 ヘルムフリートはすぐに状況を把握し、最も優先すべき王の安全を第一として、退避行動へ移る。

 魔導士達は的確に雷魔法でルブロンスパイダーを撃破しているが、次から次に湧き出ているせいで数がどんどん増えている。

「くそ……キリがないぞ」

 ヘルムフリートは襲いかかってきたルブロンスパイダーの脚を切り落としながら呟く。

「第三中継砦まで後退する!全員突っ走れ!!」

 その号令とともに一斉に走り出した一団は、先頭に副団長を据え、前に飛び出してくる魔物を撃破しながら先へ先へと突き進む。

 その様は飛び出してきたものは容赦なく弾き飛ばす、暴走列車を彷彿とさせた。


 第三中継砦まで戻ったとき、坑道内の魔物の掃討をしていた騎士団員数名と合流し、砦内に籠城した。

「王はご無事か?!全員いるか?!」

「ご無事です!全員います!」

 短いやり取りで素早く状況把握をしていく。

「研究員は直ちに魔法陣の修正を!それまで時間を稼ぐ!!魔導士は雷魔法でルブロンスパイダーを遠距離攻撃!近づけさせるなっ!弓兵は魔導士とともに遠距離攻撃!糸が届かないようにしろ!」

『はっ!』

ヘルムフリートは、今度は大柄なフルプレートアーマーを着込んだ騎士達へ指示を飛ばす。

「重装騎士、盾兵は門の防衛だ!絶対突破させるな!!」

『はっ!』

「怪我人、治療班、バルドガルド王は砦中央へ!!皆、覚悟は良いか?!我ら近衛騎士団の誇りをかけ、バルドガルド王をお守りしろ!!王国の盾たれ!!!」

『我ら最後まで!!!!』

 うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 と、地響きのような雄叫びが坑道内に木霊する。

「ルブロンスパイダーを視認!!魔導士団、弓兵!打てっ!!」

 ヘルムフリートの号令と共に、雷と弓の遠距離攻撃が振り注ぐ。

 壁や天井に張り付いているものを優先的に撃ち落とし、数を少しずつ減らしていくが、それよりも増える数のほうが多い。

「キリがないな……っ!」

 思わずヘルムフリートは愚痴を零し、苦々しい顔をしながら、手を強く握る。

「土魔法で坑道をできるだけ塞げ!出てくる数を減らすんだ!!」

 遠距離攻撃をしても、どんどんお構いなしに進んでくる蜘蛛の集団。

 それはまるで、死神の行進のように見えた。

 

「城壁に近づいてきたら油を撒くぞ!準備しろっ!!号令と共に火魔法を放て!」

 魔法陣を書き直すまでの時間稼ぎどころか、生存さえも危うくなり焦りが増す。

 しかし、司令塔が慌ててしまえば全員に伝播し、取り返しがつかなくなる。

それを分かっているだけに、ヘルムフリートは努めて冷静に振る舞った。

 絶望的な状況でも、どうにか打開策はないかと模索するが、これといって浮かばない。

「くそっ……!せめてバルドガルド王だけでも逃さなければ……」

 誰に言うわけでもなく、そんなことを苦々しく呟いたとき、後ろから力強い覇気のある声がかかった。

「儂はそこまで落ちぶれておらん」

 ヘルムフリートが驚いて振り返ると、バルドガルド王がそこにいた。

「バルドガルド王!!何をされているのです!砦内部で大人しくしていてください!」

 ヘルムフリートは慌てて近衛騎士達に中へ連れて行くよう指示を出すが、バルドガルド王は手で制し、近衛騎士達は王の命令に従い脇に控える。

「儂も参加する。なぁに、最前線に出せとは言わぬ。砦の上から皆を鼓舞し、魔法を使うくらいは良かろう」

「……そう言ってジリジリと最前線に出る気でしょう」

 ギロリとヘルムフリートがバルドガルド王を睨み、大人しくしていてくれと言わんばかりにため息をついた。

「……バルドガルド王、死なないでくださいね」

「バルドガルド王とは何を他人行儀な!いつも通りカルドランと呼べ!!」

ガハハ!と笑いながらバルドガルド王は、ヘルムフリートの背中をバンバン叩く。

「いたっ……。全く、カルドラン様には困ったものです」

 そう言うものの、ヘルムフリートの表情はどこか嬉しそうで、口の端が上がっているのが見て取れた。

 長年、ヘルムフリートはバルドガルド王に仕え、近隣の国々と小競り合いがあったときも、一緒に戦った仲だ。

 そうやって培われてきた信頼関係は強固なものであり、死線を潜り抜ける度、更に強くなっていった。


「さぁ、行くぞ……。ロックスピア!!」

 バルドガルド王が唱えると、周囲に円錐型の岩が五つ形成されていき、凄まじいスピードでルブロンスパイダーへ発射された。

 大砲のように発射されたそれは、ルブロンスパイダーに命中せずとも吹き飛ばすほどの威力で、当たれば足は軽く吹き飛び、ルブロンスパイダーの機動力を大きく削ぐものだった。

 その光景は騎士達にとって希望の光であり、更にバルドガルド王への崇拝を加速させた。

「我ら誇り高きドワーフの力を見せよっ!!ドワーフに栄光あれ!!!」

『ドワーフに栄光あれ!!!!!』

 皆が武器を掲げ、力強く吠えた。

 目は鋭く光り、まるでバーサーカーのような狂気すらも孕んでいるように見えた。


 それでもルブロンスパイダーは止まることはなく、数も減らない。

 どんどん砦に近づいてくるルブロンスパイダーの群れに、ヘルムフリートは決断した。

「城壁から油を撒け!!合図とともに火を放つ!」

 騎士達が急ぎ準備していた油の樽を豪快に投げ落とし、油をそこらじゅうに撒く。

「今だ!!放て!」

 放たれた火魔法は、油に引火すると一気に燃え広がり、次々とルブロンスパイダーを燃やしていく。

 キィキィと声を上げながらルブロンスパイダーが焦げていくが、後ろから来たルブロンスパイダーは天井や壁に飛びつき、炎を避け始めた。

「壁や天井から蜘蛛の糸を飛ばしてくるぞ!気をつけろっ!!」

 ヘルムフリートが叫ぶが早いか、四方八方から蜘蛛の糸が振り注ぐ。

 糸に絡め取られてしまった騎士達の悲鳴が坑道に響く様は、まるでこの世の終わりのようだった。 

 

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