第百二話 固定観念の破壊
「ロックゴーレムを包囲っ!正面四名、左四名、右四名で押さえつけろ!」
『おぉうっ!!!』
ヨルゲン隊長の号令と共に、一つの生き物かと見紛うほどの連携で騎士団は動き出した。
「残り二名は膝関節を狙えっ!!動けなくなればこっちのものだ!」
狙い通り、騎士二名の見事な一撃がゴーレムの膝関節を破壊し、巨体が大きくよろめき、膝をついた。
「でかした!これでよく狙える!」
ヨルゲン隊長はすかさず重装機械弓を構え、狙いやすくなった鎖骨と胸骨を繋ぐ関節を目がけて弓を放った。
ガシャアン!!と鋭い音が響き、放たれた矢は直撃した。
――が、岩肌に阻まれてあまり深くは刺さらず、隙間もそれほどできていない。
「固くて入りきらんかっ……!」
苦々しく嘆くヨルゲン隊長の脇を、私は猛スピードで走り抜けた。
「任せてっ!!」
私は地面を力強く蹴って跳び上がり、ゴーレムの胸元に刺さったままの矢の尾端めがけて、今日一番の渾身の右ストレートを打ちかました。
――ガキィィィン!!!
グローブが激しく明滅し、アースワームの時と同じ凄まじい衝撃波が発動する。
その衝撃に押し出されるようにして、ヨルゲン隊長の弓が岩の奥深くへと一気に突き刺さった。
「ジャン! 弓に雷魔法を撃って!」
着地しながら叫ぶ私に、ジャンは即座に反応した。
「なるほど、そういうことかっ!!」
ジャンが放った青白い雷魔法が、避雷針となった弓を伝ってゴーレムの内部へと直撃する。
激しい放電と共に、内側の魔核が粉々に破壊され、ロックゴーレムはただの岩塊となって呆気なく崩れ落ちた。
——その瞬間
『うおぉぉぉぉぉぉっ!!』
耳を劈くような勝ちどきを上げる騎士団と、後ろから来た一般市民の歓喜の声が合わさり、坑道内は音が反響しあって耳が悲鳴を上げていた。
「ミサキ殿!手助け感謝する!!」
ヨルゲン隊長がにこやかに駆け寄ってきて手を差し出すが、私の有り様をよくよく見て真顔になった。
「な、何があったので……?」
「あぁ……これ?これはぁ~……。ちょっと蜘蛛の消化液を被ってしまいまして……」
あはははと笑って誤魔化したつもりだったが、ヨルゲン隊長は顔を曇らせた。
「蜘蛛?蜘蛛型の魔物の名前は?」
ヨルゲン隊長は、眉間にシワを寄せたまま私に聞く。
「確か……ルブロンスパイダーです」
「何処に出ました?!怪我人は?」
私が言うや否や、ヨルゲン隊長のシワはより一層深く刻み込まれ、矢継ぎ早に質問を繰り出してきた。
「一般市民がロックゴーレムの戦闘に巻き込まれないように、後方に下げようと先導していたら出くわしました。討伐したので、大丈夫です。怪我人はいません」
いつの間にか戻ってきていたダニエルが、ヨルゲン隊長に報告し、私をギロリと睨む。
説教から逃げたのが更に機嫌を損ねたらしい。
「討伐したのですか?!」
ヨルゲン隊長は、かっと見開いた目に驚きの色を浮かべていた。
「なんとか。バルドガルド王から贈られたグローブがなかったら危なかったです。お陰で助けられました」
私は素直にそう述べると、ヨルゲン隊長はもっと話を聞きたそうにしていたが、すぐ騎士団長の顔に戻った。
「そうですか……。気になるところですが、先を急がねばなりません。その話はまた後ほど」
ヨルゲン隊長は、そう言って騎士団に号令をかけ指示を飛ばしていく。
指揮官としても、戦士としても非常に優秀な方のようだ。
ここまでの行程でアースワームの大量襲撃を受けても、一般市民が八十名程度と大所帯であるにも関わらず、死亡者を出していない。
怪我人が数名出た程度で済んでいるのは、クロの功績が大きいとはいえ、ヨルゲン隊長の指揮官としての力量、戦況を把握する目、そしてあの重装機械弓での遠隔攻撃能力の高さ故だろう。
モン○ンでは弓を愛用していた私としては、是非とも一度ご教授願いたいものだが、どうせ扱いきれない。
ゲームと現実は違うのだ。……悲しい。
その後はクリスタルバットが出る程度で強い魔物の襲撃はなく、第一中継砦へたどり着いた。
ヨルゲン隊長は一般市民を第一山岳警備隊へと引き渡し、警備隊隊長へこれまでの報告をする。
「アースワームの大量襲撃にロックゴーレムとルブロンスパイダーまで?!なんでそんなことに……」
警備隊隊長は眉根を寄せて、信じられないというように呆然と地面の一点を見つめていた。
視線の先が坑道の深層——古龍のいる場所を指しているのかは、警備隊隊長にしか分からない。
「通常、地上に近い第三坑道でロックゴーレムやルブロンスパイダーが出るなんてありえない。何かが起こる前にすぐ避難をしてくれ」
「分かった。すぐ出よう。……あとは頼んだぞ、死ぬなよ」
「あぁ……。お前もな」
二人はそれぞれ武器を胸元へ掲げた。
「王国の盾たれ」
「最後まで」
そう言って武器を軽く当て、それぞれ任務に戻っていく。
その光景に、騎士団の忠誠心と覚悟が垣間見えたような気がした。
「さぁ、俺達もまたひと踏ん張りだな」
ダニエルがため息を吐きながら、腰を下ろしていた岩から立ち上がると、ジャンは「もう少し気合を入れたらどうだ」と呆れたように言った。
「俺に説教する前にミサキに説教しろ。あんな賭けみたいな戦い方してたら、いくら命があっても足らねぇぞ」
ダニエルは私をギロリとまた睨みながらジャンに告げ口を開始した。
——まずい。
と思ったときにはもう遅い。
二人からのお説教が始まった。と、同時にヨルゲン隊長の指示がとぶ。
「我らはこれより第三坑道から漏れ出てくる魔物を全て叩く!一般市民に危害が及ばないよう、尽力せよっ!」
『はっ!』
「貴君らの働きには大変感謝している。全て終わった暁には、私の秘蔵の酒を飲ませよう!」
『おおぉぉ!!』
流石はドワーフといったところか、酒に関してはやはり譲れないものがあるらしい。
皆やる気に磨きがかかって、目がギラギラしている。
ヨルゲン隊長は満足げに頷くと、こちらへ振り返り、まっすぐ歩み寄ってきた。
「フリージア使節団御一行!」
「は、はいっ!?」
呼ばれるとは思っていなかったため、反応が出来なかったポンコツのダニエルと私。
ちゃんと返事を返したのはジャンだけだ。
「人族と侮っていた私を許してほしい。貴殿らは今日から我らと同志だ。よろしく頼む」
ヨルゲン隊長が深く頭を下げると同時に、他の騎士団員達も頭を次々と下げ始めた。
人の固定観念とは中々覆らないものだ。
国が違えば考え方も、宗教も、生活様式もまるで違う。
それでも、こうやって死線を潜り抜けることで、お互いの信頼を勝ち取ることができたことに、ひどく感銘を受け涙ぐんでしまった。




